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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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第三章 ダイジェスト・2

 城壁都市レジスにある城……『ユーロレック城』内部では、月に一度の会合が行われていた。若い議員が老議員に噛みつくが、問題解決の気配が見えない。荒れる議会の中で、一人の吸血種の議員が一つ報告する。内容は『千年前の悪魔が復活するかもしれない』とのこと。緊張が走る中で、千年前の戦争の英雄――五英傑の一人『黄昏の魔導士』も議論に加わった。


 場所は『聖歌公国』と『緑の国』の国境線……グラドーの森で『悪魔の遺産』が使われた案件が持ち上がった。緊張の走る議会の中、吸血種の子供が乱入する。情報を共有していく中で、その子供も一つ国内にある不穏な影を指摘した。

 ストレート・チルドレンなどの、この国の裏について多少詳しいその子供、吸血種のムンクスは……足取りの追えない失踪者が増えていると報告した。犯人が分からないと頭を悩ませていたが、今の議論を見て『千年前の悪魔』を容疑者と考えたようだ。私兵部隊の『ユニゾン・ゴーレム』の導入すると宣言し、本気を示すムンクス。各員で対応を取る流れの後、今回の議会は解散となった。


 さて、城の前から戻り、一日宿に戻って休んだ晴嵐。常識はおおよそ間違っていないと知り、足場を固めたと思ったのに……彼はまた一つ衝撃を受けていた。

 広場で遭遇した吸血種の坊や……その気配は、彼の知っている化け物『吸血鬼サッカー』とほとんど同一の物だった。

 終末世界に徘徊し、人の血を啜る化け物。知性も理性もないソレと、晴嵐は幾度となく対決している。

 ソレとあまりにそっくりな気配の『吸血種』……別の存在と理解はしたが、あまりに似すぎていて戸惑う彼。謎を残しつつも、晴嵐は目的を果たすべく『伝統生活区』を探し始めた。

 緑の国に行く前に暮らしていた地域、ホラーソン村でエルフのハーモニーから情報収集をした晴嵐。見返りとして、彼女の両親の様子を見に行くと言ったが、彼女の顔色は優れない。無理をするなとは言われたものの、やれる範囲で男は調査に入った。

 彼女の両親が暮らしているという『伝統生活区』まで足を運ぶ晴嵐。周辺は森が深く人気もない。接近したが『伝統生活区』は、特定のエルフと業者しか入れないらしい。見張りのエルフに追い返されたが、近くにあった資料館を勧められたので、素直に足を運ぶ事に。


 ――その資料館は、千年より昔のことまで展示されていた。なかなか立派な作りの資料館は、遥か昔の住居や弓矢、そして約千年前に何が起きたかを知った。

 欲深き者どもが、千年前に『グラドーの森』で拠点を作り戦っていた。その後の950年前に、オークによる軍事侵攻があったらしい。観光で見た城付近まで押し込まれ、当時は深い森だったこの地域は、焼き払われてしまったらしい。

 エルフが極端にオークを毛嫌いする……いや憎悪するのは、その記憶を覚えている世代が存命だから。ここが城壁都市レジスと化したのは、その時の恐怖から堅牢な都市を構築した……焼き払われてしまった森の代わりに、この都市を作り上げたのだ。


 思わず唸る晴嵐。オークを知人に持つ彼は、そんな昔の事はもう許してやれよ、と言う気持ちもある。だが同時に、日常が壊される苦しみを、当たり前にある景色が崩れ去る痛みも知っており、容易に許せる筈がないとも思えてしまう。見ごたえのある資料館に満足するが、人気の少なさを気にする晴嵐。ちょうど館長らしき人物とばったり会い、さらに深くこの地の状況を聞くことが出来た。

 そして晴嵐は、伝統生活区の真実を知る。

 今は生活を伝える地域とされているが、昔は『保護区』と呼ばれていたらしい。住処を焼き払われ、オークたちの蹂躙を受けて、恐怖と憎悪と拒絶から城壁都市を築き上げたエルフ達。けれど中には、その気力さえ失うほどの心の傷を負った者もいた。


 立ち上がれぬ程の心身衰弱に陥った者たちを、なんとか保護するための特殊な地域……それが『伝統生活区』と呼ばれる前に『保護区』と呼ばれている理由だった。

 ところが――この保護はやや過剰な所があった。当人たちはともかく、保護区内部で生まれた二世以降も、この保護区で生きる事を許されてしまった。結果、自立せず『伝統生活区』で暮らす者が生まれてしまった。

 様々な背景が重なる複雑な地域……一言で片づけれない重苦しい問題。ただ一方を悪とも呼べず、しかし決して生産的と呼べない地域が『伝統生活区』と晴嵐は理解する。両親の様子を気にしながらも、帰還しないハーモニーは……この地域の淀みから抜け出したかったのだろう。直接『伝統生活区』を確認出来なかったが、資料館の館長の話から『変わりはない』と言えば伝わるだろう。


 思わず長話してしまった晴嵐。夜の闇が迫り、深い森に身の危険を覚える彼。大慌てで脱出し、そのままライフストーンに向かって、ハーモニーにメールを送った。

 一仕事終えた晴嵐は、空腹を満たすために再び『とこしえの緑』……冒涜的伝統食を味わった店に顔を出す。またしても冒険した所、紫色のスープが出された。恐る恐る口にするが普通に食せる。どうやら伝統的調味料は、加熱すると味がまろやかになるらしい。

 もう一品何か頼もうか考えていたところに、新しい客が店に顔を出す。

 ――路地裏でカツアゲを試みた、若いエルフは晴嵐を見て凍り付いた。


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