100年の時と隔たれた空間で…
なんとなく出発した時から嫌な予感はしていたのだ。
ここを離れたらもう戻って来られないような…。
なのに僕は何で出てきたんだろう?
自分の故郷に行きたかったのは未練があったからなのか?
あの暮らしを捨ててまで元の世界に戻りたいと思っていたのだろうか?
分からない…
でも僕は人間なんかどうでもよかったけど、自分の生まれ育ったあの家は、街は、とても気に入っていたのだ。
しばらく“あの家”を探し、人のいなくなった東京の街をひたすらにさまよい歩いた。
何日経ったのかは覚えていない。
やがて力尽きて道端に倒れ込んだ…。
霧のかかる空をぼんやりと眺めながら色々な事を思い出した…元の世界の事や“あの家”での暮らし、楽しかった事や苦しかった事が走馬灯のように駆け巡った。
「もうこれまでかな…」
僕は最後の力を振り絞り、ビルの階段を這うように登った。
…やっとの思いで屋上までたどり着いた。
そして一歩ずつ屋上の縁に向かって歩き出す。
ビルの端に佇んでゆっくりと目を見開いた。
そこには霧に囲まれてはいるが、東京の街の一望が見渡せた。
自然と街のおりなす調和のとれた景色である。
「ああ…いい景色だ…」
僕は目を閉じてそのまま前方にゆっくりと倒れ込む…。
(最後にいい景色が見れて良かった…)
そのまま意識を失いかけた…。
その時だった。