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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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休息と読書

前回のあらすじ


 過去の夢から覚めた晴嵐は、亜竜種のうろつく医療施設で横たわっていると気が付く。処置の内容を聞きつつ、姿勢の違う知的な亜竜種に戸惑う晴嵐。質問をやり過ごし、ひとまず休養を取ることにした。

 しばらく医療設備のベットで、ぼんやりと養生中の晴嵐。

 が、どうも病院と言うのは退屈なもので、休息が必要とわかっても耐えれる物ではない。あの亜竜種と会話して以降、長らくぼけーっと街並みを眺めた晴嵐は、徐々に観察と興味をもって窓の外を見つめ始めた。

“亜竜自治区”の呼称通り、住人は亜竜種が非常に多い。

 独特の風貌もあって、否応なしに彼らの恰好は目につく。全体的に薄着が多く、鱗や尻尾を隠さない。地面に垂れ下がった尻尾の先端に、厚めの布を巻いている者が多く、一人ひとり異なる色合いから、一種のファッションにも思えた。

 また、亜竜種以外の人種も、どこか荒々しい風貌が多い。好戦的そうな……悪く言うなら「野蛮そうな」面構えの人物が、しょっちゅう見受けられた。


(普段からこうなのか、「武人祭」とやらで血の気の多いのが集まってるのか……わからんな)


 この祭りの詳細は知らないが、「武闘会」のような舞台と考えていいだろう。腕試しや名を上げるため、自らの鍛錬や強敵と戦う為の……荒々しい連中が好む祭典と見て間違いない。その祭典は数日後に開かれるという。

 つまり窓越しに見る世界は、平常通りとは限らない。今回の大会に合わせて、『先んじて現地入りした面々が亜竜自治区をうろついている』とも捉えられる。


(こういう祭りを主催する以上、日ごろから治安が悪いのかもしれんが……)


 残念ながら判別がつかない。武人祭とやらが終わった後も、何週間か様子を見る必要がある。なんにせよ明らかなのは、この地域の空気は晴嵐の廻ったユニゾティアと、どことも違う空気がある……その一点のみだ。


(ホラーソン村は「のどかな村」。城壁都市レジスは「逼塞した空気のある都市」。ここは……荒っぽい連中のたまり場か?)


 ちょうど窓の先、開けた広場に奇妙な箱が配置されていて……確か「闘技場」と言う魔法の道具だったか? 何度か起動する場面も目にし、野次馬が集まる中戦う光景も見られた。……どうやらこれが、この地域の「普通」らしい。

 気になる事はまだある。

 どの亜竜種も「頭部が前に出た前傾姿勢」が自然体に対し、この養生施設で働く亜竜種の一部は、その他種族と同様の「直立二足歩行」に近い姿勢を取っている。この体系の亜竜種は発音も流暢で聞き取りやすい。今も通り過ぎる彼らに観察の目を向けると、一人暇そうにしていた亜竜種が、晴嵐側に寄って来た。


「どうか、しましたか?」

「え、あー……」


 黄緑の鱗の亜竜種は、高めの声で晴嵐へ話しかける。特に用もないが、相手も暇なら雑談しても良いだろう。まずは軽く性別について触れてみた。


「間違っていたらすまん。お主は女性……だよな?」

「え? あ、はい。そうですよ」

「よかった。どうも亜竜種は、性別がぱっと見でわからん」


 女性は声が高め、男性は低めの傾向は他の種族と同じだが、どうも特徴的な外見に意識を引っ張られてしまう。エルフやヒューマン、吸血種は問題なかったが、こと亜竜種については全くわからぬ。亜竜種のスタッフも曖昧に笑って、彼の話に付き合った。


「異種族の方によく言われます。一応体格や声が違うのですけど……」

「個人差もあるからな……声でなら確実に判別できるが」

「あまり気にしないで良いですよ? 私たち亜竜種も慣れてますので」

「そうなのか?」

「そうですよ」


 判別困難なのは、晴嵐個人の意見ではないようだ。軽く息を整えて、彼は尋ねたい本題に入る。


「ついでにもう一つ聞きたい。なんでお前さんは体勢が違う?」

「えぇとですね……知恵を得るために矯正したんです」

「うん……うん?」


 意味が分からない。姿勢を変えた程度で、賢くなれるなら苦労はしない。彼の困惑を汲み取った亜竜種の女性が頭を掻いた。


「わからないですよねー……えぇと、歩けますか?」

「問題ない。どうする気だ?」

「本の貸し出しスペースがあります。ついて来てください」


 重たい体を起こし、ベットの上から降り立つ。倦怠感にうんざりしながらも、晴嵐は先導する亜竜種に続いた。

 簡単に説明を諦めるあたり、一口の説明が難しいのだろう。養生中の退屈を潰すに本はもってこいだ。他にも興味を引く本があるかもしれない。

 やがて着くのは小さなカフェを思わせる空間。丸いテーブルと椅子が並び、背の低い本棚がいくつかある。


「こちらです。基本はここで読んでください。気になる本なら、一冊まで部屋に持って行っていいですよ」

「助かる。暇で暇でたまらんかった」


 同じ思いの患者も多いのか、苦笑を残して彼女は仕事に戻る。ずらりと並んだ本を吟味し、ぱっと目についた本をいくつか手に取って座った。

その内の一冊はかなり重い。『亜竜種体型学』と題名を持つ厚い本は、いかにも学術的な匂いが漂っている。詳しく知識を得られそうな反面、読み解くのに苦労しそうだ。


(ま、時間はある。じっくりとかみ砕いて、物にしてやろうじゃないか)


 頭に入らなければ、別の本で気晴らしを挟めばよい。この地域の常識も仕入れておけば、今後動きやすくもなるだろう。退屈しのぎと実益を兼ねて、晴嵐はしばらく読書に励んだ。

次回は、晴嵐の読んだ本を掻い摘んだ内容になります。どうでもいい人は飛ばしても大丈夫ですよ~

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