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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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依頼

前回のあらすじ


 廃品保管室の残骸を使い、いくつかの物品をニコイチにして修復、自分の懐に入れる晴嵐。戻って来たシエラが領収書を持ってきたが、そこに使われている単位は「¥」なんと崩壊前の日本で使われている単位だったのだ。通じる言語といい、猛烈な違和感と合致に襲われ、体調を崩す晴嵐。優しく気遣うシエラだが、その気配の中に意図を感じ、晴嵐は彼女に問いただす。

「セイラン君、確認するが……君は猟師であり、痕跡を追うのは得意なんだな?」


 依頼がある、と切り出したシエラは、本題に移る前に彼に尋ねた。何も迷わず頷いたことを目にして、兵士長は概要の説明に入る。


「よし、では君に頼みたいことなんだが……オークの拠点を把握し、奴等に見つからない場所へ、これを置いて戻ってきてほしいのだ」


 差し出された石ころは、以前村へ帰る途中に用いた石に似ている。色合いは暗い赤色で、どこか血の色を連想させた。不吉な印象を呼び起こす物体の用途を、晴嵐は予測して先取りする。


「……マーカーか」

「うむ。この『共鳴石』は二つ一組の魔導具で、相方の位置を常に特定できる品だ。こうしたマーキングや……その、新婚にも人気がある」

「マーキングの後、主らが仕掛けるんじゃな?」


 脱線の気配を感じ、最小の説明で済むように彼は会話を誘導した。兵士長はすぐに付け足す。


「そうだ。先の戦闘で、人員と物資が奪われてしまった。我々としては黙って見過ごすわけにはいかない。オークの部族は戦闘後――特に戦勝の後は宴を開き、その場に留まる風習がある」

「そこを強襲する腹積もりか。となると……あまり時間はないの」

「ああ。村に駐留している軍が動くのは三日後。それまでに、君には当たりをつけてほしい。可能なら帰還してくれるとありがたいが……」

「距離も位置もわからんのに無茶言うな。わしが死んでることもあり得るぞ?」


 安請け合い程高くつくことはない。彼は過ぎた要求を一蹴した。印象悪く恰好を崩す彼に、シエラも「だな。出来たらで構わないよ」と軽い返事で受け応える。

 しかし、概要を知った晴嵐は妙に思った。彼女が依頼したことは、軍隊として必要な行動のはずだ。ならば、彼に依頼を寄越すのは……シエラより立場が上の軍団長の仕事ではないか? 確認しておく必要があると感じ、彼女へ問う。


「これは軍からの依頼か?」


 晴嵐の予測通り、兵士長は首を振った。


「いや……先程も言ったが、私個人からの依頼になる」

「どうして? 内容聞くに、あのアレックスとやらが頭を下げに来るのが筋じゃろ」

「すまない、軍団長を説き伏せられなかったんだ。あまり言いたくないが……君を信用していないらしい」

「……不審者に見えるじゃろうからな」

「けどオークに一矢報いたいのは本当だ。このまま引き下がれない。しかし手がかりも少ない」


 手詰まりの空気に、白羽の矢が立ったのが彼だった……ということか。それでも晴嵐は違和感が拭えず、用心深くシエラから読み取ろうと務める。


「あの後君の詳細を、軍団長に根掘り葉掘り聞かれたよ。そのついでに、私が進言したんだ。セイランを偵察スカウトにしてみてはどうか? と」

「だが蹴られたのか」

「……ああ。正規に組み込むのは論外だ。とね。だが、私が責を負うなら構わないとも言ってくれた」


 晴嵐は、いよいよもって呆れ果てた。

 ……それはつまり何か問題が起きたら、シエラ個人が責任を取らされることになるのだ。仮に成功したとしても、非正規の作戦では評価されることもあるまい。

 どう見てもリスクの割に効果が釣り合っていない。なのに、彼本人への説明がないことを考えると……表沙汰にしたくない事情が絡んでいるのだろう。

 余所者の自分には明かせない何かを、問いただした所で吐く筈もない……が、全貌は見えずとも、確かめる方法はある。すっ、と前のめりに顔を寄せ、声を小さくしてひそやかに問う。


「……本当に石を置くだけでいいのか?」

「なに?」

「一人二人なら、逃がすことも出来なくはない……攫われた中に、お主の知った顔がおるんじゃろ?」


 お人よしのシエラが考えつきそうな事を、あてずっぽうで口にする。彼女なら本気で言いだすかもしれないが、反応を見れば判別可能と、晴嵐には自信があった。

 兵士長は、僅かに視線を泳がせた。多少なりとも迷いや揺れが感じ取れたが……図星からは遠いか? やがて苦い顔つきで、首を振って告げる。


「気持ちは嬉しいが……無理だと思う。君の動きについてこれるとは思えない」

「お主は平気だったじゃろう」

「私は軍人だからな。過酷なやり方に耐性のない村人では……」


 どこか、歯に物が詰まっている言い方だと感じた。

 嘘を吐いてはいないのだろうが、本当の事を全て告げてはいない。しかしこれ以上彼女から聞きだすのは不可能だろう。藪をつついて蛇をだすかもしれない。

 何より一つ手掛かりは得た。“彼女は晴嵐の質問を否定しなかった”


「……理解した。その話、乗ろう」

「本当か!?」

「ああ。じゃが軽い休息と、準備の時間は取らせろ。それと……お主にも力を貸してもらう」


 目を輝かせるシエラは、晴嵐の手を取って何度か振った。今にして思えば、彼女は彼女で依頼を断られる不安もあったのだろう。しばし興奮したままの彼女を、晴嵐はため息を堪え、落ち着くまで待つ。

 どうしてこう、この兵士長は呑気なのやら。

 晴嵐が途中で仕事を投げ出す危険性や、失敗する可能性を考慮していないのか? 軍人として、様々な人間と触れ合う機会もあるだろう。荒くれ者もいる軍部なら、多少なりとも人の穢れは目にするだろうに……


「私に出来ることがあるなら、遠慮なく申し付けてくれ。あぁそれと、報酬の方も後払いになるが……いいかな」

「……物資を仕入れたい。その金額だけは先払いにしてくれ」


 今の手持ちの金は、毛皮の先払いのみ。懐はとても寂しく、余計な金は使えない。

 こくりと頷き、条件を飲んだ兵士長。彼も内心ほっとしつつ、まず彼女へとある要求を告げた。

用語解説


共鳴石


 二つ一組の、赤黒い色の石ころ。

 お互いの位置を把握できる石で、敵の位置を知るためのマーキングや、恋人同士、新婚同士にも人気のあるアイテム。

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