第二章 ダイジェスト・3
数日後、晴嵐とハーモニーは兵舎に顔を出していた。要件は『人食い熊の退治募集』に参加するため。晴嵐は金を得、村との関係を作っていく為。ハーモニーは『人食い熊』を発見した事から責任を感じて参加。そのまま詳細をシエラに報告する二人。オークの死体について話すと、一人のオークが顔を出した。
この前の戦闘で、懲罰奴隷に身を落としたオークだ。今はシエラ兵士長が預かっている立場のようだが、狩人二人が発見した死体が『知った顔かもしれない』と思い、同行を希望する。
そして人食い熊退治の当日、複数のチームに分かれて捜索が始まった。魔法の旗を使って連絡を取り合いながら網を広げる。まるでトランシーバーを使った山狩りを思い浮かべる晴嵐。他のチームから入った発見報告に、晴嵐が所属するチームは気持ちを抜くが、同行していたオークは肩を落とした。
熊から距離が遠い彼のチームは、人食い熊の犠牲者捜索に役目を変更。森の禁域方面に足を運び、死体の臭いを頼りに目標を探す。
発見された死体は無残な有様だが、オークは判別がついたらしい。仲間の形見を拾おうとした直後、森の奥から甲高い破裂音が響いた。偶然かがんだことにより、攻撃を避けれたオーク。破裂音に硬直する人々の中で、晴嵐の反応は早かった。手製の煙幕を張り、遮蔽物に身を隠しながら叫ぶ。
「なんでこの世界に来て、ライフル銃に狙われなければならないのだ!」と。
しかし隣にいたオーク、ヤスケが晴嵐に言い返す。これは『悪魔の遺産』と呼ばれる武器で、千年前の連中が用いた迷惑な置き土産……らしい。そう説明されても、レーザーポインターや発砲音から、晴嵐は銃器による攻撃と断定する。兵士は一人が逃げ、一人が撃ち殺された。一撃死した死体を見て、有情なやり口と淡々と言う。その様子に腹を立てながらも、冷静な晴嵐に判断を委ねるオーク。晴嵐は煙幕を囮に根競べを挑む選択をした。
ところが煙幕を張った途端、敵は何もない場所へ狂ったように射撃を始めた。弾丸も消耗品で貴重品と想像する晴嵐は、無駄撃ちを始めた相手に違和感を持つ。銃撃の合間に確かめると、晴嵐の瞳には『亡霊』が見えた。
終わりの始まりの日に、夢に見た亡霊。実体のないソレに敵は銃撃を続けている。ヤスケには見えていないようで、半分勢い任せに説得し、晴嵐とオークのヤスケは窮地を脱出。どうにか旗持と合流し、他の全グループに急いで森を脱出するように指示。何とかこれ以上の犠牲者を出す前に森から脱出した。
後日、事後処理に奔走する村の兵士達。晴嵐の所にもテティが現れ、今回の事件について口外を禁じた。そのまま『個人的』な話に移り、前世を持つ彼女は『悪魔の遺産』についての説明を省いた事を詫びた。適当に流す晴嵐はそのまま聞くが、テティも詳しくは知らないらしい。ただ『悪魔の遺産』がどういう立ち位置にあるかを話してくれた。
千年前に現れた『欲深き者ども』『異界の悪魔』が製造したとされる武器類……『悪魔の遺産』は、真龍種を何体も殺害した悪名高い兵器。研究も製造も、それどころか所持だけでも罰則がある。保有すると攻撃的になり、悪魔に取り憑かれるなどの噂もあるようだ。一般に全く流通していない武器なので、晴嵐への説明も後回しにしたらしい。
晴嵐は考える。この『悪魔の遺産』の正体は、間違いなく地球文明にあった『銃器』と同じだ。しかし晴嵐は疑問に思う。それだと時間計算が全く合わない事に。
レーザーポインターの装着や、さらに全く見えない距離の射撃はスコープを装備していた事が考えられる。つまり『崩壊直前の地球文明の銃器』なのだ。少なくとも『地球の千年前』基準の装備ではない。
しかしもし、千年前に『文明崩壊前の地球人』が来ていたのなら……どことなく合致するこの世界の文化や技術に説明がつく。一体千年前に何があったのか……謎は深まるばかりだが、分からない事を考えてもしょうがない。そのまま時間が出来たので、魔法についての講座もテティから受ける事に。
一応、テティから貰ったお下がりのライフストーンに、魔法についての情報は入っていたが……未知の技術を一人で理解するのは難しい。彼女の説明も聞きながら、一つ一つ晴嵐は魔法を覚えていく。
この世界の魔法は『輝金属』と呼ばれる特殊金属を媒体にして発動する。ライフストーンも、魔法の旗も、ヒートナイフも盾や鎧の腕甲も……すべて『輝金属』を触媒にしなければ発動できない。一つの金属に一つの魔法しか発動出来ないので、複数の種類の魔法を使いたければ、対応する『輝金属』を複数携行する必要がある。
発動方式にも二つある。
魔法の電池『カートリッジ』を使って、軽く念じるだけで使用できる『魔導式』と
使用者の気力や精神力を消費し、魔法への慣れや理解があって発動できる『魔術式』
両者は見かけ上は違いが分からないので、発動方式をひっくるめて『魔法』と呼ぶ。
晴嵐でさえ『魔導式』なら魔法を使う事が出来る。一通り理解を進めた所で、テティは『例外』について話し始めた……




