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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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検証

前回のあらすじ


 煮詰まった議会に途中参加するムンクス。視線もそこそこに彼なりの仕事を伝達し、反応するエルフの議員たち。レリーの行為は黒とはいえ、全てがすべて嘘とも思えない。事態の収拾に向けて、役員たちは各々動き始めた。

 長く続いた会議の喧騒は、城からすっかり引いていた。

 夕焼けの指す会議室には、二人の吸血種しか残っていない。

 いつもならもう一人、この場に立つ人物がいるのだが。空席を見つめる二人は、空いた穴を埋めようと言葉を交わす。


「ダスク……事後報告になってゴメン」

「いいや。予兆を増やすべきではなかった。君の判断は正しいよ」


 死んだかつての仲間も、千年前であれば同調しただろう。せめてそう信じたい。もう何も語らう事はないが、残された吸血種達は『ある案件』を引き継がねばならない。


「ただ一つ咎めるのなら、『対憑依型ゴーレムの特殊部隊』まで殲滅してしまった所かな。君の『ユニゾン・ゴーレム』部隊で代用するつもりかい?」

「どうだろ。歌姫様の奇跡は再現しきれてないよ。アイツらが出て来たら、ユニゾン・ゴーレムだけじゃ無理。今回ので判ったけど、不快感の共有加減が難しいんだよねー」

「なのに殲滅したのかい? 本当に?」


 ここには今、二人きり。周囲の目を気にする必要はない。真実を求める魔導士に対して、かつての少年は呆れ顔で手を広げた。


「ほぼ殲滅したよ。数人は尋問のために確保したけど」

「ちょっとやり過ぎじゃないか?」

「ぶっちゃけクソ雑魚だったよ。特殊部隊なんて名ばかり。あんなのなら普通の兵隊の方が強いんじゃない?」

「……本当に?」

「ホントホント。気になるなら確かめる?」


 顎でしゃくって、ムンクスが席を立つ。城内部を歩く少年に続き、五英傑の一人も歩みを進めた。

 向かう先は一つ……昨日戦闘が繰り広げられた、ユーロレック城地下内部である。

 ひっそりと佇む奥の小部屋は、ゴーレムとエルフの人員が出入りしている。暗黒の広がる暗がりは、ユニゾン・ゴーレムと役員でひしめいていた。


「警告。この先、極めて不愉快な悪徳の痕跡有り。興味本位の侵入は非推奨」


 門番の如く立ちふさがり、強い言葉を吐くゴーレムへ魔導士は語る。


「これから僕の術で状況を再現する。検証に参加するかい?」

「――合議中」

「許可しない。君たちは役目を優先して。処理負荷で倒れられちゃ大変だし。ボクが代わりに見て来るから。求めるなら、話して聞かせるから」

「……了解」


 創造主の言葉にすっと身を引いて、暗部への道は開かれる。『黄昏の魔導士』が腰に差したレイピアを引き抜き、軽く思念を通すと淡い光が灯った。

 派手に破壊された隠し扉の先、苔と錆とカビの入り混じった、酷い悪臭が沈殿する暗黒へ吸血種が降り立つ。

 新しい傷と古い傷、乾き切った血と、まだ時間経過の薄い返り血。

 時折通過する顔色の悪いエルフたちを尻目に、すれ違うように二人は深部へ……主に人が拘束された箇所へ向かう。


「ここも本来は……異界の悪魔たちに備えて、作った筈なんだけどね」

「城壁都市全体がそうでしょ?」

「いや、ユーロレック城だけは戦争当時にも建てられていたよ。当時のエルフは森を生かした地形戦術が主だった。けれど真龍種を仲立ちにした和平交渉や、他の種族に権威を示すために、この城は建造されてたんだ」

「……それって戦争で使えるの?」

「いや全く。この城は城に見せかけたハリボテ。会議場だったってことさ。あの戦いが起こるまでは……そして戦いの後、この場所は増設された」


 異界の悪魔に備えるために、この地下は追加で設けられた空間。その隠しスペースを使って、悪魔めいた所業を行っては世話がない。まっ黒な天井へ目線を向け、ついムンクスは足を止めてしまった。

 少年が歩みを止め、つられて魔導士も靴音を止める。真紅のレイピアから一時的に光が途切れると、魔導士は何事かぶつぶつと呟き始めた。


『詠唱』


 それは失われた魔法技術。

 否、輝金属の発展に伴い、不要となった旧世代の術式。

 物質を媒体にすることで、思念一つで発動できる輝金属の方式と異なり

 一人ひとりの術者が己と対話し、魔法を引き出す……効率の悪く、古臭い魔法の発動方式。

 もはや長老エルフか、真龍種か、あるいは吸血種しか行使不能だ。例え発動出来たとしても、魔法技術の発展に伴い、完全な下位互換にしかならない。精々知らない者を、驚かせる程度だろう。

 だが――『黄昏の魔導士』においては、この図式は当てはまらない。

 何故なら、彼が保持する『測定不能の異能力』は『他者の異能を、魔法の式に組み替えて発動する』異能故に。


「――この状況なら『時視の窓』でいいかな」


 元型輝金属・レーヴァテインが、夕焼けのような赤色を発していく。

 魔導士の精神力を吸い、彼が紡いだ祝詞のりとに従い、かつて世界を震撼させた力の一つを、彼はこの場に顕現させた。

 初見の人間なら奇跡の再現に息を飲むのだろうが、ムンクスは少し表情筋を動かしただけ。付き合いの長い少年には、見慣れた光景の一つに過ぎない。


「その異能、好きだよね」

「発動コストが安く済む。他のは強力過ぎて小回りが利かない」


 赤い剣で円を描き、その軌跡が光の輪となって残留する。

 程なくしてその光景が、周囲の景色とズレ始める。

 逆巻くハズのない時間が――その窓の中でだけ、巻き戻っていった。

用語解説


『詠唱』


 旧式の魔法方式。呪文を唱えて魔法を発動する方式。魔術式の原型に値する方法だが、現在のユニゾティアでは輝金属の発展に伴い旧式化。行使できるのは一部の長老のみだが、基本的に下位互換になりがち。

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