第三章 ダイジェスト・9
打倒レリーに向けて、動き出すテグラットとムンクス達。計画の修正を進める吸血種の少年は、晴嵐の修羅を引き継いでいくテグラットに、不吉な感触を覚えた。奇妙な幻覚に悩まされながらも、着々と進む準備。今も協力者である男に対しても、少しばかり『妙だ』とは感じる。だが、頼りになる面も確かにあり、今も彼は道具を制作していた。
ムンクスのゴーレム工房の一角を借りて、晴嵐は対吸血種用の武器や道具を制作していた。金属製のゴーレムを扱う機具は、素人には扱えない物の筈だが、晴嵐は普通に使いこなしていた。不審な目線を深める従者フリックスだが、深くは追及できなかった。
晴嵐は晴嵐で、今回の作戦行動に参加する。彼は巻き込まれた立場だが、テグラットとムンクスだけに任せる気はない。吸血種に対する戦闘力も体験しているムンクスは、晴嵐の作戦参加を容認した。
正義感から来た行動……とは異なる。晴嵐なりに狙いがあった。彼は対価として、ムンクスにある物を要求する。
それは『千年前の思い出を、いくつか晴嵐に聞かせろ』と言うものだった。ただ、重要な真実を渡せとは言わない。晴嵐に話して問題ない範囲の事で、なおかつ一般人が知らないような内容を求める。根っからのドブネズミ。その言動を繰り返した晴嵐のイメージと合わないと、フリックスもムンクスも疑問に思う。
――だが、彼が今の目的として『千年前のユニゾティアの真実』を、気にしている事は確かだ。『下手に証拠になる金銭より安全だ』『情報の価値は人のよって異なる』と言い、最後は変更したシナリオでは、ある程度偶然を装う必要が出たため……晴嵐は必須のピースになっている。不審な部分は、足元を見るような言動で煙に巻き、彼らとの契約を結び計画に臨む……
そしてついに、作戦決行の日が訪れた。時刻は夜明け前、ムンクスのユニゾン・ゴーレム部隊が突入の配置につく。テグラット、晴嵐の両名も『レリーの館』付近で待機。作戦開始を待っていた。
報告を聞き流す中、晴嵐は近くにいるアルファ・ゴーレムに釘を刺す。何かの拍子に背中から刺すなよと警告を飛ばした。完全には信用しない用心深さもあるが、一番の理由はその機体から『殺気』を感じていた。かつて裏路地で対峙したアルファ・ゴーレム個体だったらしい。ギギギと唸るゴーレムは、一つ質問をする。晴嵐が作った道具の中の一つに、折り紙細工が存在していた。その有用性についてだ。
種さえ知っていれば、ただの下らないオモチャだが……この折り紙が発する音は『ある物』と誤認させるに十分と語る晴嵐。ムンクスで試したら見事に引っかかり、お墨付きも貰ったと言う。
語る彼から、えげつない悪意が滲む。恐怖と頼もしさを同時に感じながら、ついにレリー討伐の作戦は始まった。
一方そのころ、館の主はワインボトルに手をかけていた。吸血種たる彼は、いつもなら給仕に家事全般を任せられる立場にある。それを自ら行う理由は、ボトルの中身を他人に触らせるわけにはいかないから。年齢、性別、血液型を刻印したラベルから、赤黒い液体をグラスに注ぎ味わう吸血種。
酔いしれながら、レリーは過去を回想する。ヒューマンを吸血種へと変える特性を持った吸血種は、公に秘される事となり……英傑たちは憑依型ゴーレムの破壊に奔走していた。その間、隠すべき吸血種の案件をレリーが一任する事になった。
草案を調整する中……密かな約定として千年前の敵『欲深き者ども』へ対抗するため、不老の吸血種による秘密部隊を用意する事が決定。ただし吸血種はその特性上、人の生き血を生命維持に必要とする種族だ。故にどうにかして、血液を入手する方法が必要となった。
最初は死刑囚や、養護施設の健康診断での採決などで集めていた。不正も必要悪の範疇だったが、ある日一人の血液提供者の血液を、過剰に吸って殺してしまう事故が起きてしまった。裏で厳罰に処しつつも、事故の後始末をレリーは進めていく。
事件の隠蔽を終えたレリーは、気が付いた。
今の自分の政治的な力があれば、人ひとり消しても、隠し通せてしまう事に。
秘密の部隊として編成された『吸血種秘密部隊』……ただこの立場は非常に窮屈な所があった。そこで、ストレス発散を兼ねて『人狩』部隊として、裏路地でドブ溜めの住人を攫い、暴力的な吸血衝動を満たす事で、秘密部隊の精神コンディションを保つ。どうせ社会から外れた無価値な輩。有用利用だとレリーはうそぶいた。
ボトルに入った液体は、人血の残りを使って作った『人血酒』だ。人間が失血死するラインは、すべての血液が失われたタイミングではない。どうしても飲み切れない血を、捨てずに有効利用する研究で、レリーが趣味もかねて作った物だ。他人に触れさせず、一人静かに悪の愉悦に浸り、密かな楽しみに酔いしれる中、窓ガラスが割れる音が響く。
水を差され、不快感をあらわにするレリー。ドブネズミを退治するため、直々にレリー本人が足を運んだ……




