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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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真実Ⅲ

前回のあらすじ


 現在の五英傑を思い浮かべ、その中に嘘があるのかと尋ねる晴嵐。語弊があると返しつつも、一人だけ戦争中にふさわしくない英傑がいると、ゴーレムのフリックスは語った。

 五英傑『ミノル』--技術貢献とゴーレム人権運動で活躍した彼は、繰り上がって英傑となった人だった。本来はそこに『無垢なる剣』の二つ名を持つ、オークの勇者がいたという。

 彼が消えねばならぬ理由は、城壁都市レジスにも痕跡がある。

 レジスがオークに襲われたのは、本当は千年前……つまり当時のオークは『欲深き者ども』陣営だったのだ。

 かつて、ユニゾティアを破壊せんと暴れ回った『欲深き者ども』または『異界の悪魔』は、現在においても相応に嫌悪されている。

 突如世界にやって来て、我が物顔で力を振りかざせばそうもなる。千年経っても怨まれる輩に、当時のオークは従っていたと? 

 が、晴嵐は思い出す。確かオークは『二次種族』と呼ばれる種だ。戦争前に、ユニゾティアに存在しなかった種族……獣人、ゴーレム、そして吸血種と同様に。

 そして異界の悪魔は別世界かやって来た。ほぼ同時に出現し、さらに主従が生まれているなら連想する事がある。


「『オーク』も『異界の悪魔』と同じ世界に住んでいたのか?」


 最初から侵略するつもりで、異界の悪魔とオークが転移前に連合を組んでいた……出没時期が似ている以上あり得る。そこそこの自信で投げた問いかけは、固い表情に遮られた。


「いえ、ユニゾティアの固有種族のようです」

「何故断言できる?」

「ミノル様や歌姫様を始め、向こう生まれの皆様が明言しています。確かに生まれに不自然な点がありますが、一説によると実は『獣人』と同種族ではないかと……」


 信用ならない説だ。ポーカーフェイスも忘れて、晴嵐の表情に不満が出る。

 晴嵐の知るオークと獣人は少ないが、スーディアやラングレー、ヤスケなど『ホラーソン村』周りで出会ったオークの面々と

 男と同じドブネズミのにおいを漂わせる少女、テグラットが同じ種族とは思えない。「あくまで一説です」と取り繕って、ゴーレムのフリックスが淡々と語った。


「論拠が一つあります。性別についてです」

「性別?」

「オークは男性しか生まれません。反面、獣人は女性しか生まれない性質を持ちます。だから、本来は一つの種族でしたが、何らかの理由でまるで別種のようになったと……」

「……ついでに質問するぞ。オークと獣人で子供が生まれた場合はどうなる?」

「詳しくはないのですが……生まれてくる種族割合に差がある、という話は聞きませんな。ですがこの場合でも、男性ならオークが、女性なら獣人が生まれるそうです」

「『男性の獣人』『女性のオーク』は存在しない?」

「ごく稀に産まれはします。が、ほぼ奇形児か、身体のどこかに致命的な欠陥があるかで、一か月と生きられないとか」


 つまり『男性の獣人』『女性のオーク』は、エラーのようなものらしい。長く存在できない構造で、生まれてくるようだ。

 しかし晴嵐は納得しかねる。本当に同種族なのだろうか? フリックスも『あくまで一説』と前置きしており、真相は一般には不明瞭なのだろう。

 が、ムンクスや従者のフリックス。そして千年前を経験した面々になら、真実を手にしている可能性もある。何より晴嵐の質問に答える際、僅かだが……立体映像の頭部にノイズが走ったように見える。淡々と語る様子も身持ちが固く、何かを隠す気配を晴嵐は感じ取った。


「さて、話を戻しますぞ」


 本筋の『無垢なる剣』の語りが再開された。はぐらかされた感覚を胸に抱きながらも、事の顛末も気になる。鼻を一つ鳴らして、晴嵐は視線を合わせた。


「当時のオークは、欲深き者ども陣営でした。しかし『無垢なる剣』が率いる一部オークが、反旗を翻したのです」

「欲深き者ども、人望が無さすぎるじゃろ……」

「えぇまぁ……奴らは自分の欲を優先するあまり、他者への配慮をまるでしない、他者の都合を考えない、なのに自分たちの都合は声高に叫んで押し付ける。それでも逆らうなら『測定不能の異能力』を用いたり脅迫して好き放題……という輩でした」

「すまん。馬鹿な事を聞いた。この振る舞いで人望があるわけない」


 同郷の『ミノル』や『聖歌の歌姫』と袂を分かち、現地で協力関係を持ったオークにさえ背を向けられた。

 その後は頼りにしていた『測定不能の異能力』とやらも封じられ、逆転の一手として『悪魔の遺産』こと『近代銃器』で逆転を目論んでも遅かった。強力な武装があっても、行使する人手がなければ意味がない。


「二度も身内から反乱者を出したことで『欲深き者ども』陣営内部でも、分裂と混乱が起きたようです。音頭を取る者を失い、異能力を失い、ユニゾティア連合に攻められ『欲深き者ども』は散り散りになった。

 この城壁都市レジスの前身、レジス大森林が焼けるなど……ユニゾティア各所は多大な出血を支払いましたが、どうにか『欲深き者ども』を退けた。しかし戦後処理の際、オークの立場について問題が起きたのです」


 首をひねる晴嵐に対し、ゴーレムの立体映像の顔が陰った。


「離反したオークの数は百名前後。ほとんどは『欲深き者ども』陣営に留まりました。ですから当時の市民感情として『オーク=欲深き者どもの配下』という図式が生まれていたのです。

 ですが同時に『無垢なる剣』という、オークの英雄の存在も認知していた。彼個人への人気は、あなたが仰るように一番が二番人気でした。が、種族に対する憎悪は拭えなかった」

「……そこから、どうなった?」


 最も重要な部分――『何故英雄は消えねばならなかったのか?』を、フリックスは伝える。


「オークをどう扱うかの意見は、真っ二つに割れました。

『五英傑』を要する種族を、ぞんざいに扱うべきではない。オークにはオークなりの事情があったと主張する擁護派と

 あくまで名声は『無垢なる剣』個人に留め、大半オークは『欲深き者ども』に与した種族として、断罪すべきと叫ぶ粛清派に。全体で見ると、粛清派が主流でした」

「……だろうな」

「ですがここで『無垢なる剣』が予想外の行動に出た。議会を抜けて、完全に消息を絶ったのです」

「何故? オーク連中はともかく、勇者様だけは安全な立場じゃろ? レリーみたく威張り散らす事も出来たはずだ」


 擁護派であれ粛清派であれ、『無垢なる剣』本人の名誉と功績は保証されていたはずだ。まさか消されたか? と勘繰る彼の予想は、大きく外れている。


「彼の自宅から、数枚の手紙が見つかりました。内容を纏めると『自らの得た財と名誉をすべて放棄し、史実からも『無垢なる剣』の記述は消して構わない』それを対価に『オークの犯した過ちを赦してほしい』と」

「大した覚悟だが……それで赦せたのか? ユニゾティアは」

「流石に、全員を納得させること出来ませんでした。ですが表向き歴史として、『オークと欲深き者どもが同陣営だった』記述と『本当の五英傑、無垢なる剣』の存在を相殺する形へと、話は纏まったのです。消えた英雄が望んだとおりに……」


 一通り長話を終え、金属の肉体が緊張を解いた。男も軽く視線を上げて一息ついて考えた。

 抹消された英雄の行動は、自らの種族の未来を思っての事だった。

 現在のユニゾティアでも、オークは種として扱いが悪い印象もある。が、それは許しきれなかった誰かが残した怨念が、残留しているから……かもしれない。 

 だがこれでも恐らく、マシな扱いなのだろう。

 もし「千年前オークは、欲深き者どもと同陣営だった」と常識があれば――ユニゾティア住人の怒りや怨みは、オークにも降りかかっていたに違いない。そうなれば種族そのものを絶滅させんと、本格的な殲滅戦に発展する危険もあり得た。


(もしそうなれば……わしはスーディア達に会う事もなかったか)


 この世界での立ち回りも、きっと大きく異なっただろう。

 意味のない空想に耽った後、男は一度だけ鼻を鳴らした。

用語解説


オークとユニゾティア


 千年前の戦争において、オークはユニゾティア陣営と敵対していました。

 しかし人望のない『欲深き者ども』陣営は、オークからも離反されます。ただ、離れたのはごく一部で、大半は留まりました。

 が、離脱したうちの一人のオーク『無垢なる剣』ことイノセント・エクスは戦果を上げ、

 能力を失い、組織力も失った『欲深き者ども』陣営は散り散りになります。

 敵を退けたユニゾティア陣営は、終戦処理に入ったところで、オークをどう評するか意見が割れてしまいます。

 オークも『欲深き者ども』と同一視に近い扱いにするか

 英雄を要する種族であり、彼らにも都合があったと擁護し明記を控えるか

 前者が優勢となる流れの中で、オークの英雄は手紙を残して姿を消します。自らの存在と栄誉を代償に、自らの種を赦して欲しいと書き残して。


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オークは作られた種族?
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