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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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第三章 ダイジェスト・8

 しばらくは裏路地に戻らない方が良い。ムンクスは二人に対してそう言った。

 レリー一派が、生き残りを警戒している可能性がある事。もしバレれば命の危険がある。これは路地裏に出入りしていた、晴嵐も同様の立場だと。

 攫われた人々を案ずるテグラット。あんな場所でも、饐えた臭いの路地裏でも、彼女にとっては愛すべき日常だった。ムンクスは事態解決のために、レリー議員の緊急逮捕に向けて用意を進めていた。

 血液の供給先は、裏路地の『人狩』だけじゃない。養護施設や孤児院から、雰囲気に馴染めず去る子供もいる。その人員の中に隠して、人を攫って供給しているらしい。ムンクスやその配下『ユニゾン・ゴーレム』は、施設の名簿と時期をまとめて、証拠とする準備を進めていた。


 そんな中、テグラットは不満な表情を見せている。彼女が気にしているのは『時間』だ。非道を受ける住人を、一刻も早く救うべき。ムンクスも分かってはいるのだが、すべての用意が整うまで一か月必要と答えた。

 怒りと共に取り乱すテグラット。自分たちも急いでいる。必要な用意だとムンクスが必死に説得するが、そんな遠回しな事をやっている間に、血を絞られる人々は死んでしまう。死にはしなくてもひどい目に遭っている。今すぐ救ってくれない、理屈を並べるだけで安全な場所にいる人々へ、彼女の叫びは真に迫っていた。


 自分たちは日向の住人ではない。胸を張って生きれるような生活はしていない。けれど、こんな理不尽な目に合うほどの事をしたのだろうか? 馬が合わない事は薄々感じていたから、人目につかないようにこっそりと生活したいた。一日一日を、必死の思いで乗り越えて生きていたのに……なんで表の世界の人間は、言葉ばかりでいざと言うとき助けてくれないのか。

 叫んで、癇癪を起こして、あてがわれた部屋へ怒りちらして広間から去るテグラット。展開を予想はしていたが、止められなかったムンクスとフリックス。綺麗事を言えない空気に、両者の感情に理解を示す晴嵐。今後の方針について、彼は吸血種の少年に一つ提示した。


「このままでは、テグラットは破れかぶれの特攻をしかねない」


 同じドブネズミの性根を持つ彼は、彼女の心理状態を見抜いていた。日常を失い、手元に残るものは何もない。あるのは身一つと、現実に対する復讐心めいた憎悪。そして、すべてを奪った犯人は明らかになっている。この状況では、自分がどうなろうが復讐に走りかねない。いくら自分たちが宥めても『たまたま居合わせただけの男』と『実はとんでもなく恵まれた環境にいた友人』では、耳に入るはずもない。

 自分たちは本気だと、館に暮らす二人は主張する。悪意が無いとも本心で告げたが、むしろ差を見せつけられて傷つくと返す晴嵐。だから死ぬのも承知で見過ごせと? 行かせてやることが慈悲だと? 当たり散らすような問いかけに、晴嵐は『何故返り討ちに遭う前提で話すのか』と言い返した。


 終末から来た晴嵐は、吸血鬼の――ひいては吸血種の弱点が『銀』である事を知っている。そして化け物どもを屠る方法も、経験もある。

 つまり『テグラットに吸血種を狩る方法を晴嵐が仕込み、悪党と化した吸血種へ挑ませる。その行動をムンクスの計画に組み込む』事を提案した。

 だが、この選択肢は……吸血種の少年には、あまりに辛すぎる選択肢だった。かつての友と今の友人、その両者が殺し合う盤面を、すぐには容認できない。

 されど彼も気が付いていた。ここまで事態が悪化した以上、すべてを丸く収める方法はない……腹を決めるまで、時間が必要だ。その間に、晴嵐はテグラットの意思を確かめる事に。少年が決断するための、時間稼ぎもかねて。


 一方テグラットは、豪奢なムンクスの屋敷の中で悶々としていた。

 ――今まで正体を知らなかったが、彼を友人と認めていた。上流階級特有の、嫌な簡易は一度も感じたことが無い。何気ない善意なのだろうけど、酷くモヤモヤとした気持ちが、彼女の腹の中で渦巻いていた。

 そんな時、ノックの音が聞こえた。話に来た晴嵐だ。

 開口一番、晴嵐はテグラットの殺意を言い当てる。揚げ足取りと誤魔化そうとするが、ドブネズミの晴嵐はお見通し。ムンクスに説得を頼まれたの? と尋ねると、彼は全く逆の提案をしに来たと言う。


『自分は吸血種の殺し方を知っている。テグラットに教えるから、それでクソ吸血種をブチ転がせ』――時間も少女の努力次第だが、二週間はかからないだろうと伝える。思わず飛びつきそうになるテグラットだが、路地裏暮らしは用心深かった。それでは晴嵐に得が、メリットが見えないではないか。疑いを向けられた晴嵐は『対価はムンクスに要求する』『彼にしか用意できないものがある』と、テグラットは気にしなくてよいと言う。まだ信じきれない彼女に、晴嵐は続けた。


「自分も吸血種の事は嫌いだ。正義感からの行動ではない。ただの身勝手な八つ当たり」


 納得しきれる理由ではないが、晴嵐は自分を信じろとは言わない。ただ『今ここで短期を起こす事が最悪』と釘を刺し、最後はテグラットの意思で決めろと彼は言う。数日の間に決めればよいと、退廃の気配を隠さずに晴嵐は彼女に決断を促した。


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