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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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観光

前回のあらすじ


 裏路地でチンピラに絡まれる晴嵐。注意の逸れるタイミングを計り、三人の若いエルフを無力化する。強烈な脅し文句を突き付けてから意識を刈り取り、密かに様子を見ていた裏の住人にも、釘を刺してから立ち去った。


 翌日、堂々と都市を歩く晴嵐の姿があった。彼はあの後予定した宿へ向かい、何事もなく次の日の朝を迎えた。

 到着した宿場は裏に近いだけあり、細かな話は料金程度のみ。飯もなく、本当に泊まるだけのオンボロ宿だ。まともなサービスを期待できない宿屋だが、それも当然と言えるだろう。

 脛に傷持つ人物か、外部から来た流れ者、そして裏の人間が利用する宿に思える。互いに腹の内を探られたくない……そんな人間が利用する宿。

 ここで詮索はマナー違反と、無言の圧をかける店員に頷く。金と引き換えに鍵を貰い、狭い部屋ですぐに眠った。

 色々あったが、入国後の初日を五体満足で過ごせた。悪ガキと戯れ、未知の土地をさまよい、現地の健康食に悶絶する。最後のチンピラへの対応も、まぁあんなものだろう。

 ――あの手の輩は、弱り目を見せればどこまでも調子に乗る。

 延々と相手を獲物扱いし、何かにつけて搾取を試みてくるのだ。足音は不慣れだが……連れがいるなら、今回が初めてではあるまい。軽い脅迫で十分と判断し、思考を本来の目的に切り替えた。

 まず最大の目標は「千年前の歴史の調査」だ。無論、この緑の国の情報で終わりではない。これから各地域を巡り、様々な視点と立場から千年前を考察する。

 千年前にやって来た彼らは「欲深き者ども」とか「異界の悪魔」だとか……少なくともホラーソン村、そこの所属する聖歌公国の常識では、世界の敵として扱われている。

 この連中は、晴嵐の知識に当てはめると「文明崩壊前の地球人」と思えてならない。千年のタイムラグや「測定不能の異能力」など、不可解な点は数々あるが……この千年前の異邦人の武器「悪魔の遺産」は、銃器としか思えない武装だ。

 まずいくつかの情報を確定させたい。聖歌公国と緑の国は対立しているが、その両者の観点から「同じ意見」なら、千年前の連中は悪党なのだろう。世界を相手に暴れ回ったのなら、この国にも必ず痕跡がある。

 それを探すには必ずしも、隠された真実を掘り起こす事はない。表の情報を洗うだけでも……「地球」を知っている晴嵐なら、確実に絞り込めるはずだ。

 だから彼は観光を始めた。緑の国から、真実を探すために。


(資料館や図書館がベストじゃが……史跡か何か、ないかのー)


 ここは立派な都市だ。石碑や銅像の一つや二つ、全く存在しない事はあるまい。それが千年前かは微妙だが……初日に色々あったのだ。警戒はするが、観光を楽しんでもいいだろう。土地勘がないのが残念だが……それもまた良し。ぶらぶらと適当に歩き回って、危険な空気を感じたらUターンすればいい。

 石で舗装された街中を、男はゆったりと歩く。

 現地のエルフの人目も気にせず、じっくりと城壁都市の中を楽しむ。もう城壁からかなり離れたはずだが、迷路めいた構造や頑丈な建物は変わらない。武器を持つ衛兵も通りには歩いている。警察官の見回りのようなものだろう。聞いてみるのも選択肢だが、果たして信用して良いものやら。

 大きな通りを道なりに進み続け……見通せない町並みの奥に一つ、大きな建造物が目に入る。城壁と見つけた時と同じように、晴嵐は目を見開いた。

 城だ。城が見える。灰の石レンガで出来た建物の森に、白い肌に赤の帽子をかぶったような……まさしく中世ヨーロッパ風の大きな城が、旅人の視界に入ってきた。


(なんと……城壁も驚いたが……)


 地球の話になるが、晴嵐は日本生まれで日本暮らし。崩壊前もネット映像や、創作物のイラスト越しなら見覚えがあるが……西洋の城は、知っていても詳しく知らぬ。

 年甲斐もなく胸が高鳴った。今まで遭遇した未知の物、新しい物は生活の傍にあり、安穏としていられない。故に晴嵐に強い焦りを生むものであった。

 今回の未知は違う。安全な場所から、ゆったりと観察することが許される。新鮮な刺激を存分に、無警戒で楽しんでいいのだ。


(こんな情感、とっくの昔に死んだと思っておったが……)


 若返ったように心臓が脈打ち、自然と足が速くなる。最低限周りに気をつけながら、初めて目にする城へ近づいていった。

 接近するにつれて……人の身なりや舗装が豪奢になっていく。この地区の中枢に近づく手ごたえと、美しい城が巨大な姿を見せた。

 すぐ五百メートルほどで、城の周囲に柵が張られている。衛兵がぎろりとにらみを利かせ、ここから先は立ち入り禁止と、一般人に剣呑な眼差しを向けていた。


(資料館には……なっておらんな。現役の建物か)


 白い外観に三角の赤い屋根が、遠目でもはっきりと見えていた。近場で見るとその大きさに圧倒される。ビルの五階建て……いや六階以上はありそうか? 所どころ古くなった痕跡……傷や風化の後が見られる。

 しかし色自体は鮮やかで、補修工事を入念に行っているのだろう。何故晴嵐にそれが分かるのか? それは終末世界での経験にある。

 人の手が入らない建造物は、意外と早く劣化する。手の入らなくなったビルや大型構造物、そしてコンクリ舗装の道路が十年持たず機能停止し始めた……そのことは嫌でも覚えていた。

 身なりの良い人間の出入りも多く、ここが政府中枢と想像がつく。ここから考察を伸ばしたくあるが――


(……少しぐらい、観光気分に浸っても良いか)


 この光景は、悪くない。

 久々に肩の力を抜いて、晴嵐は異世界のにおいを、胸いっぱいに味わった。

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