表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第三章 緑の国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/742

入り組んだ都市

前回のあらすじ


 長ぐ続いた徒歩での移動を終え、緑の国まで辿り着いた晴嵐。視界に入ったのは巨大な城壁と、エルフの入国審査官だ。ハーモニーの助言を使い、晴嵐は緑の国の都市部に入った。

 審査官と見張り番の間を通過し、晴嵐は窮屈な門から中に入る。

 石レンガで整備された地面を踏みしめ、城壁に隠れた町の中を見渡す。ぱっと見で抱いた印象は、物々しさを感じる灰色だ。

 全体的に、石造りの建造物が多い。地面は茶色と灰色のレンガで整備され、むき出しの地面は少ない。あるとしても植林用の空間ぐらいだ。

 建物は基本二階建て。ホラーソン村と比較すると、いかにも頑丈そうな作りに思える。城壁の事を考えると、攻撃される前提なのだろうか?


(やっぱり妙じゃのう……)


 道中で浮かんだ考え……「ホラーソン村と緑の国の間では、戦闘の記録が少ない」記録と、この城壁都市の現状が合わない。幾度となく侵略されたなら分かるが……何もないのに森を開いて、あんな立派な壁を築くか?

 歩きながら、思案を深めたのがまずかった。気がつけば晴嵐は、裏路地の行き止まりに立っている。薄暗い滞留した空気は濁っていて、けれど少しだけ懐かしい。

 終末世界で漂っていた退廃の臭い。路地裏の饐えた悪臭は、僅かだがそれに似ている。澱んだドブの臭いを拒まず、むしろ郷愁を感じる自分がおかしくて、しばらく笑ってしまった。

 公共の場だが、好き好んでこの場所に来る人間はいない。来るとすれば何も知らない旅人か――悪党かだ。

 とっとっとっ……と、気配を殺した小さな駆け足を耳で捉え、気づかぬふりで晴嵐は突っ立つ。すっと腰に伸びる手、慣れた足取りと手つきを、晴嵐はあっさりと捕まえ手首をひねりあげた。


「イ、イテデデデテ!」


 ぼさぼさの栗毛、みすぼらしく伸びた体毛に、オンボロ衣服から伸びる手を晴嵐が捕まえる。背丈は小さく、四肢はやせ細っていた。

 ……スリは予想出来たが、ストリートチルドレンが出てくるとは。

 こういう裏路地は、総じて貧民の吹き溜まりになりやすい。晴嵐も良く知っていたが、この速度で手を出されるとは。何も知らないカモと誤認したのだろう。

 ぐっと細腕に力を込め、子供は悲鳴をさらに大きくする。ドスの聞いたドブネズミの声で、痛烈な脅し文句を耳に囁く。


「お主の仲間に伝えろ。わしに迂闊に手を出すなとな」


 骨を折るか折らないか、絶妙な力加減で締め上げる。こげ茶も瞳に涙を浮かべ、コクコクコクと必死に頷いた。

 鼻を鳴らし、手持ちの道具から小さな薬瓶を取り出す。安物のポーションを子供の手に握らせ力を緩めると、子供は皺をよせ晴嵐を睨んだ。


「……情けのつもりかよ」

「手間賃の代わりだ。サボったら覚悟しておけ」

「ケッ」


 悪態をついて、そそくさと路地の影に消える。あの様子だと反省の色は見えない、また絡まれる前に、晴嵐は中央の通りに戻った。

 明るい通りはエルフが多く、異種族の姿は少ない。多数の種族が行き交うホラーソン村と異なり、ヒューマンの晴嵐も珍しいようだ。往来を歩くと、ちらちらとエルフの目線が晴嵐に刺さる。トラブルを避けるべく、道の端をゆっくりと進む判断を下した。

 卑屈になる必要はないが、堂々としても喧嘩の素。視線をそれとなく町の中に向け、こと城壁都市の中を探索していく。

 ちょくちょく見える裏路地から、あの退廃の臭いが漂っている。裏側の治安はよろしくなさそうだ。下手に踏み入れては危険な気がする。


(ギャングや裏社会の連中もいるだろうな……)


 ホラーソン村が如何に平和だったかを自覚する。まだ都市内に入って数分の晴嵐だが、きな臭さを敏感に感じ取っていた。

 ハーモニーがしきりに『無理はしなくていい』と言い聞かせたり、晴嵐の緑の国行きをやんわりと止める気配を見せていたが、なるほどこれでは人様に紹介できる都市とは言えまい。

 となれば……彼女は晴嵐の様子を案じている筈だ。道中の無事の保証もなく、この都市に入れたかどうかも、ハーモニーの性格なら気を揉んでいるだろう。まずはこの都市のポートに接触し、彼女にメールを送るべきか。

 がしかし……迷った。

 初見なのもある。地図や案内人がいないのも影響がある。

 けれど最大の要因ではない。この都市は恐ろしく入り組んでおり、背の高い建物のせいで、視界も悪いわ曲がり道も多いわ、まるで入った人間を迷わせる構造をしている。晴嵐は裏路地の臭いを嗅ぎ取って、裏路地に深入りせず引き返せているが……初見の旅人がここに来たら、身ぐるみ剥がされてしまうのでは?


(ったく、不便な都市じゃのー……)


 余所者に対する好奇の視線に、まるでわからぬ道筋と地形。所どころ漂う退廃の腐敗臭に、それを放置するのはどうなのか。

 この都市に抱いた初見の印象は、はっきり言ってかなり悪い。

 せめて看板を要所に立てるとか、工夫はいくらでもあるだろうに……ライフストーンでポートの位置を調べても、直線の方向しか示してくれない。他人に聞く勇気も持てず、あちらこちらを右往左往。なかなかたどり着けないポートに苛立ちを募らせた。


「クソが」


 つい口から出る悪態。都市内に入ってから約一時間彷徨った末、ようやく目的のポートを発見する。心労の溜まった腰を下ろし、ベンチに座り込んで深呼吸。緑の石ころを手に持って、ひとまずハーモニーへの文章を書き綴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
防衛用の町ですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ