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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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城壁都市の誕生

前回のあらすじ


千年前の記述を発見し、目を皿にして調べるも大きな情報は「グラドーの森」に、千年前の連中の拠点があったことぐらい。興味を切って去ろうとしたが、次のオブジェに絶句する。エルフの森林が焼き払われる光景に、自分の経験が重なる。

 オークへの敵意の根源を理解したが……やりきれない思いで晴嵐はため息を吐いた。

 澱んだ情動を胸にしまい、悲惨なオブジェから目を離す。

 これで終わりかと思いきや、次は城壁都市の模型が広がっている。ここまで来たら最後まで見よう。灰と倒木、残った城を一瞥して、説明を読み解く。


“城壁都市レジスの誕生”


“オークによる大破壊の後に、私達エルフは森の復元を試みませんでした。

 輝金属の普及も進み、魔法で樹海を蘇らせることも出来たでしょう。しかしオークの侵攻はあまりに衝撃的な出来事でした。木の上の藁住居では炎の脅威に対抗できない。その事に気がついた私達は、耐火性のある石やレンガの壁と家を築き、侵入者を迷わせるよう複雑な地形の都市を設計しました。そうして生まれたのが、現在の城壁都市レジスです”


(あの壁も、あの複雑な地形の都市も、オーク侵攻の反省からだったのか……)


 今まで見てきた町並み。頑丈な城壁と火に強そうな建築物、そして迷路めいた町並みは、森を焼き討ちされた恐怖と経験から作られていた。

 史実を知ると印象が変わり、都市の光景が痛々しく思えてしまう。せっせと都市を復興するエルフの人形に……同情と少しの憐れみを抱いた。

 失った痛みに耐え、そこから立ち上がるには大変なエネルギーがいる。凄まじい気力を消耗し、多大な忍耐を必要とする……

 ここからは晴嵐の勝手な想像だが、このオークへの憎しみを、復興への動力にしたのではないだろうか? 怒りや憎しみのような激しい感情は、時に凄まじい気力を生み出す。


 やられっぱなしでいられない。住処を壊したオーク共に目に物を見せてやると。もう二度とこの地を踏み荒らさせはしないと、当時の生き残ったエルフたちは、全霊を注いで過剰なまでの要塞を……城壁都市を作り上げたのではないだろうか。

 それが結果として、現在まで続く差別の下地を作ったことは否めない。けれど事情を知ると……晴嵐はエルフたちの憎しみを、否定しきれない自分がいる事に気がつく。

 彼もまだ……吸血鬼と吸血種を混同し、憎しみを捨てきれない身なのだから。

 エルフたちの姿と自分の在り方が重なり、えもいわぬ奇妙な感覚が身を包む。ゆっくりと歩を進め、最後の展示物に目を凝らした。


“現在のレジス”


“こうして生まれた城壁都市レジスは、ユニゾティアでも独特の地域になりました。他の生活圏と比較しても、分厚い城壁と迷路めいた都市……つまり町そのものが要塞と化す都市は類を見ません。『聖歌公国』の首都ユウナギも、戦時下を想定して設計されていますが、ここまでの複雑さと規模を有していないでしょう。

 ユーロレック城も何度も改修を受け、象徴的な存在になりました。そして城の背面に残る樹林は、戦火を免れた大樹海レジスの名残です。「伝統生活区」として保全されると同時に、古いエルフと共に当時の生活を続け、私達に伝えています”


 すぐそこに広がる「伝統生活区」の地域は、950年前の戦果を免れた樹海の名残。文面から察するに……中で暮らすエルフは侵攻の被害者なのだろう。

 外部から見える情報はこの程度か。ハーモニーに話すには不満な内容だが……


(思ったより見ごたえあったな)


 個人的には満足のいく内容だ。千年前の情報は少ないものの、この都市の歴史や成り立ち、羽のない弓の仕組み、そしてオークへの過剰な蔑視についても知れた。最初は興味が薄かったが、回るうちに夢中になっていたと思う。


(もっと人来てもよさそうだが……)


 パノラマも良く出来ているし、汚れや埃もかなり少ない。辺鄙な土地のせいで割を食ってないか? 経営は大丈夫なのだろうか……

 順路通りに出口に向かい、直前に広がる売店に目が行く。何か買ってもいいかもと、足を運ぶと壮年のエルフが目を見開いていた。


「え……ヒューマンの方がここに?」

「珍しいのか?」

「えぇまぁ、エルフの方も日に十人いるかどうか……異種族の方は滅多に来ません」


 色々と心配になる人数だ。不安が顔に出ていたのだろう……男性スタッフが穏やかに答える。


「大丈夫ですよ。半分道楽ですので」

「道楽て……他にスタッフは?」

「バイトの清掃員と荷物整理ぐらいです。ほとんど私ひとりですよ」

「よーやるわ……」


 身なりも綺麗で、本当に何も困っていないのだろう。態度を見ても、貧困者特有の卑しさを感じない。だからだろうか、晴嵐は素直な気持ちを吐露できた。


「展示物も丁寧で、施設内も汚れておらん。立地が良ければ、もっと人が来るだろうに……」

「オークの方への配慮も兼ねてですよ……史実とはいえ、見たくないでしょうから」

「お主は……怨んでないのか?」


 つい、晴嵐は質問してしまった。この資料館を見た後では、尋ねずにはいられなかった。

 史実上での戦闘の爪痕を調べて展示し、管理している以上オークの所業は身に染みているはず。なのに目の前のエルフから「オークへの配慮」なんて単語が出るのは違和感しかない。

 男の言葉を受け、エルフの表情筋がぴくりと歪む。一瞬見えた怒りの表情の後、やり切れぬと目を伏せた。


「……難しいところです。私の母はオーク侵攻の際……攫われたと聞いています。それが何を意味するか……男しか生まれないオークの特性を考えると、想像は難しくありません」


 初めてグラドーの森で出会ったオークの、ラングレーの言い分が思い出される。

「自分たちは血を残すために、強引な手を取る事もある」と彼は言っていた。


「父親は議員で、千歳を超えてなお現役です。当時の苦しみや憎しみを未だに抱えています。私にも散々吹き込んでいました。『オーク共は悪魔だ』と。私の母を奪った、憎むべき種族だと。私も最初は共感していました。なんてことをするのだと」

「では何故、許す気になった?」

「残酷な表現になりますが……私は体験していないからです。

 確かに母のいない生活は苦しかった。父の憎しみも嘘ではないと知っています。ですがそれは、私の両親の記憶と経験だ。ないがしろにする気はありませんが、でも……無理に憎しみを引き継ぐのが不毛に思えて。『伝統生活区』の在り方も、私は疑問に思っています……ってあ、すいません。熱くなってしまいました」


 しゅんと恥じ入るエルフに、晴嵐は真剣なまなざしで頷いて見せる。きょんと彼を見つめ返すエルフへ、一歩踏み込む言葉を放った。

 

「実はわし、その『伝統生活区』に興味があってな……暇ならもう少し話さないか?」

「え? あー……そうですね。是非」


 広々とした館の主は、晴嵐の誘いにすんなりと乗る。興味を持つ晴嵐が面白いのだろうか……老エルフの表情からは、喜びが隠しきれていなかった。

用語解説


城壁都市レジス

 元々は大樹海レジスだったが、オークの襲撃によって城よりグラドーの森側は灰になった。魔法による復元の案もあったが、炎による破壊と、侵攻への恐怖から城壁都市として作り替えられる。

 迷路のような地形も、敵の侵入を遅らせるため。過剰なまでの防壁は、敵対者への恐怖が根源にあった。

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― 新着の感想 ―
失くしたか? 取り残されたか? その目でみたか!  忘れようもなくなったか! って漫画の一文を思い出しました
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