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倒産記事の書き方

建具屋を出た廣井は、急いでオフィスに戻った。倒産記事を書いてリリースしなければならない。ちょうど昼休みから戻った支店長の黒岩に倒産のようすを手短に報告する。

「昔はうちのクライアントだったのか。」

「確認してみないとわかりませんが、おそらく。」

黒岩支店長は、客かどうかを気にしていた。支店長という立場にある人は、売上のキープに一生懸命である。お客が倒産すれば、それだけ売り上げが下がるからだ。もっとも、もう一つ意味があって、調査会社のクライアント、もしくは過去そうであったとなればクレーム発生に影響しやすい。倒産情報とは、経営者にとって触れられたくない情報だ。できるものなら公開されたくないし、調査会社が隙を見せればクレームを入れてくる。もちろん、記事である以上報道の自由に守られる行為ではあるが、それでも注意を怠ると、例えば事実と違う記述は裁判沙汰になりかねない。

「直接話が聞けたのであれば、問題はないだろう。今日の記事になるか。」

「夕方には速報で。」

「マスコミは。」

「I新聞の伊藤さんに連絡してみます。」

倒産情報の公開は、通常調査会社のクライアントに対して行われるが、例えば社会的に意味がある、世相に沿っているなどの理由で新聞記事として取り上げられることもある。調査会社側ではその判断ができないので、マスコミリリースするかどうかは、新聞社側に問い合わせてからになる。

「廣井さんから電話がくるとドキッとしますね。」

「まあまあ、あまり大きな倒産ではないけど。」

「どこですか。」

「M市、建具店、負債は1億。」

「なんかあります?」

倒産は当事者にとって一大事。なんかとは失礼な話だが、伊藤記者とは長い付き合いだ。「ニュースバリューにつながるような特殊要因はありますか」という意味だ。

「うーん。生活様式の変化。かな。」

「建具の需要減?」

「そう。必要だったら記事流すけど。」

「了解です。紙面に載るかどうかは微妙ですが、キャップと相談してみます。」

「じゃあ、あとでね。うちのリリース後だから5時過ぎ。」

そんなやり取りをしながら、資料を集める。調査履歴は古い。10年前だと、共同経営者が手を引いたあたりか。その後調査が入っていないということは、新たな取引先が増えていないという意味だ。仕入れ先も販売先も固定化していた。というより広がる余地がなかったということだ。倒産記事といっても、難しいことは何もない。倒産には、かならずきっかけがあり、必ず対応策が講じられ、それが失敗するから倒産するのだ。「生活様式の変化で需要が変化」し、「コストダウンと現場対応力強化のために設備投資」で対策を講じたが、「結果うまくいかなくて法的手続きに至った。」事実関係だけきちんと裏付けを取り、間違っていなければ黒岩支店長の審査を経て、クライアント向けにリリースとなる。


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