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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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真実Ⅱ

前回のあらすじ


 湧いた疑問の外堀を埋め、晴嵐は一つ問いかける。人を狩り過ぎたと指摘する男に対し、ムンクスは世界の秘密の一部を二人に話す。

 実は吸血種は密かな増殖方法が存在し、下手をすれば人を次々と吸血種に変異させてしまうという。崩れる常識に二人は完全に固まっていた。

「じゃ、じゃあ『無限姫』って……始祖吸血種じゃないの?」


 前提が変われば、常識はことごとく覆る。

 ユニゾティアでは『無限姫』のみが、吸血種を増やせると言われていた。が、他ならぬ吸血種の少年は、真相は異なると告げる。


「違うみたい。二人とも元々人間で、別の吸血種が二人を変えたんだって。彼らの世界では、『無限姫』の方が異端らしいよ」

「彼らの世界?」

「欲深き者ども、異界の悪魔が元々暮らしてた世界の事。吸血種の起源は『向こう側』なんだ」

「えーと……じゃあ、ムンクス君は『向こう側』生まれなの?」

「ううん。知ってはいるけど、生まれも育ちもユニゾティアだよ。二人から聞いただけ」


 子供特有の呑み込みの早さで、晴嵐は完全に放置されていた。盛り上がる二人の脇で、フリックスだけが気まずそうだ。

 しかし男にとって僥倖。晴嵐は話を聞く態勢にない。彼は今、凄まじい混乱の渦の中にいる。


(馬鹿な。この性質は……)


 ヒューマンを……人を吸血種どうぞくに変え、ネズミ算式に増殖する在り方は『吸血鬼サッカー』と酷似する。やっぱり奴らと同一じゃないかと最初は思った。

 けれども、ムンクスの話や実際に見た『人狩』の印象から、彼らは知性を失ってはいない。危険だから真実を隠す行いは、知性のない吸血鬼サッカーには不可能だ。

 まるで中間種……想像がそこまで及んだところで、晴嵐は種族『ヴァンプ』を思い出した。ホラーソン村で晴嵐に常識を授けた人物、テティ・アルキエラが語った種族だ。

 彼女は別の世界から生まれ変わり、異界の記憶を保持して生きている女性だ。晴嵐の立場と状況を理解し、大いに力になった人物でもある。

 その際、彼女の前世について晴嵐は聞いた。元々どこかの姫で、外交官で、戦乱に紛れて夫と駆け落ちしたと。その戦乱の原因は『生き血を啜り人間を同族に変える種族』の台頭だ。自分たちを優等な種と主張し、全面戦争になったと聞いている。

 仮の名前で『ヴァンプ』と呼んだこの種族の特性と、今ムンクスが明かした『黄昏の魔導士』の特性……吸血種を増殖させかねない性質は、ほぼ同一の特性ではないか?


(まさか、テティの世界と繋がっている……?)


 彼女の世界、テティの前世界は『魔法は隠された限定的な技術で、その分ユニゾティアより文明が遅れている』らしい。近い世界から融和したのか? 安直な想像を振り払うのは、グラドーの森で響いた銃声の記憶だ。


(い、いや違う。それだと『悪魔の遺産』と『近代の銃器』が同一なのが……)


 千年前にやって来た異界の悪魔と、崩壊前の地球との間には何らかの関係がある。通じる言語や妙に馴染みのある文化など、これは間違いない事と確信している。

 が、それなら一体吸血種とは? そしてテティの語った『ヴァンプ』と吸血種との関係とは? もし関連があるならば……テティの前世と地球にも、何らかの関係性があるとでも?


「お二人とも、ミスターセイランが置いてけぼりですぞ」

「「あ」」


 混乱を放置と勘違いしたのか、フリックスが子供二人に注意する。どうやら晴嵐が考察に囚われる間、雑談で盛り上がっていたらしい。もう少し続けて貰っても問題ないが、振られた以上反応せねば。


「気にするな。衝撃が大きくての……」

「でしょうね。ミスターは吸血種に嫌悪感を持たれているそうですが……犯人はこの特性を持った吸血種なのかもしれません。心当たりは?」

「……微妙」


 眉間にしわを寄せ、頬を歪ませる晴嵐。彼の本音も答えが欲しいが、ユニゾティアの住人相手に話せることじゃない。口を閉ざす男に少年は首を振る。


「これも問題だよね。無差別に増えれば、犯人が分からない事件も増える。なまじ有名な種族だから、変な詐欺も起こりかねない。混乱を生まないためにも、秘密にする必要があったんだ。

 何よりこの性質が一番マズいのは、他の種族を無理やり同族にして、被害者種族を絶滅される形質。当時のユニゾティアはこの性質にすごく嫌悪的で――」

「坊ちゃま。関係ない事柄です」


 突然、少年の言葉を従者が遮った。咎めるような口調に、少年は自分の口を押えた。

 何もおかしなことは言っていない。現に地球文明は『吸血鬼サッカー』の性質のせいで本当に絶滅してしまった。止める必要があったのか? 失言を覆い隠すかのように話題を逸らす。


「と、ともかく……レリーは自分の同族化能力を使って、元ヒューマンの私兵を作った。秘密の吸血種兵団は必要だと黙認してたけど……養うために大量の人を消費するのはやりすぎだ」

「……うん」

「だから、ボクらも対処を考えないといけない。おじさんとテグラットも、今後どうするか……ここでボクと一緒に決めてほしい」


 あからさま過ぎる誘導に、晴嵐の瞳が険を帯びる。不自然な話題の振り方が気に食わないが、口を割らせる方法も存在しない。秘密の気配を脳裏に焼き付け、後々の考察に生かすとしよう。

 それに、今後の身の振り方について、方針を決めねばならぬ。秘密を知った以上、レリー一派は晴嵐とテグラットの口を、封じに来るかもしれない。


(不服じゃが……ここはムンクスに追従するしかないか)


 明かされた秘密のその先、さらなる秘密に惹かれながらも、晴嵐は気持ちを切り替え、今どうあるべきかに注力した。

用語解説


吸血種の真実・Ⅱ


 始祖吸血種は存在しない。変異のさせ方が異なっていた。

 理性は維持し、人を変異させる吸血生物……それについては聞き覚えがある。ホラーソン村で晴嵐に常識を授けたテティ・アルキエラが語った『ヴァンプ』と呼んだ種族に酷似している。果たして彼女の前世と、この世界の関係は? そして晴嵐の至った世界と、この世界の関係はどうなっているのか……

 そして晴嵐はもう一つ違和感を覚える。

 ムンクスの証言した『ヒューマンを全て吸血種に変えて全滅させかねない』説明を、強引にフリックスは静止した。何もおかしなことは言っていないはずだが……


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