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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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「一人だけ」「一人でも」

前回のあらすじ


 亡霊を見た黄昏の魔導士は、赤い剣と古い魔法を用いて『上層転移陣』を起動させた。

 彼が移動したのは、ユニゾティアの上層。神々が世界を管理するための空間。

 対話のための術式を用い、神を待つ魔導士の下に降り立つのは「聖歌の歌姫」

 かつて共に戦い、千年前に死亡したものの、今は神の側に回った五英傑の一人だ。過去の失敗から亡霊の存在を上告するも、歌姫は少しばつが悪そうだ。

 彼女の後ろめたい表情を見て、魔導士は不要な心使いと悟った。

 世界を管理する側からなら、ユニゾティア全土に目を向けることもたやすい。かつての配下『真龍種』に、古い繋がりで指示することも出来るだろう。

 ましてや過去の失態は、世界の女神たる『ユニティ』が最も悔いている。彼女の下で働く『聖歌の歌姫』が察していても不思議はない。言われるまでもない事かと、勝手に納得しかけた『黄昏の魔導士』に歌姫は囁く。


「ごめん……原因は、私」

「え?」


 ちょっとした悪戯が、仕掛ける前にバレたような……そんな表情だった。何を言われたのか思考が追いつかず、しばらく白い世界に視線を泳がせる。答えを見いだせない彼に対し、歌姫は訥々(とつとつ)と事情を伝えた。


「異世界移民計画……覚えてる?」

「忘れた事なんてない。でもあれは……終わった話だ」

「ううん……終わってなかったの。私が、終わらせなかった」

「君が?」


 彼らがこの世界に移住した、本来の目的。

 それは侵略でも、観光でも、そして英雄になる事でもない。

 汚染された故郷の世界から……寿命が尽きかけている世界から、人々を異世界に脱出させるためのプロジェクト。『異世界移民計画』を実行するための、橋頭保のはずだった。それの再開なんて今更過ぎる。否定的な口調で魔導士はまくし立てた。


「ユニティもガイアも、許可するとは思えないけどな。それに千年経った後だろう? もう移民云々なんて状況じゃない」

「思い出して。世界を跨げば、時間は歪む。数か月が九年になったり、一か月が一瞬で過ぎ去ったり……世界一つ一つの時間は波のように揺らいで、決して安定しない」

「……ウラシマ理論のようなものか。それで?」

「こっちでの千年は……向こう換算だと約五十年だったの。だから私が女神になった後……千年務めた後に、向こう側の人を救済して。と」


 魔導士は、深々と息を吐いた。

 自爆して、転移先で迷惑をかけて、果ては『ガイア』にさえ見限られ……失点続きで、誰からも見捨てられて当然のことを、故郷の人々は重ねてきた。

 それでも……もし劣悪な環境下でも、命を繋いでいるのなら救いたいと願う。彼女の慈悲は千年後でも変わりがない。敬意を示したいが、魔導士には神々の悪意にしか見えなかった。あの壊れた世界で文明が絶滅するには、五十年でおつりがくる。


「無理を言う。向こうは汚染と寒冷化、さらに変異吸血鬼ミュータントヴァンプを使って惑星上から人類を浄化。次の知性体に星を任せるとガイアは言っていた。星の意志が本気で滅ぼしにかかったら、たとえ人間でも五十年生存できるわけが……」

「一人。ぼろぼろのおじいさんが、一人」

「一人だけ、か」

「一人でも、助けれた」


 長い時間をかけて、紆余曲折を経て、救済出来たのはたったの一人。虚しさのまさる彼と異なり、一人でも救えたと彼女は明言した。


「でもユニティにとっても、生き残りは予想外。今にも死にそうなその人を面白がって、ユニティは少しだけサービス。若返りと、いくつか道具も持たせてくれた。けど、その中に『水底の船体』の写真も入ってた」

「『Crossroad Ghost』の写真か。物質に憑いてユニゾティアに……ってことは、アレがこっちに来たのは事故で、ガイアやベルフェの差し金ではないんだね?」

「うん。心配かけた。ゴメン」

「いや、取り越し苦労で良かったよ」


 不安に駆られて上告した事柄は、神々側の戯れの余波に過ぎなかった。疑問がすっきり解け安堵する魔導士に対し、歌姫は少々気まずそうに見える。肩の力を抜く英傑の二人の下に、新たな人影が天から舞い降りた。


「あぁ、ユニティ様もおk」


 止まった。




 発言の最中に、魔導士は固まった。




 真っ白な世界の中、指先一つ動かない。




 衣服も、欠片ほども靡く様子がない。




 彼だけではない。歌姫も固まった。




 ユニゾティアそのものの時間が、止まっている。




 歯車の止まった世界の中で、




 ユニゾティアの女神『ユニティ』は




『 あ な た 』 を 認識




「そんなに驚く事? 私はこの世界、ユニゾティアを見守り統べる女神だもの。所有物の時間を止めれて、何か不思議があって? ……読者さん、だとややこしいのよね、ここの場合は。ともかく……世界を上から見ているのだもの、脇から世界を覗く誰かに気が付いても、何もおかしくないでしょう?」


 女神の姿は固定されていない。『あなた』の思う通りの姿をしている。


「どうでもいいでしょう? 閲覧者さん。あなた達にとって『神』は、一人ひとり理想の姿が違う。その姿を思い浮かべれていればいいの。いちいち描写したって、それは創作者にとっての神でしかない。だからここは、あえてあなたの想像力に委ねるわ。ふふふ」


 女神は『あなた』から目線を外さず、くすくすと笑っている。


「ここまで読み進めているのなら、それなりに興味を持って話を聞いているのでしょうね。色々と考えているのでしょうけど、生憎今回の『用語解説』はお休み。今までも新しい単語が無視されてきたけど、重要な単語のオンパレードだもの。まだまだ明かせない。

 私たちにとっては千年前の事だけど、『あなた』に明かされるのは多分、二章以上先の出来事だ……なんてね」


 おどけた言葉を最後に、女神から笑みが消える。


「『ユニゾティア』で起きたことは単純よ。『あなた』が好んでいるかどうかは知らないけど、『今』『ここに』『いる』以上絶対に知っている。

 それの立ち位置を変えただけ。視点が少しだけ、ズレただけの話。

 気を付けなさい? 少なからず『あなた』も……『欲深き者ども』になり得る素質が、あるのかもしれない」


 女神の視線は、氷のように鋭く冷たい。

 くるりと背を向け、去り際に一言残して消える。


「『あなた』の世界がどうなるのか、今の段階ではわからないけど……

 これから大変でしょうけど、『あなた』のガイアに見限られないよう、頑張る事ね?」


 そして消え去ると同時に、歯車は再び動き出す。


「あぁ、ユニティ様もお変わりなく……って、いない」

「ん。何だったんだろ」


 首をかしげる英傑二人に

 女神の意図は、分からずじまいだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読者語り掛けるメタは、某エロゲで二人目のヒロイン攻略ルート入ったときに、一人目攻略したヒロインが画面のプレイヤーの浮気にブチ切れてゲーム落としたやつが一番怖かった。
[一言] お、おお。ユニティ様が読者に語りかけるとは。めっちゃ驚きました。しかし、セイランを転移させたのがユニティ様で吸血鬼を作ったのは地球だったとは。てっきりセイランを転移させたのは地球でセイラン…
感想一覧
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