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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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異世界

前回のあらすじ


 村へと帰還したシエラ兵士長。門番と話していると、途中から晴嵐が合流する。不審者気味に彼を扱う門番たが、猟師としての技能や知識を披露もあり、彼を村に通した。

 時は少しだけ前後する。

 休むフリを終えた直後、晴嵐は別れた女の後をつけた。

 気取られないよう慎重に、けれども言葉は聞き取れる、絶妙な間合いを保って。

 兵士長と名乗ったことから、よく通る声の持ち主なことは予測がついた。林の傍で息を潜め、門番との会話を盗み聞く。

 ――人間は本人がいない場所でなら、本音はいくらでも喋れるものだ。

 別段、悪口ぐらいなら気に留めない。不愛想で、受け答えもはぐらかし続けたのだから、毛皮で機嫌を取っても愚痴の一つや二つは当然。警戒していたのは、『まだ毛皮を手にしている晴嵐から騙して奪い取ってやろう』とか、『不審者だから捕まえよう』などと話が発展した場合、彼は何も言わずに雲隠れするつもりであった。

 実際は、正体不明の晴嵐を猟師として扱い、しかも恩人として高く評価していたのだから驚いた。少なくともシエラ個人は多少信頼しても良いと判断し、彼は何食わぬ顔で合流を装った。

 露骨な不信感を見せた門番との問答は、終末世界での戦略が生きた。罠猟の経験も積んでいたが、相手は獣ではなく人を襲う吸血鬼サッカー。そして自分と同じ種族である人間だ。

 ――綺麗事で生きていけるほど、終末世界は甘くない。最初は晴嵐本人にもためらいや罪悪感が残っていたが……そのうち人を壊すことも、利用することにも、冷たい打算で実行できる人間になっていた。

 そして打算を重ね、門番との会話で彼が出した結論は……少しだけここで生活してみることにした。

 別に、シエラや門番に感情を持ったのではない。一つの集落としてマトモな方だと、晴嵐が判断できたからである。もしも、門番まで『お人よし』な対応だったなら、むしろ早々に逃げ出すことを考えていた。

 お人よしな集まりなんぞ晴嵐の世界では、吸血鬼サッカーが跋扈するまでもなく、他の人間に食い物にされていた。

 彼らは現実逃避の烏合の衆か、文明社会に無菌培養された虚弱者か、自分が倫理や善意で動いていれば、相手も自ずと合わせてくれる……なんて酷い集団妄想をわずらった連中のどれかか、それらが混在した弱者である。

 彼らに共通する特徴は一つ。外部から来る同族の悪意に、致命的なレベルで耐性がない。そもそも想定すらしていないので、正直アウトローどもにはただのカモ。拠点を丸ごと乗っ取られたり、全滅することもザラにある。それでは、いつ沈むかわからない泥舟と同じだ。

 シエラがお花畑な事を考慮し、彼女の村が泥舟な危険も頭に入れていたが……門番の応対を見るに、彼女だけが極端なのだろう。兵士長の地位にいることだけは、いささか腑に落ちないが……慕われる性質を買われたマスコットなのかもしれない。

 背中を門番に見送られながら、二人は村へ足を踏み入れた。早速彼は物珍し気にきょろきょろして、晴嵐は建造物や、人相、背格好、道の配置を頭に入れる。一つ一つ考察するのは後にして、推察と観察、そして想像力を駆使しながら大まかな全体像を、頭の中で組み立てようとした。

 しかしそれは、余りに無駄な努力だった。

 動物の……猫の耳と尻尾を生やした女性に、

 茶色の鱗に覆われ、長い尻尾を引きずりながら、二足歩行しているようなトカゲ。

 長い耳とすらりと細い身体に、異常なほど色素の薄い肌の民族。

 銀色の金属の身体に、青い筋を血管の様に通した直立二足歩行のロボット……

 これらの、晴嵐の基準では全く計り知れない、得体のしれない連中が、我が物顔で闊歩しているのである。しかも自分と同じ言語……『古来語』を使って、平然と意思疎通しているのだ。まるでそれが、当たり前であるかのように。

 頭がおかしくなるかと思った。叫び出したい気分だった。今までも奇妙な点は多かったが、こうもまじまじと見せつけられると、衝撃を受けずにいられない。

 絶句する彼を置いて行って、シエラは村の広間に向かう。中心部には大きな黄色の水晶が置かれ、彼女はそれに駆け寄った。石ころを軽く触れさせ、手元の緑色の石をまじまじと眺める。「新着なしか」の呟きは、晴嵐の耳に届いたかどうか……

 呆然と立ちつくすセイランへ、シエラが眉根を寄せた。


「セイラン? どうした?」

「す、すまん……座っていいかの?」


 珍しく弱り果てた彼に、兵士長は軽く謝罪した。


「やはり無理をしていたか。私も疲れたし、少し休もう」


 広間のベンチを指差す彼女に、素直に晴嵐は従う。

 眼前に広がる異世界の景色を、何とか呑み込もうと必死に眺めつづけた。

 しかしやはり、動揺は止まらない。どうしてこいつら、平気な顔をしているのか。


(いや……違うな)


 おかしいのは自分の方なのだ。

 目の前にいる人々にとって、この世界にとって、晴嵐の方が異邦人なのだ。自分を基準に物を考えてはいけない。これからは、この世界で生活していくのだから。

 呑み込めなくとも、常識外でも、彼の眼前に広がる光景は変わらない。受け入れて前に進んでいくしかないのだ。脳と神経が発する『理解不能』の信号を抑えこみ、目を慣らす事に努める。

 異世界に来た実感と衝撃を、晴嵐は必死に押し殺し続けた。

ホラーソン村内部


 見た目は中世ヨーロッパめいた町並みだが……地球では考えられない知性体がうろついていて、さらに広間に黄色の水晶が鎮座している。

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