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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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復活の兆し

前回のあらすじ


ユーロレック城の内部に集まった役員たち。若い衆と老いた重鎮が激論を交わす。ヒートアップする議論の最中、新しい話題が投げ込まれる。

 千年前の悪魔――ユニゾティアに生きる者達にとって、これほど神経を逆なでる輩はいない。エルフ老若男女どころか、種族問わず恐怖と嫌悪の対象だ。

 そいつらが「復活」すると聞かされれば、誰もが顔を歪めるだろう。事実この席にいるすべての者たちは、レリーに釘付けだ。

 基本不干渉を貫くその魔導士は、この案件のみ積極的に干渉する。盗んだ異能力の一つ。「完全気配遮断」を解除し、紅茶の入ったティーカップをテーブルに置いた。


「詳細を希望する。まず最初に確認するけど、火急の案件ではないんだね?」

「判断しかねる……と言うのが正直なところです。事が起きたのは約一か月前……国境線のホラーソン村、グラドーの森で起こりました」


 千年近い年の者と、フリックスに緊張が走る。置いてけぼりの若い集も、老人たちのただならぬ気配に黙り込んだ。


「まだ精査不足ですが……森の禁域から『悪魔の遺産』による攻撃を受け、当時山狩りに出ていた兵士一名が死亡。不幸中の幸いは、被害は一名のみで済んだ所でしょう」

「……確かなのか?」

「明確な報告は上がっておりませんが……その後グラドーの森周辺が封鎖されたことを考えると、状況証拠は十分ですねぇ……」


 千年前の戦争を知る面々は、軽いフラッシュバックに襲われていた。特に鷲鼻のエルフ、ラークは軽い目眩の後、汗を大量に流し始めている。

 気の毒そうに「魔導士」は、腰に差した赤いレイピアを引き抜く。魔法の杖のように振ると、老エルフの心が何とか静まった。


「悪いな。魔導士」

「今は話を詰めるべき時だからね。以前の動きや時期、覚えている人はいるかな?」

「履歴を検索します。少々お待ちを」


 ゴーレムのフリックスから、人の良い老人の立体映像ホログラムが消える。機体に残った記録情報の読み込みに集中しているのだ。

 生物的な記憶と異なり、ゴーレムの記録は風化しにくく、情報を引き出すまでも早い。エルフたちが焦れるまでもなく、すぐに幻像の頭部が再び灯った。


「約八十年前に、ひそかに結界を広げようとした記録があります。それ以降は経過観察の議題のみです」

「となれば、久々の大きな活動ですよねぇ……いえ、確証のある情報ではありませんが……」

「噂でも警戒するしかねぇな。これで放置したらマヌケだ」


 無言で肯定する老エルフたち。若い者達も気迫に押され気味だが、先程まで咆えていたヒッポスが踏み込んだ。

 

「お待ちください。何故重要な案件なのですか? 確かに事件は事件ですが、隣国が解決すべき案件でしょう? 関連が読めません。そもそも千年前の悪魔は、あなた方達が殲滅したと」

「えぇ……その通りですよ。欲深き者ども、異界の悪魔は一人残らず全滅しました。肉体はヒューマンでしたからね。寿命は百年とありません」

「ならば復活などあり得ないはず……」


 半信半疑と首をひねる若者に、再び魔導士は赤い剣を振る。指揮棒のように刺した瞬間――魔導士は「グラドーの森の真実」を、直接頭の中に送信した。

 当時の心情、殲滅までの経緯、そして……何故警戒すべきなのかを。


「っ……っ!?」

「……奴等は実体のある怨霊だと思ってほしい。殲滅しきれなかったのは、当時の僕たちの失態だ。言い訳をするなら、世界の復興を優先したかったんだ……」

「……この一件で責める気はありません。悪いのは往生際の悪い奴らです」


 魔導士の能力の一つ、歌姫の奇跡の一端を用いて一瞬でヒッポスは理解する。好機と見たのか、対立中の老エルフは嘯いた。


「だから……史跡として残すことも無意味じゃねぇのさ、若造」

「何割かは詭弁でしょう! が……今追求すべき案件から外します」


 事の深刻さを理解し、若者エルフは反論を飲み込む。場が落ち着き払ったタイミングで、吸血種が議題を進める。


「そうですねぇ。今は事の推移を見守り、場合によっては軍の出動も考えましょう。その辺りはどうですか? ヒッポス君」

「……残念ですが、若い衆の練度は期待できません」

「はっ、軟弱者め」

「あなた方熟練者の世代が、そんな態度ばかりだから愛想を尽かすのですよ?」

「まぁまぁ……だが軍隊として活動はできるのだろう? 他に留意すべき案件は、物資や兵糧の方ではないかな?」


 他の役員たちがざわめき、確認すべき案件を口にする。丁度現状を確認し終えるた所で……子供が足音を立てて走る床の音がする。やがて勢いよく扉が開け放たれ、一同の視線が入口に集まった。


「やー! ゴメンゴメン! 遅れちゃいました!」

「ムンクス坊ちゃま……再三申し上げておりますが、もう少しこう……」

「しょうがないじゃん! ちょっとアヤシイ人が居たから探ってたんだもん」

「はぁ……で、その方はどうなされました?」

「魔導士の銅像見てたよ! 観光の人だったみたい! あ、でもでも――」

「ムンクス君……後にしてもらえないかな……」


 見た目言動も子供だが、見た目と裏腹にこの吸血種は大物だ。エルフの大長老、ドラージルでさえ強くは出れない。唯一の救いは傲慢でないことだろう。


「あ、ゴメンねドラおじいちゃん? で、どんな事話したの?」

「やれやれ、僕に依存して欲しくないけど……」


 三度赤い剣を振り、「ここまでの経緯」を魔導士は転送する。ほとんど終盤と知った吸血種は、追加の話題を投げ込んだ。


「ありがとうダスク! なら一つ話しておきたいんだけど……治安問題、特にストリートチルドレンについていい?」


 一瞬ざわめくも、面々の声は否定的な意見が多い。


「却下だ。ほとんど異種族のガキだろ? ほっとけほっとけ」

「確かに問題と考えますが……火急の案件でしょうか?」

「ここ最近、治安が極端に悪いみたいなんだ。悪魔たちと関係あるかはわからないけど……いいの? 都市内に不穏な種を残しておいて」

「「「「「「…………」」」」」」


 強く言われてしまえば、誰もが口を紡ぐしかない。

 ニコリと笑い子供の吸血種は、自らの情報の開示を始めた。

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