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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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ゴーレム技術の権威

前回のあらすじ


 晴嵐の質問。「お前は千年生きたのか?」に対し、ムンクスは吸血種な肉体を歳を取らないと伝える。老化による肉体の不調がない彼らは、精神の側も年を取りにくい。

 一貫する少年の態度に理解を示すが、ムンクスが友情を求めると男はやんわりと断った。

 ムンクスの館は、城壁都市レジスの一画に門を構えている。

 政府中枢の 城と中央のポートの間、見栄えの良い大通りに面していた。周囲一軒一軒も豪邸であり、手入れの行き届いた庭が景色に彩を添える。そんな中佇むムンクスの館は、周囲から幾分か浮いていた。

 歯車、銅像、石と彫刻が並ぶ庭園。そこには動物も植物も存在しない。生命の息吹を欠片も感じない庭は、非常に独創的な作りと一目で分かるだろう。

 邸内で作業もするのも、肉体が金属のゴーレム達だ。全てが『非生物』で統一された庭は、館の主が何者かを周囲の人々に明示している。


『ムンクス・ホール』――千年前の欲深き者どもの戦いで、若干十歳の年で戦列に参戦した少年だ。と言っても前線兵ではない。当時普及の始まった『輝金属』を積極的に用い、主に伝令役として世界の防衛に貢献した。

『悪魔の遺産』によって瀕死の重傷を負い、その際牙を賜り吸血種へと転生する。吸血種となった後も好奇心は健在で、ゴーレムのボディの改良や人権運動にも参加した。同運動に参加した五英傑『ミノル』とも、親交があったとの噂もある。

 今も緑の国で存命の彼は『現役の』ゴーレム技師ギークだ。

 体調不良のゴーレムの治療しゅうりや、新型ボディや改良のアイデアなど……今もなおその技術を磨き続けている。ムンクスの持つ目的……本人曰く『大いなる野望』の成就を目指して。


「そ、そんなこと急に言われても……困るよムンクス君……」


 おびただしい肩書に気圧され、テグラットが髪を細かく震わせていた。丸耳もくるりと丸めて、困り果てた顔を見せている。

 彼女がいるのは館の中央、食事を楽しむ大きなリビングだ。古時計などの調度品が並ぶ中、ムンクスはゆったりと椅子に腰かけている。


「まーまー全然気にしないでいいよ。実家だと思ってくつろいで欲しい」

「そ、そんなこと言われても……」

「けっ、ドブネズミに酷な事を言う。むしろこんなところ、裏路地暮らしは逆に落ち着かんわ」

「知ってるよー? 友達招くの初めてじゃないし~」


 コイツ、反応を楽しんでやがる。おどおどするテグラットは、求めていた通りのリアクションなのだろう。今のムンクスの表情は、ドッキリに成功した仕掛け人の笑顔だ。

 傍らで控えたデュラハン型ゴーレム、フリックスも困ったように微笑んで少女に耳打ちした。


「申し訳ありませんテグラット嬢。これは、その……坊ちゃまの趣味といいますか……」

「確かにムンクス君は、人を驚かすのが好きだけど……」

「ご友人だけありますね……千年の間ずっとこういうお方でして……」

「フリックス~? 君が生まれたのは五百年前ぐらいのはずだけどー?」

「容易に想像がつきますよ」

「うん、私も」

「……わしも」

「満場一致!?」


 ピアノの低音が聞こえそうな、ショックを受けた様子で固まる吸血種。まさにガキのままだが、彼はこれでも『緑の国』の役人の一人だ。威厳のない主を補佐すべく、フリックスは政治的な事情を語り出した。


「議会でもこのようなお方ですが……それなりに影響力をお持ちの方です。坊ちゃまは今もゴーレム技術ギークの一人者ですからね。吸血種の立場を抜きにしても、寄付金や功績もあって議会は無視できません」

「同席する役人が不憫ふびんでならん」

「あー……えぇ。そうですね」

「大丈夫ですか? すごく、画像が乱れて……?」


 一番ムンクスに振り回されているのは、この執事役のゴーレムなのだろう。脇腹を抑える動作で察したのか、触れてはならぬ空気を感じ「ごめんなさい」と少女は深入りを避けた。微妙な表情を作ってから、フリックスは素直に言う。


「事実坊ちゃまが会議に顔を出すと、場を引っ掻き回すケースが多いです。ですがその『子供のまま』な事が幸いし、議論が好転することも多くてですね……」

「いやーだってさ? 国の事なんだし簡単じゃないけど、話を難しくすればいいってわけでもないでしょー?」

「いやまぁ……うむ……」


 子供の正論パンチほど、大人に刺さる言葉もあるまい。政治の臭気に染まり、頭でっかちの議員には、ムンクスの言動はいい薬になるのだろう。あるいはそれが、永遠の少年に期待される役割か。子供の言い草だが、故に学のないテグラットも頷ける。


「全部国が悪いなんて言わないけど……よく分かんない事を言い訳にして、私達だけを悪者にする人は嫌い。ムンクス君は違うけど……」

「議会に出てた人たちに聞かせてやりたいよ。ボクが強く押さなきゃ、あの案件もスルーされるところだったし」

「あの案件?」

「ちょっと前にユーロレック城で会合があって……確かおじさんと会ったあの日だよ。覚えてる?」


 忘れるはずもない。城と銅像の観光中に晴嵐とムンクスは出会ったのだ。いくつか言葉を交わした後、彼は顔パスで城内に入っていた。あの日に会議が行われていても不思議はない。役員と聞いて男は一つ確認した。


「記憶している。役員の中に……レリーは?」

「居たよ。彼も彼で報告があったみたい。それに便乗して……裏路地の事にプレッシャーをかけてみたんだ」

「ほぅ? 内容は?」

「『裏路地で人や子供が消えている、犯人はレリー君が警戒した欲深きものかもしれない』ってね。そしてボクは、ユニゾン型ゴーレムを警備に派遣するとも宣言した。あとは……エルフの若い議員のヒッポス君だったかな? 彼が若いエルフに噂を流すって」


 思わぬところで糸が繋がる物だ。晴嵐は目を瞬かせた。

 以前相談に乗った若者エルフ、カーチスの噂の出どころはここか。どうやら複雑な駆け引きと経緯を得て、今この瞬間はあるらしい。運命の皮肉を堪能する晴嵐の脇で、テグラットは友人に感謝している。


「ムンクス君……止めようとしてくれたんだ」

「そんな顔しないで。結局ボクは止められなかった。もしかしたら……逆に今回の事件を煽ったのかもしれない。他に打てる手だって、あったのに」


 丸耳をぴこぴこ動かして、獣人少女が首をかしげる。

 目の前の友に合わせる顔がないのか、ムンクスそっと瞳を逸らした。

用語解説


ムンクス・ホール

 千年前の戦争において、主に伝令役として貢献した少年兵。吸血種へ成った後はゴーレム技術に傾倒し、今もなお現役の技師である。

 本人曰く『大いなる野望』があるらしいが、全体的に言動は幼いまま。金を出して議会にも出て、散々引っ掻き回すが、彼の言動は時に薬にもなるようだ。

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