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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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探すべきもの

前回のあらすじ


緑の国の伝統食、ポーローの実食に移る晴嵐。濃い紫色のペーストが塗られた食パンは、冒涜的な味わいで晴嵐を襲う。汗を流しながらも、何とか彼は感触した。

 狂気の伝統食を腹に納め、ぐるぐると目を回して晴嵐は突っ伏した。

 この世界に来てから、一番消耗したのではなかろうか? 今もひりひりと舌が痺れている。塩味や辛味でならともかく、苦味に舌をやられる経験は初めてで……身体から汗が噴き出ていた。


「追加の注文を。ミルクはあるか?」

「はは、ちょっと待ってな」


 口直しの飲み物を頼み、渋い顔のまま頭を掻く。時折背中に刺さる目線が痛く、不機嫌な顔で晴嵐は飲料を待った。

 自業自得。未知に挑戦した代償である。周囲の客から好奇の目で見つめられ、いたたまれない。穴があったら入りたい気分だ。

 今すぐ金を払って逃げ出したい。苦い心象が胸に広がる中、黒髪のエルフがマグカップを差し出した。


「はいどうぞ。頑張ったね坊や」

「どっと疲れたわい……」


 素直に忠告を聞いておけば良かったと、珍しく晴嵐は反省した。子供扱いを受け入れ、温かいミルクで口をゆすぐ。長い事舌の上で転がして、ようやく感覚が戻ってきた。


「あー……全くひどい目に遭った」

「だから何度も聞いたじゃないか。本当に大丈夫? って」

「正直舐めておったわ……」

「いい思い出になったかい?」

「あぁ。絶対忘れん」


 下手をすれば悪夢に出てくるのでは? もう二度と対面したくない味付けだ。道で迷い、食事で間違え、緑の国での初動はよろしくない。これ以上ダメージを回避すべく、晴嵐はエルフの店員に問う。


「見てのとおり、この辺りは初めてでな。宿もこれから取る予定なんじゃが……大丈夫かの」

「危ない宿屋もあるね。緑の国はエルフ以外に厳しい」

「この店は違うじゃろ」

「まぁね」


 ――最初扉をくぐった時点で、晴嵐はこの店を「当たり」と判定していた。

 ハーモニーやテティ、その他ホラーソン村の住人から集めた情報では……緑の国はエルフ主導の国家。住人のエルフは自民族至上主義レイシストが多いと聞いている。

 にもかかわらずだ。この店の店員に『獣人』と『亜竜種』がいる。よって店長は、他の民族に対して友好的と判断できた。

 静止を振り切り注文したのも、ある程度は打算である。予定外に舌と精神に負荷がかかったが、良い初見アピールになった……そう考えよう。でないとやってられない。


「そうだね……比較的ヒューマンに緩い店は……あそことあそこ、あといくつか……」

「すまない、書いてもらえると助かるが……」

「じゃ、領収書の裏を使わせてもらうよ」

「助かる」


 ライフストーンのメモ帳があっても、紙用紙の需要も消えていない。裏面に女エルフがつらつらと文字を書き綴る。後で自分で調べるが、候補地を絞れるだけでも十分だ。

 手を動かしながら、金色の瞳が晴嵐を見つめる。興味を持ったのか、彼女は晴嵐に聞いて来た。


「しかしよく一人でこの国に来たね。評判よくないだろう?」

「あぁ。率直に言うが、良い噂は聞かなかった」

「だろうね。でもヒューマンはマシな方。一番酷いのはオークの子たちだね……当事者生きてるとはいえ、もう許してもいい頃だろうに……」


 何の話か分からない。

 分からないが……女の瞳は遠く過去に飛び、憂いの影が浮かび上がる。「ルル店長」と、犬耳の店員になだめられ、エルフは話を引っ込めた。

 晴嵐は推察する。


(オークに対する感情は……自民族至上主義レイシストだけが原因ではない?)


 口を揃えて「緑の国でオークの扱いは悲惨」と誰もが言う。種族として立場が悪いと聞いているが、にしても極端な扱いに思える。何か後ろ暗い背景があるのだろうか……余裕があれば調べてもいいだろう。

 されど今日は、ここでの情報収集を切り上げよう。一度に多く尋ねても、厚かましく思われるはずだ。


「参考になった。名は確か……ルルだったか? 助かった」

「おや、物覚えがいいね。良かったらまた来ておくれよ。今度はちゃんとした物出すからさ」

「うむ……」


 苦々しく笑って、会計を済ませる晴嵐。とんでもないマズメシを喰ったが、この店「とこしえの緑」は当たりの部類だろう。店員の愛想笑いに見送られ、男は食事所を後にした。

 裏道を避け、表通りに戻って伝票の裏を見つめる。いくつかの名前が書き込まれ、ご丁寧な事に大まかな位置まで説明があった。

 ありがたい。店長も後ろめたさを感じていたか? うち一つは大きな通りに面しており、ここからでも看板が見える位置にある。表通りに面しているなら、安全面では申し分なさそうだ。

 けれど晴嵐は慎重だ。有力な候補としつつも即座に決定はしない。一つ一つ候補の宿屋を見て回り、晴嵐の目で確かめ検証する。

 ――結論から言えば、どの宿屋も悪くない。

 計五つある候補地は、表通りに近いほど料金が高く、異種族に対する感情が悪くなる。

 表通りから離れれば離れるほど、異種族に対する反応は軟化し、宿泊料金も安く上がるが……裏に近くなり、治安の悪さが窺えた。

 ありがたい事に……表通りに近いほど上に、離れるほど下に表記されている。あの店長、ちゃんと順番どおりに紹介していた。細かな所でも丁寧な仕事だ。

 改めて評価を高めつつ、五つの宿屋とにらみ合う。金と安全、環境などを配慮し晴嵐が選択したのは……

用語解説


ルル

黒髪金目のエルフ。食事処「とこしえの緑」の店長であり、この地域のエルフには珍しく他民族に対し友好的。もうすぐ千歳だそうだが……健康食のポーローを食しているためか、外見上は中年で通る。

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