第三章 ダイジェスト・13
夕焼けの会議室。二人の吸血種しかいない場所で、いなくなった一人の事柄について言葉を重ねる。事後報告を謝るムンクス。判断を正しいと告げる『五英傑』のダスク。ただし、私兵団の代用が必要と訴えるが、元からいた私兵団があまりに弱すぎると返す。検証のためにダスクは、城の地下――つまり現場へと足を運んだ。
ゴーレムの見張りやすれ違う役員に目を向けながら、この城の歴史を語る英傑。元はハリボテだった城は、千年前の戦争で実用可能なものへと改造されたのだが……それが裏目に出てしまった。
感傷を打ち切り、魔導士は腰からレイピアを抜き放つ。そして呪文を唱え始めた。失われた魔法技術。輝金属なしで魔法を扱う技術、詠唱。記憶している者も少なく、仮に使ったとしても輝金属を通した魔法の、下位互換になりがちで、すっかり廃れてしまった技術の一つ。それを用いて『黄昏の魔導士』は、自らの持つ『測定不能の異能力』を発動させる。彼の持つ異能力は『他者が扱った異能力を、魔法として組み替えて発動する』――つまり、コピー能力だ。奇跡めいた力を使い、彼は『時視の窓』の異能力を発動させた。
他の異能と比べ、謙虚な性能をしているソレは『空間を指定し、そこから時間や環境を好きに設定して、過去を覗き見る』と言う異能。検証にぴったりな異能力を用いて、黄昏の魔導士は真実に触れていく。昨日の突入や騒動を眺める中、一人のヒューマンが混じっている事に気が付いた。人狩事件の生存者と説明したが、彼のあり方をまるで吸血鬼狩人と評した。宿敵ではあるが、今は滅びた世界の好敵手に、不思議と懐かしさがこみあげてくる。そんな『黄昏の魔導士』だけけど、彼の背に『ビキニの融合霊』の姿を発見して青ざめた。ムンクスには見えていない『亡霊』に凍り付き、火急の用事が出来たと立ち去る。
自宅へ帰った『黄昏の魔導士』は、複数の古い術式を重ね掛けしていた。少なくないコストを支払い、ユニゾティアの上側……すなわちこの世界の神々がおわす領域に足を踏み入れた。
どれだけ地上で英雄視されていようとも、神から見れば下層の出来事に過ぎない。だが『黄昏の魔導士』が発動させた魔法――世界意思接続魔法を用いる事で神側へ移動したのだ。
それは『黄昏の魔導士』のいた世界で、最後の希望として用いられた術だったが……今はほろ苦い思いしか湧いてこない。責任感で立っている吸血種の英雄は、この領域に立ち神々に上告しに来たのだ。彼が見た『ビキニの融合霊』を報告するために。
神の世界の玄関口で、相手側を待つ魔導士。その元に一人の女性が降りてくる。やって来たのはこの世界の神『ユニティ』ではなく、彼女に召し抱えられた、かつての仲間……『聖歌の歌姫』の魂だった。
身内トークもそこそこに、本題に入る『黄昏の魔導士』。彼らのいた世界の『亡霊』が迷い込んでいるのは、また神々の差し金ではないかと疑う。千年前のユニゾティアの失敗を、繰り返すわけにはいかない……そう訴えるかつての仲間に対して、歌姫は申し訳なさそうに事情を明かした。
『亡霊』が迷い込んだ理由は、歌姫の行動が関わっていた。かつて彼らが考案、実行を試みた計画……『異世界移民計画』を、何とか実行しようとしたのだ。
神々が許可するとは思えない。時間だって経ち過ぎている。と言う反論に対し『聖歌の歌姫』は一つ一つ解きほぐす。時間は『ウラシマ理論』で、神々との交渉は彼女が神の補佐をする事で『向こうの世界の五十年後の人間を救済する』と言う約束を交わしていた。
が、悪意に満ちた契約と評する黄昏の魔導士。崩壊した世界と変異吸血種の跋扈があれば、人類の全滅にお釣りがくる。しかし歌姫は、ボロボロのおじいさんを一人でも救えた、と言った。
そのおじいさんの持っていた荷物に『Crossroad Ghost』の写真があった、それにたまたま取り憑いて来たと『聖歌の歌姫』は説明した。自分の心配は杞憂と知り、胸を撫でおろす二人の英傑。そんな中、この世界の女神『ユニティ』がおりt――
――こんにちは、閲覧者さん?
私はこの世界、ユニゾティアの女神ユニティよ。
本当は『二度目はない』予定だったのだけど……投稿の伸びを見ると、ダイジェスト版しか見てない人、結構いるっぽいのよ。本編の投稿時期と状況が変わっちゃったから、許してね?
意味が分からない? ならシンプルに言うけど――私は閲覧者が認識えているの。だって世界の神様なのよ? 世界を上から観測する立場なのだから、横から見ている誰かに気が付いて、何の不思議があって?
この回で語られたことは、投稿時点では明かせなかった。けれどもうすぐよ? 第六章からは、千年前に何があったのか……それが具体的に明かされ始める。
でもね、真実なんて全く大したこと無いのよ。
歴史はいつも繰り返される。
弱い者の考える事はいつも同じ。
『今』『ここにいる』人なら、絶対に知っている。
状況を少しだけややこしくして、用語をいつもとちょっと違う風に変化させて、コインの裏と表を入れ替えただけなの。
あなたは耐えられるかしら? いつも楽しんでいたモノの正体が――あなた達も批難したであろう、歴史の過ちと同じ構図な事に。
あなたは――あなたたちの世界は、ガイアに見限られず、次に進めるのかしら?




