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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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夜明け

前回のあらすじ


仕留めた狼を解体し、ゲロまずい獣肉を無理やり食った。

 朝日が森を照らし出し、シエラはその温かさに目を細めた。

 幾度となく見てきた陽光なのに、木々の合間から射す光がいつにも増して体に染みる。夜闇に紛れ、狼に襲われた身としては、太陽光のありがたさがよく分かった。


「見ろ、朝だぞ」


 反応は期待していなかった。一連の作業を終えて、キツい臭いの獣肉を食していた彼だが、シエラの言葉に手を止めた。冷徹で合理的な彼なら、大して関心を寄せないだろうと思っていた。

 けれど彼は――手を止めて、じっと日の光を見つめていた。その時だけは、彼がいつも纏う暗い気配が消失し、どこにでもいる少年の横顔を覗かせていたのだ。


(なんだ……そういう顔つきも出来るじゃないか)


 明かされない素性に、異質な感性と技術を身に着けている彼。彼女は何度も助けられたが、冷たい壁のような気迫が、踏み込むのを躊躇わせていた。

 けど今なら、やっと彼から聞き出せるかもしれない。シエラは意を決して彼に尋ねた。


「君、名前は? 私はシエラ・ベンジャミン。ホラーソン村の兵士長だ」


 きょとんと、彼はシエラの方を見つめる。何を言われたのか、理解できてないような顔つきだった。

 もう一度、彼女が促す。


「名前だ。君にもあるだろう?」


 彼は視線を宙に漂わせ、渋い顔つきへと変わっていた。いつも見せていた表情に近いが、やはり影が薄れて見える。しばし迷っていた彼は、しわがれた声でゆっくりと答えた。


「セイラン。セイラン・オオヒラ」


 ――変わった名前だ。

 長い事放浪しているのは嘘ではないらしい。この周辺では聞かない名前を噛み締め、シエラは穏やかな声色で語りかけた。


「……そうか。改めて礼を言うよ、セイラン。君と出会わなければ、私はこの朝日を見れなかった」

「確かに」

「運よく狼の毛皮も手に入った。村に戻ったら、私の知人は酷く驚くのだろうな。できればセイラン、君の事も紹介したいぐらいだが……恐らく君は拒むのだろう?」

「……ああ」


 予想はしていた。彼のような人間は初めて見たが、セイランはあまりに独りに慣れ過ぎている。シエラにとっては恩人でも、彼女の周りが彼を受け入れられるとは思えない。兵士長の立場としても、彼は不審者として扱うのが妥当と思う。

 だが、彼は悪人ではない筈なのだ。きっと彼には何か、理由があったのだ。そうせざるを得ないだけの理由が。途切れた会話が、青年が背負っている重みを物語っているようで……

 これ以上は踏み込めない。シエラは話を切り上げようとしたが、彼女を引き留めたのは彼の方だった。


「じゃが毛皮と物資を交換できるなら、少しの間お前さんの……シエラの住む村で休息したい」

「! ああ! そうしてくれ。辺鄙な村だが、みんな人がいいんだ。きっと気に入ると思う」


 彼は、疲れている。肉体ではなく魂が疲弊しているのが見て取れた。一体誰が彼をここまでやつれさせたのか? もし彼を追い込んだ人間がいるのなら、シエラは胸倉を掴みあげるだろう。

 ――今の彼は、どこにでもいる普通の人間のように見える。引き締めた表情の内側に、確かな人間味が宿っていた。


「そうか。ならばまず、生きて戻らねばならんな」

「ああ、必ず生きて村へ帰ろう」


 肉を食べ終え、焚き木を消して二人が立ち上がる。

 遠巻きに火を当て乾かしていた毛皮をしまい、セイランが彼女の背に回ってついていく。そしてシエラはポピュラーな魔導具の一つ『ライフストーン』をかざした。鮮やかな緑色の首飾りを手に持ち、彼女の住む村の方角を確かめた。

 主に首飾りに加工されるライフストーンは、生活に役立つ機能を無数に内包している日用品だ。今回使用したのは……村や町、様々な拠点に置かれる『ポート』に反応し、その方角を示す。これのおかげで迷わずに帰ることが出来るだろう。


「よし、こっちだ」

「……うむ」


 ゴブリンに引きずられてしまったが、さほど遠くではない筈。方角さえ合わせられれば、この『グラドーの森』の禁域に踏み込まずに済むだろう。木漏れ日を受け止めながら、二人は村を目指し歩き出した。

用語解説


ライフストーン


方角を示す石。どうやら他にも機能があるようだが……


グラドーの森


現在二人がいる森林地帯。禁域と呼ばれる領域があるらしい。

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