表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

182/738

事件解明に向けて

前回のあらすじ


 長い時を生きた『黄昏の魔導士』は、何度も繰り返された現象にうんざりしていた。立場を変えて広げられる演目と、目の前の議論を比較し、かつての仲間であろうと断罪すべきと、吸血種は主張する。静止をかける重鎮に対し、若い衆から見れば忖度だと切り返す。停滞した議論の場に、再び途中から乱入する子供の姿があった。

 もう一つの空席の主は、一斉に視線が集中するのも構わず戸を開けた。

 ちょうど会話が途切れた所だったのか、彼を拒む様子は見られない。反応は様々だが、長老エルフは表面上の苦言を呈した。


「ムンクス君……またかね?」


 いつもの事とはいえ、今回ばかりは甘い顔を見せない。彼の配下が大いに関わった事件に、出席を遅らせるとはどういう了見か。微かな威圧感を滲ませた言葉に対し――子供の彼の顔はニコリともしない。真っすぐ真摯にムンクスは答えた。


「生き残った人たちを宥めて来た。それと現場の様子も」


 二回足元を踏み鳴らし、城の地下を指し示す。驚愕と共に深く息を吸い、老人から全ての反感は溶けて消えた。


「身体の方は……時間はかかるけど完治すると思う」

「そうかい……不幸中の幸いだな」

「どうだろう。何人かは外に出た後も『殺してくれ』って……自殺に走った人結構いたよ。無理やり抑えて、今は眠ってもらってる」

「……治療費は政府が持たねぇとな」


 知らなかったでは済まされない。レリーの名誉云々ではなく、これは人として、政治家として、果たさなければならない責務だ。唇を結ぶ役員たちを尻目に『黄昏の魔導士』は小さく唸る。


「もちろんそうだけど、復帰の補助も必要だ。保護し過ぎて、伝統生活区みたいにしたくない」

「そうか? 被害者の多くは貧困の連中だ。元々社会から外れるような奴らだぞ。適当な対応で構わんだろ」

「エルフの若い跳ねっかえりも、同じ扱いをする気?」


 ムンクスの返す言葉が、ラーク議員に突き刺さった。硬直する老議員と対面するヒッポス議員も顔色を変える。


「レリー様……あ、いや、レリーはエルフをも襲っていたと……?」

「襲った……とは少し違うかも。たまたま裏路地へ出向いた時に、うろついてた人を口封じしてたんだ。その時、若いエルフの子は連れ去られて……」


 強い怒りをにじませた舌打ちが、若いエルフ議員の口から飛び出す。素行の悪さに気を払う余裕もないのか、彼は前回の議会の事柄を持ちだした。


「若い衆に噂を流してみると、前回の終わり際に言いましたね? あの後実行したのですが、部下から反応が妙だと報告を受けていました」

「内容は?」

「『既に知っている』あるいは『噂を浸透中、身辺に気を付けるよう注意された』と。推察ですがレリー議員は、吸血種私兵を使って隠蔽工作をしていたのでしょう。彼らの中……若い跳ねっ返りの間では、そこそこ有名な話だったようです。証拠がなくとも、実際に被害があれば察せますからね」

「お前の部下、よく無事だったな」

「流石に私の配下へは手を出せなかったのでしょう。あの時は議会が『失踪は異界の悪魔が原因かもしれない』と揺れている時期でした。当時は半信半疑でしたが、実際に人が消されれば警戒される。ただ、正体までは割れてないと判断したレリーは、ほとぼりが冷めるまで放置する腹だった……ん?」


 口に出して整理するうち、ヒッポス議員の視線が泳いだ。

 確か以前の会議では、レリーが『欲深き者ども』の復活について、隣国の『悪魔の遺産』騒動を持ちだした。その途中でムンクスが乱入し、裏路地の失踪事件との関連を仄めかした気がする。

 そして今回の暗殺劇――実行犯はともかく、後続で飛び入りしたのは『ムンクスの配下のゴーレム部隊』だ。うっすらと見えた因果の線に戸惑う議員。口ごもる彼を周囲が気にかけた。


「どうしたヒッポス?」

「え、あー……以前の議題なのですが、もしやレリーの報告に虚偽があったのでは?」


 やんわりと話題を逸らしつつ、気になる点を指摘する。黒い裏側が明かされた後では、全てが疑わしく見えるものだ。無言で同調するエルフたちに対し、『黄昏の魔導士』は明言する。


「いや、そちらは事実だよ。僕の方でも裏が取れた」

「本当に?」

「疑うのも当然だね。対立中の国だし、情報を取れないのも無理はない。が、グラドーの森に結界が残ってる。奴らが滅びてない事は明白だよ」

「……なるほど」


 いまいち納得しかねる若輩議員に、最長老のエルフは間を取り持つ。


「しかしヒッポス君。君の指摘は悪くない。レリー君が関わっていた案件について、残された我々は再検証の必要がある。どこまでが黒で、どこまでが白なのか……全てが黒だとも思えないし、また逆も然りだろう」

「そうだね。引き継ぐべき件もあれば、ここで断つべき案件もあるだろう。ムンクス君、君が一番手元に情報があるはずだ」


 少しだけ微笑んで、少年はコクリと頷いた。


「被害者の種類は『裏路地のストチル』『裏路地にたむろしてたエルフの若い衆』『レリー経営の養護施設・老後施設の行方不明者』の三つに別れてる。被害者、犠牲者リスト今作成中だよ」

「犠牲者……」

「文字通り『骨の髄までしゃぶりつくされた』状態で発見された。ゴーレムでさえ不調を訴えてて……フリックス、今日来てないでしょ?」


 ムンクスのお目付け役、頭部を立体映像で表現するゴーレムの姿がない。彼は比較的情緒豊かな人だ。事件の発覚に精神衰弱を引き起こす様は、用意に想像がつく。


「後で見舞いが必要そうだね……普段から胃を痛めてそうだし。今は休暇を?」

「ううん。休み休みだけど……他のゴーレムの子とローテーションで動いて資料を纏めて貰ってる。ひとまず『若いエルフの生き残り』のリストは作成できた。ヒッポス君、近年の行方不明者と照合してほしい。親御さんの所に帰せるかも」

「承諾しますが……ムンクス様、人手を借りれますか? この手の照合はゴーレムの方が向いてます」

「ゴメン、こっちも全然足りてない」

「ですよね……分かりました、内々で手を回します。先に失礼しても?」


 途中離席は失礼に当たるが、誰も指摘はしない。皆分かっているのだ。これから我々は、事態の収拾に奔走する羽目になると。

 ヒッポス議員の離席を皮切りに、今後の応対への具体化へ移る。老いも若いもなく、この国の未来のために……役員たちは言葉を重ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ