ゴーストタウン
…随分と時間が経ってきたのか、辺りは薄暗くなってきた。
結構歩いたと思うが、それほど疲れていない。むしろ歩けば歩くほど気分が良かった。
なぜだろうと考えたが、おそらく酸素の濃度が濃いせいだろう。
なにしろここは動物類はいなく植物だけしか存在しないのだから。ただ原因はそれだけではないような気がするが、ひとまず今日はここらでキャンプする事にした。
…明くる朝、僕が目を覚ますとすぐ目の前に大きな実が実っていた。
恐る恐る食べてみるとあの家で食べた仙人芋(僕が勝手に名づけた)と同じような味がした。
どうも気になっていたのだが、どうやらここの植物には意思があるらしい。人間がいなくなったことで植物が急速に進化したのだろうか?
ともかくも僕を歓迎してくれているらしいのだ。
なぜならここでは植物にとって必須の炭酸ガスが不足しているからだ。植物も呼吸によって炭酸ガスを排出しているがわずかな量だ。
だからここの植物は僕を救世主のように思っているのかもしれない。
もっとも僕の吐き出す炭酸ガスの量もたかが知れているわけだが、僕は「彼ら」の対応が嬉しかった。
朝食に仙人芋を食べてから再び僕の故郷へと向けて歩き出した。
・・・
…徐々に故郷へ近づいてきたのか、何となく見慣れた光景が目に入る。
僕は高揚感を抑えながらも歩みを進めた。それにしても気分が良い、街中にいるのに森林浴をしているみたいだ。ここは環境が素晴らしい。
誰もいない街…建物は綺麗にそのままで人間だけが消えてしまった…。
不気味なようだがどこか切なく静かで、僕の心を癒してくれるようだった。
廃墟とかゴーストタウンとかは昔から好きで、不思議と魅力を感じてしまうものだ。
いつかそんな世界に行ってみたいと思っていたが、今まさにそれが現実のものとなっているのだ。
・・・
…気が付くともう僕の住む故郷へとたどり着いていた。
僕の家まであと少しだが、着くころには暗くなってしまいそうだったので明日の楽しみにとっておくことにして、今日は早いがこの辺でキャンプする事にした。
そういえば今は何月なんだろう?
適当な家に入ってカレンダーを見てみる…6月のカレンダーが開いていた。
とはいえ今が6月とは限らない。
温度計を見てみる…ちょうど20℃を指している。湿度は90%を超えて針は振り切っていた。まあそうだろう、外は常に霧がかかっているのだから。
何月かは分からないが、とても過ごしやすい状態ではある。
それと夜になっても街は真っ暗にはならなかった。
不思議に思っていたが、答えはすぐに分かった、太陽光発電だ。
人間がいなくなったことで電力供給がストップしても太陽光発電設備が設置してある家では自動的に電気が点灯するんだ。
改めてクリーンエネルギーの偉大さというのか、僕にとってはこの暗闇の中での小さな明かりがとてもありがたかった。
所々で小さく灯る明かりでも霧に反射して、意外と広範囲を照らしていた。
なかなか幻想的とも言える夜景を見ながら、僕は静かな夜を過ごした…。