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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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開会式

 前回のあらすじ


 武人祭当日、亜竜自治区は大変な盛り上がりを見せていた。お祭り騒ぎの中、買い替えたライフストーン片手に楽しむ晴嵐。買い食いしつつ参加者を眺めていると、その中に一人知った顔を発見する。

 ユニゾティアにやってきた初期に関わったオークの若者……スーディア・イクスの姿が、隊列の中にあった。

 今回の『武人祭』は規模が大きい。

 参加人数は月によってまちまちだ。今回は平均の倍、約四百名が祭典に臨むという。巨大コロシアムに並ぶ戦士たちは、開会の言葉を聞いていた。隊列の中にいる、一人の若いオークも例外ではない。


「よくぞ参られタ……強者を求メ、己を鍛エ、証を求む者ヨ!」


 反響する声。コロシアム内に音響が高らかに満ちた。覇気の籠った声明は、参加者たちの胸を昂らせる。むさ苦しい益荒男の群れの中で、参加者の一人のスーディアも、静かに闘志を燃やしていた。


「長く語るのも無粋故、祭典の流れを簡潔に申し上げル! 今日は予選を行イ、本戦は二日後となル。まずは参戦者皆を四グループに分ケ、全員による乱戦が予選ダ。一グループにつき四名が勝ち上がりとなル」


 参加者の一部からどよめきが起きた。今回の参加人数は多く、四分割しても百名を超える。予選を超え、本戦へ出場するには、その中から最後の四人になるまで争わねばならぬ。言うまでもなく厳しい条件だ。気を引き締めるスーディアは、周囲の何名かから緊迫した気配を感じ取った。


「判定はこの巨大コロシアム……『ディノクス』固有の『大闘技場』の魔法により自動で行われル。亜竜自治区で暮らす者は存じているであろうガ、細かな仕様まで知らぬ者もいよウ。実戦と異なる仕様も多い故、心して聞くと良イ。

 この魔法の発動中は『肉体に傷つかぬ』故、遠慮は要らヌ。各々鍛え上げた武技を存分に奮イ、敵対者を打ちのめすのダ。その闘争において『致死に至る攻撃を受けた場合』『戦意が挫けた場合』『意識を失った場合』脱落となル。該当者は即座に転送魔法が発動シ、控室へ強制的に移されル」


 周辺に目を向けると、参加者の反応がまばらな事に気が付く。顔を上げ聞き入る参加者だけではない。狙い定めるような目線で、これから戦う相手を見定める者もちらほらといる。

 そうだ……ここにいる面々とは、これから僅かな椅子を奪い合い、蹴落としあうライバルなのだ。もちろんルールを把握する事も重要だが、敵の様子を探る事も軽視できない。既に戦いは始まっている――自覚した途端、スーディアの胃の底がひやりと冷えた。


「だが『肉体の負傷がない』と言う事ハ、戦術に大きな影響を生ム。出血での消耗ヤ、相手の骨や筋を切り裂キ、行動を制限することもできヌ。苦痛で相手の心を折れば失格判定を引き出せるガ、実戦より効果が低いことを留意されたシ」


 若いオークが緊張した気配を出すと、観察に回る面々の目線が刺さった。熱く盛り上がる開会式の裏では、静かな探り合いが続いている……スーディアの下へ歩み寄る誰かの足音に、彼はじっと構えていた。


「逆に『武器や防具は破損する』為、これを前提にした戦術は有効であル。死の危険がないと驕リ、踏み込み過ぎれば得物を失う事になろウ」


 ぴたりと足音が止まり、ガシャリと金属の音が鳴った。身に着けた防具の音だろうか? わざと立てたに違いない。いったい何の目的で……?


「さテ、長い説明はこれぐらいとしよウ! 一回目の予選は一時間後! 希望する者から順に舞台へ上がると良イ! 良き闘争を戦士たちに期待すル!!」

「「「「「うおおおおおおぉおおっ!!」」」」」


 歓声と咆哮の混じった叫びが、闘技場内にこだまする。巨大な感情のうねりの中、ゆっくりとスーディアは振り返った。

 足音と気配の正体は、全身を覆う金属鎧を纏っていた。体格はスーディアと同じぐらいだろうが、むさ苦しい鎧の分大きく見える。隙間一つないフルフェイスの鉄兜からは、妙に飄々とした、好意を含んだ声が聞こえてきた。


「ふむ……初代の文言は真であったか?」

「何?」

「失礼、それがしの都合に過ぎぬ。お気に召さるな」

「……なんの用です?」

「いやなに……珍しい武器と思うてな。まさか焔刃ほむらばの使い手にまみえようとは」

「焔刃?」


 無意識に腰の剣へ手を伸ばすスーディア。馴染みのない名称に触発され、彼の脳裏に浮かぶ物があった。

 彼が保有する剣は、グラドーの森内部で手に入れた逸品だ。未知の特性を有する剣は、数奇な偶然を経て彼の手元にある。だから……特性どころか、剣の銘さえも良く知らない。確かなのは上等な逸品な事くらいだ。

 この男は、それを知っている……? 戸惑いを見せるスーディアに、調子を崩さず全身鎧は詫びを入れた。


「失敬、惑わせる意図はなかった故、許されよ」

「俺が未熟なだけです」

「……おっかない返しよな。謙虚な輩が一番怖い」

「そういうあなたは得体が知れない」

「おうともさ。牙を隠している輩は皆、得体が知れぬ物よ。胡散臭いのは某だけではない」


 自分の恰好を揶揄しつつ、スーディアとの距離を保つ鎧男。これから争うであろう相手と間を保ったまま、これからの事を男は語った。


「ま、その胡散臭い闇鍋に自分から飛び込んでおいて、言える事ではないか。順番はどうした物かな?」

「……」


 顎の辺りに手を添えて、考え込むしぐさを見せる。鎧の奥に隠れた眼光をスーディアは感じていた。恐らくこの男は、既に腹を決めているのだろう。試されていると直感し、彼はあえて口にした。


「初戦で行きます」

「!」


 鎧の隙間から口笛が聞こえた。小さく愉悦に喉を震わせ、鎧の男はくっくと笑って告げる。


「良いのか? 恐らく初戦は血の気の多い輩が多い。けんに回るのも手だが……」

「変に気圧されたくない。それとも、何か不都合ですか?」

「むしろ……いや、ここから先は言うまい。某も喋り過ぎた」


 思わせぶりな発言を最後に、全身鎧は軽く頭を下げて去る。

 熱気に包まれた水面下のやり取りを終え、もう一度スーディアは気を引き締めた。


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