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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第四章 亜竜自治区編

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逃走

前回のあらすじ


 横転する車両から抜け出す客たち。襲い掛かる野盗を、亜竜種の戦士が立ち向かう。最初に一人が逃げ出し、残された全員が外に出たときは半ば包囲されていた。左手を負傷した晴嵐が「自己責任で何とかしろ」と、甘えたセリフの乗客を突っぱねる。起こる乱戦の最中……晴嵐は一目散に逃げだした。

 左手に傷を負った晴嵐に、二人の野盗が気が付いた。

 反撃か抵抗を予想してた者たちは、初手から逃げる選択を読んでいない。煙の中の乱戦に目が行き、ほとんどの者は「逃げたぞ!」と叫んだ声を聞き流す。大乱闘下で冷静に耳に入る筈もなく、包囲を解いて男を追うしかなかった。

 無視された哀れな下っ端の苦難は続く。こちらを見たぞと言われては、何もせず逃げる訳にもいかない。条件反射で追加の煙を投げ、反対の右手で刃物をノールック投擲。適当な攻撃だが、要は逃げ切るまでの時間稼ぎだ。


(とりあえず振り切る。あの数は勝てん)


 左手はまだ動かせるが、痛覚はじりじりと頭に流れてくる。処置が必要なのは明らかで、最悪な事にポーションも、横転の際に割れてしまった。

 乗客が薬を持っている保証も、また分けて貰える確証もない。その前にとっ捕まって、身ぐるみ剝がされる危険もありえた。それだけは何としても防がねばならない。


(ライフストーンと紙のメモに、今までの集めた情報を纏めておるからな……)


 それを失うことは避けたい。いくら若返ったとはいえ、すべての情報が頭に残りはしないのだ。メモ書きは必要な行為なものの、今回に限ってはリスクとなってしまった。

 書き込まれた情報の中には「本当の五英傑」に関するメモが、はっきり残ってしまっている。フリックスに積極的に広めるなと、釘を刺された情報がだ。

 野盗どもは学のない連中で、仮に盗まれても不可抗力と言い訳できるが……この場を自力で凌ぐに越したことはない。乗客を助ける理由もないし、仮に美しく助け合ったとしても、その後「野盗に罪を擦り付けて、追いはぎしてやろう」と、魔が差さないとも限らない。

 ならば……確実に身を守る最善手は『逃走』だ。晴嵐はそう判断を下した。

 素晴らしきかな三十六計。半端に迷うくらいなら、最初から逃げた方が逃走成功率は上がる。


(ま、それなら手を潰される前に逃げたかったがの。一応前置きもしたし、最低限の義理は果たした)


 ここから先の行動は自己責任――彼の発言は、乗客に語り掛ける発言ではなかった。早い話「自分は自己責任で逃げるから恨むなよ」と、恐ろしく身勝手な前置きをしたのだ。

 ズキズキと痛む左手も振り、全力疾走で草原を駆ける晴嵐。正規の道は見通しが良すぎるし、後で乗客と見つかっても揉めるだろう。一度野に下り、騒動をやり過ごしてから、亜竜自治区に向かえばいい。ライフストーンがあれば、後で方角を確かめることもできよう。


「くっそ! 早い!?」

「ちょっと! 後でお頭にどやされるよ!」

「んな事言ったって……!」


 統率が甘いのか、元の頭の出来が悪いのか、野盗どもの判断は遅い。

 追うなら追う、無視するなら無視する。即断即決は現場の基本だ。揉めてる間に晴嵐は遠ざかり、あっという間に草原の中へと消えていく。

 追跡の気配なしと悟った晴嵐は、全力疾走から速度を落とす。一度振り切ったのなら、最大速力で逃げる必要はない。距離さえ取れば、相手は潜伏を考慮し、虱潰しに探すしかなくなる。ならば休憩も挟まずに、程よい速度で一直線に距離を取るのが正解。他の野盗が出る危険を考え、警戒できる速さで晴嵐は逃げていった。

 かさかさと草原を駆け抜け、彼はより草丈の高い領域に踏み込む。追跡を切るには、視線を断つ遮蔽が必要だ。歩きづらいが仕方ない。葉っぱが切り傷を作るのも構わず、より深く草原の奥へ進んでいく。踏みしめる地面の質が変わった途端、彼は足を止めた。

 奥の方は沼地になっている……乗客の一人が漏らしていた事は事実だった。若干のぬかるみを感じた所で、彼は危険を察知する。


(下手に沼には入れん。底なしだったら、おしまいだ)


 あまり終末世界では見ない環境だが……知識として恐ろしさは頭に入れている。

 ぬかるんだ地面は踏ん張りが効かず、泥上の地面は一目で危険と判別が難しい。しかしうっかり足を踏み入れようものなら――自重でじわじわと沼に沈んで、もがけばもがくほど深みにはまる。無駄に体力を消費した挙句、山ヒルや虻、蚊に集られながら、最後は底に飲み込まれて窒息死……

 そんな死に方はご遠慮願いたい。これ以上の踏み込みは危険と晴嵐は判断した。数歩引いて草地に戻り、ヒートナイフで草を払う。ポーションこそないが、私物はすべて回収済みだ。左手の不自由さえ耐えれば、凌ぐことはできるだろう。

 呼吸を整え、まずは戻るべき方角を確かめようとした晴嵐。ライフストーンを掲げて念じた。

 が――動かない。

 いや、動きはするのだが、方向を指し示さない。カタカタと緑色の石は揺れるが、一向に方角が定まらないではないか。

 不自然な挙動を見て、他の動作も確認する。地図機能、メモ機能など、今まで使えていたように念を送っても、砂嵐のようにノイズがかかるだけで、晴嵐の指示通りに動作しない……


(衝撃で壊れたか?)


 ヤワな道具ではなかったはず。焦って表面を擦ったりしても、不調の石ころは直りそうにない。バチが当たった、とオカルトめいた文言が一瞬浮かぶも、別の原因があると晴嵐は首を振って……そして思い出した。

 いま彼の使うライフストーンは、テティ・アルキエラのお下がりだ。古い物だから早めに買い替えた方がいいとも、彼女は晴嵐に助言を残した気がする。

 今にして思えばだが……城壁都市レジスでメールを送った時、ノイズが走っていた気もする。あれが予兆だったのか? 腹の底から晴嵐は「クソが」と叫んだ。


「こんな時に限って……!」


 突然の窮地にどっ、と汗を流す晴嵐。

 はたして彼は無事に、亜竜自治区へ辿り着くことが出来るのか……

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