第三章 ダイジェスト・14
事件の処理に追われる緑の国。その中で事件の真相を知るムンクスもまた奔走していた。今回の事で、晴嵐やテグラットを表沙汰に出さずに済みそうだ。
犠牲者被害者の事を気にする晴嵐。が、話し相手の『デュラハン型ゴーレム』フリックスは、やんわりと一線を引いた。あくまで晴嵐は、レリーを排除する計画の協力者であって、その後の仕事は役割外。もう関わる資格はない。
彼ら二人が話し合っているのは、晴嵐との契約を果たすためだ。
晴嵐が求めていたのは『千年前の話』である。本当はムンクスから聞きたかったが、彼は多忙を理由に、従者のフリックスに任せるようだ。
ムンクスではうっかりで、何か危険な事まで喋りかねないのだろう。少々の不満を見せる晴嵐に、フリックスは『本当の五英傑、無垢なる剣』の話を始めた。
晴嵐はユニゾティアの過去、千年前の英雄たちを思い浮かべた。五英傑と呼ばれる人々は、どいつもこいつも英傑と呼んで差し支えない。しかし『本当の五英傑』という呼称に、晴嵐は『六英傑とは呼ばないのか?』と質問する。五人の英傑は嘘だったのだろうか? と質問すると、慎重にゴーレムが答える。
多少背びれ尾びれが付いているが、英傑の功績に嘘はない。しかし戦時中であれば人は、華やかな英雄を求める物である……
ゴーレムの人権運動と、ユニゾティアの技術発展に貢献し、相手の異能力を封じた英傑『ミノル』は、民間から見ると当時としては些か地味だった。他の英傑が『二つ名』を持っているのに対し、彼だけ本名のみだったのは、後から序列が繰り上がったから、らしい。
存在が消えた五英傑『無垢なる剣』は、オークの戦士だった。独特なセンスを有し、敵の殺気や危険を即座に察し、味方が窮地に陥ればすぐさま駆けつける。まるでおとぎ話の主人公めいた戦士の『無垢なる剣』は、なぜ消えなければならなかったのか?
その理由の名残は、城壁都市レジスにある。歴史資料館にあった『城壁都市になる前の、レジズ大森林。そこに対するオークの侵攻記録』は『欲深き者ども』の侵攻の後、波状攻撃のように行われたとされている。
しかし真実は異なる。本当は――『オークは、欲深き者ども陣営』だった。波状ではなく、彼らは『欲深き者ども』の手先として、千年前の過去、この地域に攻め込んでいた。
『二次種族』……つまり『欲深き者ども』と同時期に出没した種族のオーク。それと同時に侵攻したという事は、別の世界から来たという彼らと同じなのか? 答えはNOらしい。異界出身の皆が、口をそろえて自分の世界にオークはいない、と証言している。一説によると同時期に生まれた種族、獣人と同じではないか? と言う意見があるらしい。
男性しか生まれない種族のオークと、女性しか生まれない種族の獣人。特殊な性質を持つ両種族が、元が一つではないか? いまいち納得しかねる説だが、あくまで一説。何か隠し事の気配もあるが、ひとまずは話を英傑に戻した。
真の英傑『無垢なる剣』は『欲深き者ども』陣営に所属していたが……彼らはあまりに人望がなさ過ぎた。性格は横暴で、なおかつ『測定不能の異能力』を用いて好き放題やった。結果、配下からも離反され、仲間内からも分裂が発生。そしてユニゾティア連合に押し込まれ『欲深き者ども』は散り散りになった。
戦争が終わった。だが問題が起こった。オークの処遇である。
当時のユニゾティアでは『オーク=欲深き者ども陣営』の図式が完成していた。しかし同時に離反した英雄『無垢なる剣』の存在も認知していた。英雄への敬愛と、侵略者の配下種族への憎悪に揺れるユニゾティア。オーク粛清の流れが主流になる中、真の英傑は姿を消す。自らの功績と名声、手にした財産を対価に、種族を許して欲しいと手紙を残して。願いは聞き届けられ、オークは千年後、現在のユニゾティアまで命を繋いでいる。
報酬を受け取った晴嵐だが、この事実は重いのではないか? と質問する。だがゴーレムの従者は、積極的に吹聴しなければ大丈夫と返答した。
まず、この真実は『緑の国』にとっては、ある程度公認の秘密だという事。千年以上の寿命を持つ種族、エルフにとっては体験した世代が生きている。歪みを生む『伝統生活区』の存在は、真実の封じ込めにも一役買っていた。
オークの英傑の話も、完全には抹消されていない。創作上の英雄という形で、話が各所に残っている。民間での人気が高すぎた事が原因で、最初は規制していたが押し切られたそうだ。
これで話は終わりかと思いきや、フリックスは晴嵐に忠告をする。レリーの事件で、城壁都市レジスの政界は揺れている。その中で老エルフ一派が、不穏な動きを見せていた。先ほど説明した真実……『オークを侵略者』としたい、戦争当時のエルフたちに危険な兆候があるという。厄介事が起こる前に、早めの退去を勧められた。
一日二日で急転はしないが、一か月後は分からない……その言葉を聞いた晴嵐は、最後に一つ尋ねる。別れる前に、ムンクスやテグラットに会わせてほしいと。
最初から説得を頼まれていたゴーレムの従者は『手間が省けた』と顔を綻ばせる。余計な情を見せてしまったと、晴嵐は天を仰いだ。




