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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

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都市事情とメシ

前回のあらすじ


緑の国の国境線、城壁都市内部に入った晴嵐。入り組んだ地形や、ストチルのスリに狙われ苦戦するも、何とかポートを目指し、到着したと連絡を試みる。

 緑の石を黄色の水晶に触れさせ、ホラーソン村へ現状を伝えた。

 晴嵐側に届いたメッセージはない。ほっと一息ついて、もう一度ベンチで深呼吸をした。

 村から緑の国に着くまでは、さほど疲労は感じなかったが……城壁都市内で迷った事で、どっと疲れが出てしまった。


(ここまで面倒とは……あー腹が減ったわい)


 この世界では昼食の文化がない。しかし人によっては、軽食を採ることはある。元々一日三食の習慣を持つ晴嵐は、まだ慣らしている最中だ。けれど肉体と精神を行使すれば、減るものは減る。

 初見の土地で探すのは怖い。備えて用意した干し肉などの、携行食で済ませてしまうのも手だが……


(せっかく来たんじゃし……なんか変わったもん食いたいな)


 ホラーソン村には特産品や名物がない。国境とはいえ、辺鄙な村では名物も何もなく、食事であまり目新しい物はなかった。

 余裕が生まれ、気を抜いているのは確かだが、ここいらでそろそろ『この世界特有の食べ物』に触れてみるのも悪くない。幸い大きな都市だ。名産品の一つや二つはあるだろう。

 じっとベンチに腰かけたまま、晴嵐は往来の人を観察する。

 丁度昼過ぎぐらいで、昼休憩や軽食の時間だ。村と違って人も多い。昼間でも開店する食事処もあるだろう。

 目を皿のようにして人を見送り、軽食店に当たりをつける。ポート付近の通りに店は人が多く、一見して人気のように見えるが……晴嵐はそれらの店を候補から外した。

 それは何故か……言うまでもないが、ポートとは重要施設である。外部と連絡を取るための玄関口だ。故に周辺に店を立てれば、それだけで集客が見込める。

 ほとんどの人間が通信のために使い、その場所にやってくる……つまり「ポート付近に店を構えれば、それだけである程度人目につく」のだ。崩壊前の感覚になるが……電車の駅前の土地に、店を立てる感覚に近い。

 その店舗に、独創的な物は期待できない。入る候補からは外しつつ、晴嵐はそこに居る人から目を離さなかった。

 飢えた目玉で観察を続けると……無難な飯処の前に立ち、首をひねって立ち去るエルフを発見する。軽く腹を押さえる様は、誰が見ても空腹を訴えていた。

 通りから離れるエルフ。晴嵐も立ち上がり、バレない様に尾行に入った。

 一連の動きは「とりあえず腹が減ったが、店に食べたい物がなかった」と予測できる。ならば今後の行動は「別の店に入る」以外にあるまい。


(さ、案内してもらうぞ。お主の知ってる飯屋に)


 後を付けられるとは露とも知らず、現地の人間はてくてく歩く。大通りから外れ、道がしょぼくなった辺りで、尾行対象は店舗に入る。

 見上げた先にある看板――名前は「とこしえの緑」

 以前泊まった『黄昏亭』と異なり、純粋な食事処のようだ。立て看板に本日のオススメが掲載され、お得なランチメニューも懐に優しい。見るからに庶民派な店構えだ。

 ニヤリと笑みを浮かべ、晴嵐はその店の扉を開く。古びた木の扉が軋む音も、不思議と耳障りではなかった。

 そこそこに繁盛している店内を一瞥する晴嵐。新たな客の登場に店員が明るい声をかけた。


「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

「あぁ」

「カウンター席にどうぞ!」


 頭の上から垂れた犬耳の女性が、屈託なく男を案内する。背面の尻尾をスカートで隠し、白と黒の給仕服が晴嵐を案内した。

 丸椅子に着席すると、酒の入った棚が目に入る。奥にズラリと並ぶ様々なボトル。残念ながら晴嵐には、銘柄が分からない。彼の動作を見ていた店員が、ニコニコ笑って晴嵐に問いかけた。


「初めての人だね? いらっしゃい」

「あぁ、どうも。この地域も初でな」


 落ち着きのある金色の瞳と、黒髪のエルフの女性が応対する。どことなくテティを思わせる気配に、高齢であることが窺えた。その割に若作りで、肌の張りは良い。まじまじ観察する晴嵐と裏腹に、「あらま」と軽く驚いて見せた。


「それでよくこの店見つけたね?」

「昔から鼻は利くのでな」


 無駄話も程々に、晴嵐はメニューに目を通す。全く未知の名称の中から、パッと目についた物を一つ指差す。


「ふむ。ではこの『ポーローとトースターのセット』を頼む」


 指差した途端、店員の顔が固まった気がする。奇妙な反応に晴嵐もつられ、眉毛を上げる。店員の彼女がやんわりと晴嵐を止めた。


「やめておいた方が良いよ。それは……かなり人を選ぶものだから」

「あん? ならなんでメニューにある?」

「緑の国の伝統食だからよ。健康には抜群にいいけど、初めての人にはちょっと……」


 その煽りを受けて……晴嵐は逆に興味を持ってしまった。

 終末から来た男こと、大平 晴嵐 の味覚は破損している。

 腐った肉を調理し、本当に『泥を啜った』経験もある。この世界に来た直後も、臭い獣肉を平気で食せた。

 つまり晴嵐は、大半の物は喰えてしまう。喰わねば死ぬ環境で生き続けた彼は、その程度の脅し文句で怯まなかった。


「……変更はない。そのまま頼む」

「あー……そうかい。覚悟しておきなよ?」


 しぶしぶキッチンに入り、店員が料理を始める。

 元々軽食メニューなのだろう。すぐに差し出されたその皿に、盛られた驚愕の一品とは――

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