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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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ねぐらの裏表

前回のあらすじ


口直しの飲み物を頼みつつ、この都市が初めてな事を店員に伝える晴嵐。宿屋について聞き出すと、五つの候補地を領収書の裏に提示する。一度下調べを終え、彼が選んだ宿屋とは。

 細い細い裏路地沿いを、一人の男がゆっくりと歩く。

 熟考を経て選んだねぐらは「二番目に通りから離れた宿」……つまり治安悪めで、余所者に対する感情が緩い場所だ。

 表通りの宿は高すぎる上に、さほど安全には思えない。

 異種族に対する感情が悪く……何度かトラブルが起きても、周りは常にエルフの味方。明らかな不平等な対応をされても、異種族側が泣き寝入りするような場面も見えた。

 人目につき、治安をある程度確保されていても……そこに自民族至上主義レイシストという補正が入れば歪む。秩序と保護の枠に入れば恩恵だが、弾かれる側なら疎外に他ならない。そしてヒューマンの晴嵐も枠外の人間だ。

 よって、表に近い二か所は排除。三か所から考え、下から二番目の宿へと決めた。

 一番下は流石に治安が悪すぎる。がしかし、その気になれば馴染めたとも思う。普段は隠しているが、凄惨な世界を生きた気配……もっと言うなら『裏』の気配を晴嵐は出せる。やってやれない事はないが……そこまでのリスクは犯さない。

 よって下から二番目、やや危険を感じる宿に決定した。幸い鼻は利く。身に危険が迫れば察知できるだろう。……今まさに迫る危険も含めて。


(後をつけてる奴がいるな)


 足音も隠さず、晴嵐を後ろから追う誰かがいる。恨みを抱く心当たりは……あるとすればスリの悪ガキぐらいだ。

 気づかぬふりでゆっくり歩く。まるで気配を隠さない様子で、誰でも分かる不慣れな尾行だ。裏の住人ではないと判断し、さりげなくライフストーンを取り出す。

 投影された映像は半透明。しかし石そのものは光を反射する……

 特徴的な伸びた耳が見える。人影の数は三人。足音が大きいのが災いし、それ以上に思えてしまう。一応確認したが、石に映った種族は全員同じだ。


(エルフか? どうして裏に来る?)


 彼らはこの国において優遇される立場のはず。饐えたドブ溜めの裏路地に、どうしてわざわざやって来る?

 もう一つ腑に落ちないのは、このエルフたちは無防備に過ぎる。

 最初晴嵐が遭遇した子供スリにさえ、こいつらは出し抜かれるだろう。明らかに慣れてない動きだ。迷うふりをかねて首を傾げる。ここはひとまず……


(出方を窺うか)


 わざと行き止まりに向けて歩き出す晴嵐。尾行を撒かないよう注意しつつ、一度目の偵察で把握した袋小路に向かう。あまり早足で動いてないが、追跡者たちはおっかなびっくりだ。

 全く奇妙な話だ。どうして追われる側の晴嵐が気を使っているのか。一応最後まで気を抜かず、行き止まりまで晴嵐は歩く。困り果てたフリで合流を待ち、棒立ちで相手の動きを待った。

 程なくして彼は呼びかけられた。生意気なやかましい若造の声で。


「よぉヒューマン。どうしたよ?」


 ニヤニヤと相手を見下す笑みで、生意気な金髪の男が無防備に立っている。後ろに一組の男女を添えて、やはり異種族の男を嘲っていた。

 三人とも体幹は細い。大して鍛えていない身体つきに、露骨に相手を低く見る態度はカンに障る。後ろの二人こそ手に刃物を握っていたが……脅威とはとても思えなかった。

 ……拍子抜けだ。

 散々警戒して、現れたのは若いチンピラ三人。てっきりもっと恐ろしい何かが来るかと想像していたのに……何たる無駄骨か。未熟に過ぎる追跡術と隠密行動……赤点以外の評価はつけれない。

 つまらない。その態度を含んだ溜息を見たのだろう。実に不機嫌そうにエルフが咆える。


「どうしたよって聞いてんだ。答えろよ」

「……」


 晴嵐は何も言わない。会話に乗れば相手にペースを握られるかもしれない。万が一にもないとは思うが、数の不利がある以上……不意打ちで先制を決めなければ。

 やや距離もある。ベストの択は相手から仕掛けさせ、一瞬で一人スタンさせる。その後二人を一人ずつ黙らせ、最初の一人が起き上がる前に大勢を決する……要は一度に三人を相手するのではなく、一対一を三回行うのが勝ち筋だ。それにはまず一人を煽って、単独で仕掛けさせる事が重要。

 ――生意気な若者を逆立てる、最も効果的な一手は何か?

 簡単だ。「相手を道端の石ころのように扱えばいい」

 そのまま晴嵐は無言のまま、じっと若者の目を見つめ返す。

 威圧もない。憤怒もない。ただただ素直な心情を瞳に込めてやる。「お前はつまらんヤツだ」と、静かに冷たく見つめ返した。

 焦げ茶の瞳が一瞬怯み、次いで憤怒の色に染まる。十分にはらわたが煮えたと判断し、唇を歪めて本心を当ててやる。


「小遣いでも欲しいのか?」

「っ! こ、この……」


 やはりチンピラ、あるいはカツアゲの類か。この手の小悪党の小僧は、やってる事の小ささに対し過剰なプライドを持つ。特にリーダー気取りはその傾向は強い。徹底的な無視を食らわせるべく追加の一手を放った。


「おい、後ろの。先にくれてやる。受け取れ」

「へっ?」


 カカシ二人に声をかけ、コインの詰まった袋を懐から取り出す。険悪な目で睨む眼前のエルフを放置し、高々と放物線を描いて金が宙を舞う。

 小気味よく嗤う後ろの二人。視線が袋にくぎ付けになり、いよいよもって目の前の男の堪忍袋の緒が切れた。顔を真っ赤にして胸倉に掴みかかり――

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