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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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共有するゴーレム

前回のあらすじ


 五人の吸血種を屠り、一息つく晴嵐。合流したデルタ・ゴーレムと会話すると、まだ生き残っていた吸血種が襲い掛かる。難なく敵を捕える二人。晴嵐が発する「悪魔の遺産」に似た破裂音を問う吸血種に、晴嵐は意地悪く種を明かす。

 ただの紙で作ったガラクタを見せつけ、悪趣味と言われる晴嵐。最後は吸血種に刃物を見せ、尋問するかどうかを問う……

 現場のデルタ・ゴーレム一機から通信を受け、待機中のイプシロン隊は合議に入った。

 崩れた石の床の前、地下への入口でたむろする彼らは、一見ただの木偶の坊にも見える。救護用の輝金属を装備した彼らは、一人残らず眼光が失せていた。

 ――ムンクスが心血を注ぎ製造した「ユニゾン・ゴーレム」は、互いの情報と感覚を共有可能な、特殊なゴーレムだ。突入待機中の彼らは、その場で仲間の代わりに、全ての演算を代行している。

 ゴーレム各機の位置情報と、お互いの状態をリアルタイムで共有。完璧な連携を可能にし、吸血種私兵部隊を叩き潰していく。戦果を上げ続ける地下内部から、一つの申告を受け後方部隊は思考を裂いた。

 セイランに同行するゴーレムから、捕縛した吸血種を尋問するか否か? 唯一連動の外にいる男の提案に、一旦保留せよと通達する。判断を下すため意識をデルタ隊から離し、別の仲間へと意識を繋いだ。

 薄暗い城の地下から、豪奢な屋敷内部へ感覚が移り飛ぶ。イプシロン隊が、別のユニゾン・ゴーレムの感覚を優先した結果だ。その場所は――レリーの館。

 テグラットが侵入し、黒幕たる吸血種を排除した館は、別動隊のアルファ・ゴーレムが活動中だ。彼らもまた「ユニゾン・ゴーレム」シリーズに該当し、距離があっても情報リンク機能は有効だ。その情報を、直接イプシロン隊は覗き見る。

 現状、少女は館から離れ、ゴーレム達は主を失った館に進入中。使用人たちは突然の出来事に戸惑うも、ただならぬ様子を受けゴーレム達の指示に従った。一つの部屋に内部の人間を纏め、勝手に動かれないように……もっというなら「証拠を隠蔽されないように」事が済むまで軟禁中だ。

 レリー屋敷のアルファ・ゴーレム達へ、支援中の部隊が伝達する。


“優先目標を指定。城下内の情報を求む”

“アルファ各機、了解”


 私兵がおらずとも、その肝となるモノは必ずあるはずだ。まだ作戦行動中の仲間へ、有益な物も間違いなくある。レリーの私室を重点的に探り、程なくして隠された石ころが大量に見つかった。

 一見ただのライフ・ストーン……道しるべにもなり、ポート越しに連絡を取り合える便利な石ころだが、わざわざ目につかぬ場所に隠すのならば、内容は想像がつく。表に出せない大量のメモと記録を納めた、大量の資料が羅列されていた。

 今までの襲撃計画などの、悪行三昧の決定的な証拠――

 コレを抑えれば、今回の作戦は成功と言える。仮にレリーが生きていたとしても、議会に提出すれば致命傷は免れないだろう。

 しかしゴーレム達は一旦無視する。今この時、最も必要な情報は別だ。

 無数のライフ・ストーンから中身を引き出し、求めるモノを探し続ける。後々使う証拠品と無駄な物を分別しつつ、一機のゴーレムが目標物を発見した。

 城下内、地下領域の地図を保存したライフ・ストーンだ。すぐさまアルファ・ゴーレムはその全貌を視界に捉える。

 ――たちまち、支援部隊のイプシロンから

 ――現場で行動中の、二十機のデルタ・ゴーレムへ直接伝達。

 館での地図の発見から一分と経たず、誤解なく意志と感覚を共有し、前線の彼らは今『地図上のどこに自分と仲間がいるか』を、完璧に把握した。

 ……通常、組織員が増えるほど、間に人物を挟むほど、情報伝達は遅く正確性を欠くようになる。が、ある奇跡を再現した「ユニゾン・ゴーレム」達にその心配はない。

 言葉だけでは誤解を生みかねない、現場特有の微妙なニュアンスさえ、彼らは共有できる。故に現場の一機……セイランの傍にいるゴーレムは進言を取り下げた。

 直接、黒幕が保持していた資料を共有できるのだから

 現場の誰かを尋問する必要は失せた。

 騙されるリスクや消耗の危険を考えれば、その雑魚は捨て置いて構わない。判断を下し、現場のゴーレムはセイランに伝えた。


「内部情報を共有しました。尋問の必要はありません」

「あん? 何を言っとる?」

「アルファ・ゴーレム隊が、レリーの館から情報を入手。捕縛された人々の箇所も確認しました。敵勢力の全貌も追って送信されるかと。よって不安定な方法を取る必要はありません」


 あまり良い伝え方ではない。作戦面子の中で、セイランだけが口頭での説明を必要とする。もどかしさを感じるイプシロン隊と裏腹に、男は思いのほか理解が早かった。


「ああ、お前さん達は確か……色々と共有出来ると言ってたな」

「肯定。敵本拠から得た同型機の情報を随時更新、現状制圧率は77%。地図によれば『保管所』はこの奥です」


 書き示された名称通りに発音すると、セイランの表情がぴくりと動く。舌打ちを漏らした彼は、捕縛した吸血種をおもむろに蹴り上げた。

 ――今までなら虐待行為と静止したが、もう現場のデルタは黙認する。他の箇所で戦闘を続ける仲間たちも、心なしか苛烈さを増した動きで敵を屠っていく。

 この闇の奥で行われた所業。ソレを正しく『共有』したゴーレム各機は

 感情の薄い金属の彼らさえ、静かに激昂していた。

 男の感情に同意しつつも……この先に広がる冒涜を知り、ゴーレムが告げる。


「警告。ミスターは撤退を推奨」

「なんじゃ急に」

「警告。極めて生理的に、不愉快な領域が展開中と推測。発狂の危険性有り」


 強い言葉を受けても――その男は、静かに首を振るばかりだった。

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