第二章 ダイジェスト・1
ぐっすりと眠った晴嵐は、世界が壊れる前の事を夢見ていた。テティとその親のやり取りを見ていたからか、自分の親と子の関係を考える。何故かいら立ちを覚える晴嵐は、不機嫌なまま一階へと降りた。
自然な受け答えをしていると、別の宿泊客が下りて来た。『ハーモニー・ニール』と名乗ったその人物は、非常に明るく晴嵐にも元気よく声をかける。冷徹な世界を生きて来た男にとっては頭痛がする人種だ。苛立ちつつも無防備な人間と考え、村の事を質問する。
話を進めていくと、ハーモニーは若いが猟師らしい。同職と名乗って村に入った晴嵐も合わせる。彼は今日猟に行くので、良ければ共に狩りにいかないかと誘われた。……初対面で踏み込み過ぎと警戒する晴嵐だが、相手は全くの無防備な様子。そのまま押し切られてしまい、晴嵐はハーモニーと共に猟へ出ることに。
グラドーの森に入った二人は、この森について話していく。この森の生態系について、森の奥へ入れない結界に頭を悩ませていると語った。獲物を探す二人だが、血の匂いを嗅いで脇を締めた。ハーモニーに弓を用意させ、晴嵐は前に出て様子を見る。肉食の獣を警戒したが、残ったのは矢の刺さったオークの死体だった。
だが矢の位置が致命傷ではない。観察を続けた二人は、犯人を熊だと断定する。恐らくオーク討伐の際はぐれて、野生の熊と出くわしてしまったのだろう。人肉の味を覚えた熊を危険に感じる二人。森の中で悲鳴が響き、つい飛び出しそうになるハーモニーを『今の装備では無理だ』と止める。そんな二人に興奮状態のイノシシが飛び出した。即席の連携で仕留めた獲物は大きいが、人食い熊を警戒し大急ぎで脱出した。
一通り事務処理を終えた二人、ついいつもの調子で『昼飯はどうする?』と晴嵐は質問した。ところがハーモニーは首を傾げる。なんとなしにその場は流れたが、晴嵐は周辺を観察して絶句した。
なんと、ユニゾティアには昼食の文化がない。完全に非常識を口にした自分に心底震え上がり、しばらく一人で考え込む晴嵐。ところが今晩もう一度、ハーモニーと会って食事する約束をしてしまった。事情を知るテティから、色々と聞いておけば良かったと後悔する晴嵐。気を張った男を出迎えたのは、ハーモニーと亭主が用意した、獣の内臓を使った料理。思ったより緊張しなくても良いのだろうか……食事を共にしつつ考える男。会話を続けていると、酒場が盛り上がっている事に気がつく。
どうやら昨日のオーク討伐について、村の兵士たちが戦勝会を開くらしい。ハーモニーと入れ替わり、兵士長シエラも晴嵐に声をかけた。もうすぐテティも来るらしい。ちょうどよいと男はそのまま彼女を待つ。
テティは昼間にも来ていたらしい。何かと不便だろうと気を回してくれたようだが、間が悪くハーモニーと狩りに出ていた。若干問題が起きそうになり、危うかったことを話す。酒場の喧騒に紛れさせて、テティはこの世界の常識を晴嵐に語り始める。
この世界『ユニゾティア』の大きな歴史の転換点は、千年前にある。
千年前には『ヒューマン』『エルフ』『ドワーフ』『人魚族』『亜竜種』『真龍種』の六つの種族が暮らしていた。真龍種を除く五つの民族は、自らの種族が一番と言う思想『自民族至上主義』に染まっていた。世界を司る神の使いである『真龍種』は、各種族が諍いを起こす度に調停を続けていた……が、ある日真龍種の一人が暗殺されてしまう。呆れた神は調停を諦め、各種族で好きに争えばよいと通達。この世界を派遣を握るために、各種族は力を溜め始めたが……
ところが大きな異変が起きた。突然ユニゾティアの上空から、全く別の恰好と言語の人間が降ってきたのだ。『空から降りてきた人々』は、ヒューマン陣営に加わる。彼らは別分野の知識と知恵を保持し、さらに『測定不能の異能力』を一人一人が持っていた。一気にヒューマン陣営が有利になるかと思いきや、この人々が突如独立を宣言。ユニゾティアの覇権争いに参戦すると宣言した上、予定された時期より早く戦争を開始。これには真龍種も激怒し、制裁を加えようとしたが返り討ちに遭ってしまう。
この所業により彼らは『欲深き者ども』と呼ばれ、今のユニゾティアにおいても大きく嫌悪される『異界の悪魔』とも呼称される存在になった。窮地に陥ったユニゾティアだが、彼らはここでほろびはしなかった。
各種族は同盟を組んで、欲深き者どもを倒すべきと分かっている。しかし今までの争っていた相手と手を組むことは難しい。
だが、その奇跡を成しえたのは『歌姫』と呼ばれる女性の登場だった。元は『欲深き者ども』に属していたが、あまりに横暴な振る舞いに陣営を離反。彼女自身も能力を酷使しつつも、ユニゾティア陣営を一まとめにし、異界の悪魔たちを滅ぼす事に成功する。戦争終結一年後に『歌姫』は命を落としたが、この世界の神に拾い上げられ、今もなおこの世界を見守っているという……




