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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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闇夜の作戦

前回のあらすじ


 ムンクスのゴーレム工房の一角を借り、対吸血種用の装備を製作する晴嵐。監視役のフリックスを助手代わりに使うが、彼から晴嵐へ強い不信感を打ち明けられた。はぐらかしつつも、晴嵐は本心から求めるモノ『千年前の一部』を対価に、穢れ仕事の用意を進める……

 時刻は夜明け前、闇は深く街は静まり返っている。深夜は過ぎ去り、間もなく朝日が昇るだろう。ほとんどの人が床につく中、二匹のドブネズミと無数の金属が闇に蠢く。一機の赤銅色のゴーレムが、目線を緑色に点滅させていた


「ガンマ隊より周辺情報を取得。関係者以外の反応なし」


 アルファ・ゴーレムの一機が、低い音声を協力者に伝達する。頷く余裕もないほど張りつめた二人に、ゴーレムは淡々と報告を並べた。


「ベータ隊配置完了。緊急時は予定コースを通り退避を。アルファ隊と連動し撤退を支援します。お二人とも共鳴石も保持していますね?」

「……うん」


 血を連想させる赤黒の石を、灰色の瞳で少女は見つめる。晴嵐も懐を指差すと、ゴーレムは使い道を伝えた。


「テグラット、セイラン、両者共に囚われの人員を発見し得る状況です。その箇所に共鳴石を配置して頂ければ、イプシロン隊……治療を担当するユニゾン・ゴーレムが、優先的に突入し救護に当たります」

「そいつらが先頭で大丈夫か?」

「護衛はデルタ隊が控えています。ミスターセイランの打ち漏らしも彼らが始末しますが、あなたの活躍次第で状況は流動的に変化するでしょう」

「わしがブチ転がした分だけ、後ろが楽になるのか。了解」


 身に着けた黒の外套に、無数の対吸血種用の道具を仕込んだ男……セイラン・オオヒラが感情のない目で答える。抑揚のないその瞳は、ゴーレムよりも冷たく見えた。

 闇の中でも一段濃い黒の瞳、同僚のデュラハンよりも冷徹な瞳がアルファ・ゴーレムを見つめ忠告した。


「位置が割れておるからと言って……背中から撃つなよ」

「ちょっとお兄さん? まだ信じてないの?」

「テグラットはともかくわしは余所者だ。どさくさ紛れで排除しに来るかもしれん。用済みになった途端消す気なら……覚悟しておけよ」


 ゴーレムは三秒ほど硬直し、闇の中で沈黙を行う。ギギギと鈍く首を動かし、静かに赤銅色の金属は答えた。


「そのような命令は受けていません。マスター……ムンクスは、ここの面々すべての生還を望んでいます。我々ユニゾン・ゴーレム部隊も、マスターの意志を完全に遂行する努力を実行します」

「ムンクスらしいと言えるが……だったらお前さんの粘っこい視線は何だ?」

「……理解しかねます」

「殺気が漏れてるぞと言っている。あぁ成程? お前……わしに腕を捥がれたアルファ・ゴーレムじゃろ」

「解答を拒否」

「自白と変わらんな」


 急激に劣化するかの如く、ゴーレムの挙動が異常をきたす。駆動部各所からノイズ音が増え、挙動全体がぎこちない。狼狽を見せるポンコツに対し、「ヘタクソ」とセイランがヤジを飛ばした。


「もっとうまく感情を隠せ。露骨すぎる」

「疑問。ミスターは当機との対決を所望ですか?」

「沸点低すぎるぞお前……それとも動揺を隠したつもりか? ん?」


 プツリと神経が切れそうになる。ショックで意識に数秒の空白が生まれ、動力切れに陥ったかのようだ。

 同型ボディの集団からピンポイントで見抜かれ、内面まで見透す男に対し恐怖を覚える。そのアルファ・ゴーレムは確かに、かつてセイランと対決した機体だ。


「理解不能。何故当機の心理を?」

「ドブネズミの勘じゃ。もっと言うなら『なんとなく』じゃよ。わしらみたいなドブネズミは、他者の悪意に過敏な所があってな」

「質問。テグラット嬢、あなたもですか?」

「えぇと、はい。あの路地のみんなは……鈍いか鋭いかどっちかです。たぶん」


 暗黒の夜空に頭部を向けて、鋼鉄は小さく呻き嘆く。


「把握。当機の経験不足」

「だ、大丈夫ですよきっと。わ、私より体は頑丈だし……その、他の人と連携できるんですよね? ユニゾン・ゴーレムさんは」

「肯定。当機モデル『ユニゾン・ゴーレム』は、他のユニゾン・ゴーレムと常時相互通信可能。現在もガンマ隊の情報を共有中」

「え、えっと……よくわかんないですけど、すごい……ですね?」


 曖昧に流すテグラットの脇で、セイランの瞳が険を帯びる。彼の追及を避けるため、先んじてアルファ・ゴーレムは問いかけた。


「ミスター・セイラン。ユニゾン・ゴーレム全機による、合議の上での質問が存在します」

「大げさな前フリじゃな」

「本作戦の成否を……特にミス・テグラットの生命に関わる件です。本当に……本当に、あの『オリガミ』が有効札になるとお考えですか?」


 ただの紙切れで作った玩具は、突入する両名の懐にある。そっと手を添える少女の隣で、セイランは迷わず回答した。


「当然だ。なんじゃ? ただの小細工だと思っておるのか?」

「猜疑的。極めて原始的なトリックと推定。子供騙しと判断します」

「そりゃ手品の種を知っておるからな。お前さんにとってはそうなんだろう」


 男も折りたたまれた紙細工を取り出し、五枚並べて見せびらかした。硬質な紙材で折られたソレは、少女も同じ物を同数保持している。


「だが知らなければ……これの発する音は『アレ』と誤認し得る。ムンクスに試したら引っかかったぞ。お墨付きも貰った」

「……本当に?」

「本当だとも。ま、知ってるわしも馬鹿馬鹿しいと思うが……種のわからぬ手品は、魔法のように映るもんさ。下らないトリックでも、秘密の内は得体が知れぬ。

 これはただの騙し討ち……初見殺しと言うものよ。傲り高ぶった吸血鬼ブラットサッカーには、理不尽に死んでもらおうじゃないか」


 くっくっくと意地悪に笑う男に、うすら寒さをゴーレムは覚えた。

 これだ。この悪意と対峙し、アルファ・ゴーレムは片腕を損傷したのだ。

 ただ鍛えたのでも、ただ学んだのでもない。敵対者を屠るためなら、何であろうと利用する男の流儀に、ゴーレムの手が無意識に片手に伸びる。思考のノイズが『別のゴーレム』に伝播したのか、慰める声がアルファに届いた。


“恐怖を測定……デルタ隊解答。今は彼の悪意を、心強いと捉える事は可能ですか?”

“……消極的に肯定”


 心象を繋いだ同型の仲間が、アルファの不安を和らげる。彼らだけのネットワークに耳を傾けると、緊張感のある一声が全機に通達された。


“こちらガンマ。全部隊配置完了。アルファへ、状況を開始せよ”

「了解。全部隊配置完了と通達。両名とも、状況を開始しましょう」

「……うん」

「いよいよじゃな」


 包囲の中から、二人の人影がレリーの館へと伸びていく。

 人狩に逢った人々の救出と、打倒レリーの作戦は……人目につかぬ闇の中で始まった。

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