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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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第三章 ダイジェスト・6

住んでいた裏路地街を失い、深く落ち込むテグラット。後からやってきた一人の少年『ムンクス』は、お互いの無事を喜び合う中、晴嵐はテグラットが駆け寄る事を防いだ。

 友達と語るテグラット。しかし晴嵐は知っている。目の前の少年ムンクスは『吸血種』で、顔パスで政府役員の城に入っていった事を。さらに噂の広がり方から、何らかの強い力が働いている事も予測していた。

 そのタイミングで現れた『吸血種』の『政府役員』の少年……今ここに来たのは、生き残りがいないかを確かめに来た。晴嵐にはそうとしか思えない。少年少女の静止を振り切り、晴嵐は吸血鬼ブラットサッカーへの殺意を爆発させた。

 ナイフを振りかざし、銀の粉を配合した煙幕で吸血種を狙う晴嵐。追い込まれる少年の前に、鉄の人型、アルファ・ゴーレムが立ち塞がった。


 鋼鉄の塊であるゴーレムを見ても、晴嵐の殺意は止まらない。ムンクス配下のアルファ・ゴーレムは、ムンクスの命に従い晴嵐の無力化に動く。鉄の肉体相手に苦戦する晴嵐だが、ヒートナイフで加熱し、鉄の強度を下げる事で対応。ゴーレムが焦燥に焼かれる中、煙幕を叩き込んで混乱させる。その隙を突いて晴嵐は再び吸血種を襲った。


 何とか誤解を解こうと、言葉や身振り手振りで晴嵐を宥めようとする。ムンクスの訴えを聞いても、晴嵐の攻撃は止まらない。

否、晴嵐は『止まらない』のではなく『止まれない』

 人を食い殺して増殖する『吸血鬼サッカー』相手に、容赦や躊躇はしていられない。少しでも手を止めれば、こちらが逆に殺される。危険な手合いを相手する事に慣れ過ぎて、彼は『吸血鬼』が敵となれば殺意を止めない。

 逃げ切るしかないと、ムンクスの手を引くテグラット。煙幕を粉塵爆発させ、少年少女を追い込む晴嵐。殺意に任せた攻撃を続ける彼に、複数のアルファ・ゴーレムが割って入る。意識を失う最後まで、晴嵐は吸血鬼への敵意を失わなかった。


 意識を途絶えた晴嵐は、滅びた地球文明の記憶が蘇っていた。

 ――誰も彼もが死に絶え、最後の一人として生きていた記憶。自分のためなら、他人を平気で軽んじ傷つける事が出来てしまう傾向。それを行き過ぎた結果として、晴嵐は最後まで生き延びたが、彼は全く己を誇れなかった。

 己のみを優先した故に、誰にも看取られる事なく死んでいく。誰にも意思を引き継がれる事なく死んでいく。自分の死が世界の死。続く者も、残る物も何もない。己をいたむ誰かもいない、一人ぼっちの生と死。


 人間にとって、孤独は異常なストレスとなる。時々見える見捨てて来た人の幻影や、断末魔の声に悩まされる中でも、晴嵐は自殺だけは『許されない』と己に言っていた。

 今まで散々人の命を奪っておいて、生きたい誰かを見殺しにしておいて、自分は死ぬなど許されぬ。それでも蝕まれる精神を維持するため、晴嵐は死に場所を求めるように『吸血鬼サッカー』を殺して回った。

 ボロボロになりながら、結局生き残ってしまう晴嵐。まだすすげない過去を見つめ終えた後、晴嵐の意識は再びユニゾティアへ戻っていく。


 てっきり死んだと思っていた晴嵐。目を覚ましたことが不思議でならない。彼を出迎えたのは、頭部を立体映像で投影するゴーレム『デュラハン型ゴーレムのフリックス』だ。ムンクスの従者である彼は、現状の説明を始める。

 まず、自分たち一派は犯人ではないと言う事。そして晴嵐やテグラットの事も、犯人と思っていないらしい。彼らは彼らで容疑者を絞っていると言う。

『お前たちが黒幕なら、わしもテグラットも始末されている』――すべては鵜呑みにしないが、敵ではないと晴嵐も認める。彼が犯人像を示すと、フリックスは驚きつつも、今回の事は不幸な事故だったと、説明を始めた。


 晴嵐の考察……『犯人は吸血種』『政府役人で権力持ち』『偶然あったとはいえ、ムンクスはこの国の役員』と言う視点は、的外れとは言い切れない。同じ条件の役員――『レリー・バキスタギス』が『人狩』を率いて、今回の事件や数々の失踪事件を引き起こし、隠蔽している黒幕だと言う。警備組織や取り締まり、養護施設や孤児院を運営する吸血種だそうだ。ムンクスとは友人関係……いや、もっと深い関係の人物らしい。彼も最初こそ信じられなかったが、完全に『黒』と断じていた。

 友を裏切り、法を犯して何がしたいのか? その理由は『食道楽のため』と聞き、晴嵐は嫌悪を隠さない。『吸血種』は生存のために、相手の血を吸う必要がある種族だ。吸血衝動事態はあるが、かといって相手を殺害する事は許されていない。吸血に関しても法整備がされており、吸血種が英雄扱いな事、血液パックが開発された事などで、普通に暮らす分には全く問題ない。それでも吸血行為を欲するのは、捕食本能によるものだ。


 あるいは狩猟本能と呼べる物だろうか? 狩りをした覚えのある晴嵐は、その欲は否定しない。が、知性体相手にやるのは論外だ。だから外道だとフリックスは返した。

 晴嵐は……外道とののしりつつも、彼らが増長するのは思考を止めた者が担ぐからだと考える。英雄と祭り上げ過ぎるから、言われる方もおかしくなって分別がつかなくなる……酷い表情をフリックスに咎められ、聞かないでくれとしか晴嵐は言えなかった。

 事情をひとまず話し終えた所で、今後について話をしたい。不愉快な話題になりそうな所で、小さなノック音が二つ響いた。


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