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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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城壁都市の裏側へ

前回のあらすじ


 路地裏で吸血種に攻撃された晴嵐。逆に返り討ちし、逃げてきた少女も捕まえる。悪意がないと判断すると、彼女を解放した。

 少女は奥に積まれた荷台に近寄り、囚われのストチルたちを解放する。抜け出した彼らは、晴嵐が殺害した吸血種の遺体を嬲り、暗鬱に笑ってから、全員でその場を去った。


 城壁都市レジスには、暗黒街が存在する。

 ただの貧困街と思いきや……このレジスの成り立ちを利用した、特殊な地域の一つである。その入口は行き止まりの奥にあった。


(これは……城壁か?)


 曲がりくねった道を進み、袋小路の路地にぞろぞろと集まる。スリのガキと丸耳少女が前に出ると、城壁の一角をテンポよく叩いた。

 すると――その一部が奥に引っ込んで開く。完成したパズルから、ピースを引き抜くかのようにレンガが消えていく。しばらくすると、人ひとり通れるサイズの入口が出現した。何らかの魔法を用いて作られた隠し通路だ。感心する晴嵐に気を良くしたのか、悪ガキは自慢げに胸を逸らす。


「へへへ……すげぇだろ?」

「……どうやって見つけた?」

「裏の元締めと取引して。上の連中は壁の中で暮らしているらしい」


 順繰りに子供たちが壁の内部に侵入する。晴嵐も警戒心を保ったまま、城壁内部に踏み込んだ。

 街を照らす魔法の明かりが、城壁内でも照明の役目を果たしている。密閉空間にも関わらず、空気の流れも感じられた。保温の機能もあるようで、十人以上で動いても熱気はこもらない。

 観察もほどほどに足を進め、再び行き止まりにたどり着く。子供たちが壁に何度か触れると、またしても壁は道へと変わった。

 周囲を建物に囲まれた、出口のない路地裏。そこに大小さまざまなオンボロ木材と、古ぼけた布の屋根の、粗雑な住居がある。スリのガキがわざとらしく、小ばかにするしぐさで集落を指す。


「ようこそ、秘密のドブ溜めへ」

「どうもご丁寧に」


 嫌味の応酬を挨拶に、裏の一角に足を踏み入れる。悪ガキどもがバラバラに戻る中、スリのガキ、丸耳の少女、そして晴嵐の三人は一つの住居に集まった。

 あちこちにガラクタが積まれ、山のように脇で転がっている。雑な住居の中にも乱雑に放置され、三人が入るとかなり手狭だった。


「あいっ変わらず整理整頓できねぇのな……」


 あきれ果てる悪ガキに、少女はおずおずと反論する。


「で、でも……どこに何があるか自分でわかるし、いいかなって……」

「突然の来客で困っとるじゃろ……」

「あぅ……」


 シュン、と縮こまる少女。なるほど汚いとはこういう意味か。スラムの悪臭を想像していた晴嵐は、可愛い物だと笑ってしまう。所謂「汚部屋」に、部外者を招きたくなかったのだ。


「来客を想像しろってのが無理だけどな。それも『人狩』をブチ転がす一般人……噂でも信じないね」

「奴らは手ごわいのか?」

「普通なら、な。アイツらしつこく追ってくるし、夜目も利く。奇襲なんてまず決まらない。おめぇどうやったんだ?」

「いつも通りに始末した……それだけじゃよ」

「おぉ怖い怖い。おれっちも寝首を掻かれないよう、気を付けねぇとな。テグラットはご愁傷様」

「あぅ……」


 怯える少女、テグラットを無視して晴嵐は一人唸った。

 夜目が利き、気配に敏感で、しつこく追ってくる――対峙した気配といい、吸血鬼サッカーの特性を持っているように思える。けれどこちらの世界にはいないはず。となれば……アレは吸血種に違いない。

 しかし想像の外なのか、それとも彼らの常識に囚われているのか、奴らはただの『人狩』と認識している。奴らそのものについてはひとまず切り上げよう。状況を整理すべく、あの状況への前後関係を尋ねた。


「……わしが来る前、何があった?」

「俺はだいぶ前に『人狩』に捕まって、荷台で引き回されてたからわかんね。詳しいのはテグラットだ。おめぇが話せ」

「えぇとね……私は、その、ゴミ拾いしてたの。使えそうな物とか、気に入ったものをここに集めて……欲しい人がいたら、いろんなものと交換するの」

「!」

「ふぇ?」


 目を見開く晴嵐に、気の抜けた声で反応する少女。全く察せない周囲から浮いて、男は一人唸る。


(まさか同業者とは……)


 彼女の行為はまさしく、終末世界で晴嵐がやっていた交換屋トレーダー稼業に近い。世界を跨いでも、人が考えることは同じ……と言う事か。感動とも呆れとも言えない感情が渦巻き、立ちつくす晴嵐の脇でガキが文句をつける。


「けっ、だからって家をゴミ屋敷にするんじゃねぇよ」

「ご、ゴミじゃないよ……使える物も、価値を見つける人もいるもん。なんか気に入った道具だってあるし……」

「おめぇの事はホントよくわかんね」

「……今は後にしてくれんか? 続きを頼む」


 悪ガキが出しゃばると、テグラットが話を進めてくれない。軌道を戻してやると、控えめに声を発する。


「色々集めてたら、後ろから『人狩』に捕まって……適当に暴れて、これを押し付けたら嫌がって離したの」

「? なんだこりゃ? 鎖?」


 少女が手から取り出したものは、鈍く冷たい輝きを放っている。二人の男が手に取って調べた。


「首飾り用のチェーンに見えるな……千切れたのが転がったのじゃろう」

「綺麗だよね」

「全く役に立たねぇよこんなもん」

「役には立ったよ」

「偶然だろ」


 言い合う二人を尻目に、晴嵐はじっと検証を続ける。重さ、質感、輝きを調べ上げ、彼はある物質だと断言した。


「銀製の鎖……のようじゃな」

「ふーん……はした金にはなりそう」

「売り物にしないよ。お守りにもっとく。綺麗だし」

「好きにしろい……」


 悪ガキがそっぽを向き、少女はぎゅっと鎖を握りしめる。口には出さずに、晴嵐は情報を噛み締めた。


(吸血鬼……いや吸血種は銀が苦手。ここも共通項か)


 ポケットに忍ばせたライフストーンに、重要情報としてメモをする。同一の弱点を持つならば、対抗策として対・吸血鬼サッカー用の道具が使えそうだ。


「振りほどいて、慌てて逃げたら……お兄さんとばったり。後は……その、お兄さんが殲滅して終わり」

「はっはっは……」


 乾いた笑い声をあげ、クソガキが低い天井を仰ぐ。晴嵐へ同情を寄せて謳った。


「そりゃ責任とれ言われるぜ。おめぇは運がいいのか悪いのか」

「さて……悪運だけは強いと自負しておるが……」

「ホント、テグラットはご愁傷さま。んじゃ聞きたい事終わっし、俺はおいとまするかね」


 そそくさと席を立ち、鼠の如く飛び出す悪ガキ。

 残された晴嵐と少女は、気まずく互いを見つめ合った。

用語解説


城壁都市の暗部


 城壁都市レジスの壁、および路地の一部には隠し通路が存在する。

 特定の方法のみで道が開き、隠しスペースへと繋がっている。これは侵攻に備えた伏兵の配置箇所、物資貯蔵庫として用意されたものだ。

 けれど既に千年近くの年月が経過し、一部は忘れ去られている。デットスペースと化した領域に、浮浪者や裏方の人間が居着いて、暗黒街、貧困町を形成していた。


吸血種の弱点


どうやら銀が苦手らしい。吸血鬼サッカーと同様の弱点である。

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