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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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幾度となく繰り返される風景

前回のあらすじ


 長居一夜が明け、緑の国の役員は招集を受けた事柄に絶句した。

 明るみになった吸血種、レリー一派の事件を受けて対応を協議する。バッサリと断罪すべしと主張する『黄昏の魔導士』。戸惑う長老エルフたちに対し、五英傑の一人は嘆息した。

 この場において唯一『別世界』を既知する吸血種は、幾度となく再演される茶番ファルスに肩を落とした。

 こちらで千年、向こうでも五百年は生きただろうか? 長い長い時を生きた中で、人を変え、立場を変え、世界を跨いでもなお……この題目の演劇は繰り返されている。


 全ての始まりは向こうの世界にある。きっかけは傲りが招いた事。

 魔導士の種族を含む影の政府が、下々の統制を誤った。世界秩序に抑えこまれ、命をカネに変えられ続けた弱者の一部が、世界の目を逃れて力を手にした。星を壊しかねない兵器を手元に持った彼らは、怨念から兵器を暴走させ大量破壊を引き起こしたのだ。

 怨念を込めた一撃を受け、祖国を壊された者たちは、見当違いの報復合戦を始めてしまう。かつての危機のように、良心で思いとどまる事は出来なかったのだ。

 その頃のダスク……後に『黄昏の魔導士』と呼ばれる吸血種は、当時ある人間ヒューマンと『交信装置』を開発していた。しかし事件をきっかけに『交渉装置』へ路線を変更せざるを得なくなった。文明を残すため、別の世界への『移民計画』をスタートさせるために。

 何度かの失敗を経て……大破壊から約十年、遂に『女神』との交信に成功した。

 難航するかに思えた『異世界転移』への交渉は、予想以上にスムーズに行われた。さらに希望者には――後の『測定不能の異能力』まで与える大盤振る舞い。気前のよい話の現場に居合わせたのは、十代後半から三十代前半の若い層と、六十を超えた役員たちだ。

 前者はすぐに飛びつき、後者は眉根を潜めた。世代断層は彼らの間にも存在し、『黄昏の魔導士』もまた後者に属していた。

 故にまず、若い世代が『異世界転移』を実行し、視察の後可能なら拠点を築く。その後第二陣として役員を転送し。別世界を十分に把握し、住居やライフラインを構築した後、残った人間全員を移住させる。そのはずだった。

 しかし第二陣は転移と同時に壊滅した。先んじて転移した第一陣は、この世界『ユニゾティア』に慣れ、異能の力も掌握済みだった。彼らは「第二陣が転移した直後において、元の世界と力関係が逆転していた」

 既に第一陣はユニゾティア全域に宣戦布告し、侵略を始めていた。彼らは後々やってくる第二陣を疎ましく、そして脅威に感じていた。自分たちと同格の異能を持ち、自分たちよりよっぽと弁の立つ……旧世界の上位者たちの事を。

 それ故の奇襲。それ故の排除。

 辛くも襲撃を逃れた『黄昏の魔導士』は、ユニゾティアの住人と合流し、同郷の者たちと戦った……後はこの世界に残された歴史と、大よその筋は変わらない。


 力を持つ者と持たざる者。

 立ち位置を変えて繰り返される風景。

 本人の意志や人格はさほど重要ではない。

 立場の枠に収まれば……人の行動は同じ場所に行きついてしまう。


 始まりの者たちは、世界に搾取された枯れた地の民

   ↓

 力を得た彼らは母星を破壊した悪魔

   ↓

 崩壊する世界から、脱出を図る文明人は『測定不能の異能力』を得

   ↓

 力を得た第一陣は『欲深き者ども』となってユニゾティアを壊した

   ↓

 傷を負いながらも『異界の悪魔』を退け、この世界で英雄視された吸血種は

   ↓

 強大な力を得て肥え太り、少年少女から生命と血液を搾取した……


「もう、うんざりだ。そう思わないか?」


 誰にも共感を得られないのを承知で、魔導士は哀愁を宿した瞳で皆を見つめた。胸の内から溢れる言葉が城内に響く。


「僕たちは国を動かす力を持つ個人だ。だがレリーは力の扱いを誤った。ならば代償を払わなければならない」

「名誉を剥奪する形で……ですか」


 既にレリーは死亡している。生きて罪状を言い渡す事は出来ない。完全な隠蔽も難しいのなら、他の方策も見いだせないが……なおもエルフの重鎮たちは渋っていた。


「本当に、それでいいのか?」

「うん」

「共に奴らと戦った中だろう?」

「そうだ」

「なのにこれじゃ……レリーも奴らと同一になっちまうぞ」

「何か問題が?」


 ばっさりと断罪する言葉を受け、老人たちが……千年前を知る面々が息を飲む。黄昏の魔導士の心情を計れぬ彼らは、惑うように視線を泳がせた。

 長老エルフのドラージルも目元を歪める。かのエルフもまた、千年前の戦争を肌で知る人物だ。だからこそ……吸血種の心情を理解しかねる。


「苛烈な主張ではないか魔導士殿。貴方は我々以上に、レリーと死地を越え、今日この日まで良き友ではなかったか? 貴方は……その仲間を安易に捨てるのか?」

「よしてくれドラージル老。それは僕らだけにしか通じない言い分だ。彼らを見ろ」


 老エルフを見つめたまま、吸血種は若いエルフの議員たちを指した。言われるがまま視界に映す顔つきは、喉元まで出た言葉をギリギリのところで留めている。口を挟まずとも、行く末を見守る彼らへ……魔導士は静かに謳った。


「確かにレリーは戦友だ。彼がいなければ、今このユニゾティアの存続は危うかっただろう。事件が明るみになった今も、千年前の彼の評価は変わらない」

「ならば、何故そこまで……」

「次の千年のために。僕らが退しりぞいた後の未来のために」


 息を飲み、口を閉ざす人々へ……黄昏の魔導士は背筋を伸ばした。


「過去を学ぶのは大事だ。だが過去に囚われ今を歪めれば、未来ではもっと致命的な歪曲になりかねない。思い出は懐かしいけれど……あんまりそれに浸ってると、若い世代に見捨てられるよ?」

「どうなるか分からない未来のために、お前は縁を切れると? 薄情な奴め」

「……甘んじて受けるよ。その批評は。本当に良き友人でありたいなら……もっと早くレリーを諫めるべきだった。彼が腐り切る前に。縁が腐って、周囲から見れば忖度になる前に」


 ――暗に擁護を忖度と呼ばれ、議会がシンと静まり返る。

 沈黙の降りた会議は、子供が扉を開く音で再び動き出す……

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