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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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追跡

 前回のあらすじ


 依頼を了承し、準備を進め完了させる晴嵐。非公式の依頼なので、大々的な見送りはない。シエラだけが小さく声をかけたが、晴嵐は冷たい態度のままだった。

 兵士長からの依頼をこなすため、晴嵐は村を出て道沿いを進み、シエラと分かれた木の下まで戻った。

 ――こんなこともあろうかと、別れ際の木に傷をつけておいたのが、功を奏した。十字の新しい切り傷を確かめ、自分がいた痕跡も確認する。そのまま二人分の痕跡を追い、道を外れて森を進む。

 来た道をなぞるように、森の中へ足を踏み入れていく。別の足跡にも留意しつつ、本命の情報元、兵士長の前で発見した足跡を探した。

 まだ雨も降っていないし、追跡する余裕はある。けど、今回の依頼には時間制限が存在し、依頼主も「出来れば帰ってきてほしい」とも言っていた。焦らず、速やかに、仕事を果たすに越したことはない。念のためもう一度、内容を確認しよう。


(目的はマーカーを、オークの拠点に見つからないように配置すること)


 村と一度戦闘をこなしていることから、敵対状態なことは疑いようがない。晴嵐の姿を発見されれば、仕事をこなしても逃げられる可能性がある。そもそも、攻撃にさらされる危険もある以上、発見されずに逃げ切るのが最上だろう。

 その上で……追加で何かできることはあるか、彼は考える。シエラとの会話を元に、晴嵐は想像力を働かせた。


(シエラは知った顔が捕まっていることを、否定はせんかった。だがわしに明かさなかったということは……)


 ただの村人や、同僚なら隠す必要がない。晴嵐が不審者扱いだったことを考慮すれば……攫われた人種は自ずと絞られる。

 恐らく、連れ去られたのは要人だろう。不審な彼に救出を依頼しないのは道理だし、晴嵐のやり方は……お上品な方々と合わないに決まっている。詳しい経緯は知れないが、他に思いつく動機がない。

 数人攫われたとも告げていたが……それが本当かどうか、晴嵐に確かめる術はない。発見した拠点状況次第では、要人の救出を考えてもいいだろう。

 他に出来るとすれば、食料に毒物でも盛るぐらいか。水源を汚染したり、罠を張り巡らせるのも考えたが、後々軍を動かすとシエラは言っていた。あまり派手にやると、思わぬ被害を出してしまうかもしれない。トラブルを避けるためにも、晴嵐は行動方針をこのように定めた。


 1 目標拠点にマーカー配置。敵勢力の状況観察

 2 陣地に隙がある場合侵入。露骨な痕跡を残さぬよう留意しつつ、トラブルを装った破壊工作や、使えそうなブツは頂いていく。

 3 囚われの要人がいる可能性大。場合によっては救出も考える。


 ……こんなところか。

 他に考えるべきことは『オーク』がどのような相手か、危険度はいかほどか?

 残念なことに、晴嵐はオークの詳しい情報を知らない。一応創作物のモンスターで、主に悪役と記憶している程度だ。丁度シエラと話をしていた箇所に到着し、痕跡を洗いながら、彼女との会話も思い出す。

 石ころを片手に、今回のオーク集団に関する特徴を喋っていた。


“奴等は魔力の扱いが下手だし、今回敵対した集団は純粋な武闘派に見えた”


 魔力なんてのはよくわからないが、所謂ファンタジーめいた異能力……なのだろう。実用品でありながら、火が出るナイフもこの系列なのだろうか? 彼のいた世界にあれば、幾分か楽が出来ただろうに……

 余計な思考を頭から追い出し、オークへの考察を続ける。武闘派集団で、人さらい。特徴を思い浮かべていると、晴嵐の脳裏に連想される輩がいた。終末世界で、似たような集団に覚えがある。

 それらは襲撃者、あるいは略奪者と呼ばれる連中だ。他者の拠点に押し入り、暴れるだけ暴れて、人や物資、資源をかっさらっていく。決まった拠点は持たず、獲物が少なくなれば移動して、移った場所で再び略奪を行うのだ。

 一言で言うなら、蛮族。人の領域に土足で踏み入る、嫌われ者の集まりだ。他に居場所のない奴等も、だいたいこの集団に迎合する。


(ただ、アレは崩壊した世界での集団じゃからな……完全な同一視は危険じゃろう)


 社会が健在な世界と、そうでない世界での集団は異なる。ましてや未知の種族の集団が、晴嵐に正しく理解できるとは思えなかった。

 が、相手が集団と知っていれば、それなりのやりようはある。見つけた足跡を洗い直し、足の大きさを確かめ、向きを確かめ、気配を確かる。痕跡は捉えたのだから、後は追うだけだ。

 相手が個人単位なら、罠を疑わねばなるまい。自分が刻んだ足跡を二重に踏み、別方向に誘導することも可能ではある。野の獣と知性を持つ敵との違いは、やはり欺こうとするか否か……この一点が最大の違いだ。


(とはいえ想像通りの集団なら、ほとんどが脳筋じゃろう。一応警戒はしておくがの)


 ところが、これが集団となると……全員の意識が高く無ければ機能しない。誰か一人でもマヌケがいれば、その他全員の努力が無駄になる。部族集団のイメージからして、そこまで徹底的に注意してはいないはずだ。

 薄暗い森の奥深く……オークたちの拠点へと、終末から来た男が迫っていく。夕闇に染まる森林の闇に紛れ、一歩ずつ、確実に、痕跡を追って目標を探した。

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