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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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無垢なる剣

前回のあらすじ


 政治的な流れを、ムンクス陣営側から見つめる晴嵐。せわしない緑の国で活動する主に変わり、執事のフリックスが晴嵐への報酬を支払う。真実を欲する彼に明かされるのは、本当の五英傑の物語だった。

『本当の五英傑』の単語を聞いて、晴嵐は反射的に思考する。かつて世界を救った英傑たちを、晴嵐は脳裏に思い浮かべた。


『聖歌の歌姫』……『欲深き者ども』から離反し、当時『自民族至上主義レイシスト』でバラバラなユニゾティアを取り持ち、一つのまとめた歌姫。


『黄昏の魔導士』……吸血種の魔導士。全ての『輝金属』の元型を世界に持ち込み提供。封じられた魔法を取り戻し、また敵の異能力をコピーして発動も出来る。


『窯籠り』……世界を統べる女神の配下にして、炎を吐く龍に変身出来る『真龍種』だ。前線では龍の姿で戦い、後方では専用の窯に籠り、火を噴いて初期の『輝金属』を精練した。


『無限姫』……表向き始祖吸血種とされている女傑。本人は圧倒的な近接戦闘能力を持ち、片っ端から敵対者を切り捨てた。敵を無限に切り続ける武器『無限刀』を保有するという。現在の消息は不明だが、目撃証言によると『水戸黄門』の如く振る舞っているらしい。


『ミノル』……『聖歌の歌姫』同様、『欲深き者ども』から離反。当時猛威を振るった敵の異能力を封印し、戦後もライフストーン技術や、ゴーレムの人権運動に貢献した。



 羅列してみても、一目で嘘とは思えない。常識として定着する理由も十分な気がする。が、『本当の五英傑』と評したのならば――晴嵐はこの質問をせずにいられなかった。


「六英傑とは呼ばんのだな。常識の五英傑は嘘だったのか?」


 これは晴嵐の直感だが……最初から六人いて、一人だけ引き算されたなら『六英傑』と呼ぶ気がする。『本当の五英傑』と称するのなら――五人の中に、英傑ではない人間がいたのではないか?

 晴嵐の質問を聞いたゴーレムは、表現に困るのか曖昧に微笑む。


「嘘とまで断じてしまうと、語弊がありますな。確かに千年経った今、逸話に背びれ尾びれはついています。しかし言い伝えと実際の行動の間に、酷い解離はありません」

「わしは常識を鵜呑みにしておったが……並んだ面子に違和感はないぞ」

「全員、偉人と呼ぶにふさわしい人ではあります。ですが人々はいつも、分かりやすく派手な英雄を求める物です。戦時中ならば特に」


 かつてユニゾティアでは、世界を巻き込んだ大戦があった。

 しかし『全員が』戦地に赴く事はない。戦えない女子供と老人、その他の理由で後ろで生活する人間がいたはずだ。彼ら民衆は実地を目にせずとも、世の中の巨大な流れに注意が行くのも当然。

 そうして世が荒れた時、求められるのは何時だって『分かりやすい敵』と『分かりやすい英雄』だ。

 フリックスは、真実を紡ぐ。


「今の五英傑、ミノル様は……当時は枠外の人物でした。異能力を封じた功績は大きく、現場の人間……例えばレリーのような指揮官や兵士には、その恩恵を十分に感じることが出来ました。

 ですが市民としては、異能を封じると言われてもピンとこない。坊ちゃまは良い顔をしませんが……当時の彼は英傑と呼ぶには、一歩物足りない方だった」

「辛口の意見じゃな」


 同じ故郷の同胞を、非道を理由に離反して……事が済んだ後も技術貢献、ゴーレム人権運動と活動を続けた『ミノル』。しかし戦時中の英雄としては、些か平和的過ぎた……と言う事か。

 晴嵐は彼の人物像を聞いた際、幾分か好感を持っていた。同時に一番地味だとも口にしたが、それは当たらずとも遠からず。裏付けるように、晴嵐はもう一つ事実を添える。


「どいつもこいつも、御大層な二つ名を持っておったが……『ミノル』だけ本名なのは」

「序列が後から繰り上がったからです。ですから本物の五英傑……『イノセント・エクス』は『無垢なるつるぎ』と呼称されておりました」

「成程」


 増えた情報を整理しつつ、湧いた疑問を煮詰めていく晴嵐。悩む彼の耳へ、フリックスは消された英雄の詳細を語った。


「彼はオークの戦士でした。あまり自分の要求をしないような……ムンクス坊ちゃま曰く、『心が透明で中身が見えにくい人物』と聞いています。が、この性質から彼は独特な感覚を保持していたそうです」

「独特な感覚?」

「なんでも……『周辺の人の意志を感じる』事が出来るそうです。敵から殺意や悪意を向けられれば察知し、味方が危機に瀕すれば即座に駆けつける……確かレリーが人間の頃、重傷を負った際救出したのも、彼だったと」

「わしとしては複雑な気分だ」

「でしょうね。ですが分かるでしょう? 『無垢なる剣』の在り方は、まるで……」

「あぁ。おとぎ話の主人公そのものじゃな」


 絶対に会いたくないタイプの人間だ。晴嵐はそう思った。自分のようなドブネズミの本性など、秒で見抜かれてしまうに違いない。しかし、尚更疑問が強くなる。典型的な英雄が、どうして抹消されたのか――


「なんで消された? 一番か二番人気じゃろ、こんな勇者様は」

「自ら退いたのです。彼は。少し話が逸れますが……ミスター・セイラン、あなたは『城壁都市レジス』の成り立ちはご存じで?」


 突然の質問に戸惑うも、すぐに晴嵐は返答した。


「歴史資料館をじっくり見た。大体理解しておる」

「なら話は早い。オーク侵攻記録もご存知ですね?」

「確か……欲深き者どもとの戦いの後、時間をおいて後からオークに襲撃され、森を焼き払われたと……」


 緑の国で、オークへの風当たりが強い要因だ。元々排他的な傾向のある緑の国だが、ことオークに対する目は厳しいらしい。場面は見てないが、歴史背景を見れば無理もない気もする。

 が、このタイミングで話題にする理由は何か? 怪訝けげんな目を向ける彼に対し、老執事風の映像が声を潜める。


「……実は、違うのです」

「違う? 何が?」

「オークの襲撃は、波状ではなかったのです。本当に森を焼き払われたのは千年前――この意味が分かりますか?」


 千年前、つまり『ユニゾティアが全面戦争の真っただ中』で、オーク達がエルフの森を焼き払った。ユニゾティアの原住民の一つである、エルフたちの地域を。欲深き者ども、異界の悪魔と連合を組んで戦うその時期において。

 意味することは、一つしかない。


「まさかオークは」

「はい……当時のオーク達は――『欲深き者ども』陣営でした」


 守る側ではなく、壊す側だったオーク達。

 知った顔が浮かぶ晴嵐。彼らの祖先が犯した罪に、男はしばし口を閉ざした。

用語解説


「無垢なる剣」


 抹消された五英傑、その正体はオークの戦士。本名は「イノセント・エクス」

 感情や精神が希薄だが、代わりに特殊な感性を持っており『周囲の人の意志を感じる』ことが出来るそうだ。敵の悪意が来れば察知し回避。味方が危機に瀕すれば即座に駆けつける。おとぎ話の勇者のような男。

 しかし現在のユニゾティアにおいて、実在しないとされている。繰り上がる形で『ミノル』が、五英傑へと祭り上げられた。

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