暮らし
…あれから半年が経った。
僕もここの暮らしにも慣れてきた。
やはり案の定、僕ももう元の世界に対する未練が薄まってきた。
なにしろここにいれば住むところはあるし食べ物も腐るほどある。
井戸水は信じられないほど美味しいし、静かだしのどかだ。
庭も何故か手入れがされていて綺麗だし広い。
僕は毎日家の周りをジョギングしながら汗を流している。
走った後に飲む井戸水は、今まで飲んだ飲み物で最高の味がした。
一人で寂しさを感じる事もあるが、午後三時になれば大広間にみんな集まってくるし、そもそもここには見えないだけで千人以上が共同生活しているのだ。
それに僕は元々孤独で人嫌いだ、そう考えると特別寂しさを感じる事もなかった。
でもまだ少し未練があるのも確かだった。
もし、元の世界に戻れるとしたらどうだろうか?
しかしここの暮らしを捨ててまでまたあのクソみたいな世界に戻る気には多分ならないと思う。
はっきり言って僕はここに来て幸せを感じている。
それといくつか分かった事がある。最初は千人以上もいて食料が足りなくなるんじゃないかと思ったが、どうやら人数分あるらしい。
つまり同じ家に住んでると言っても僕らは結局別の次元に住んでいるのだ、だから例えば僕が冷蔵庫の中の食料を全て食べつくしたとしてもそれは僕の次元だけに影響が出るのであって、他の次元の人の冷蔵庫の食料が減るわけではないらしい。
よってお互いの食料を分けたり交換したりも出来ないようだ。
それと冷蔵庫の中の食料は食べても何故か減らないのだ。
というより食べたはずの食料が翌日には元に戻っているのだ。
要するにこの家には時間の概念がないのだと思う。
しかし冷蔵庫の食料は元に戻るが、食べたという記憶は戻っていない。
どうやら、翌日に引き継がれるものと引き継がれず元に戻る物とがあるらしい。
どれが戻ってどれが戻らないのかはよく分からないが、とりあえず冷蔵庫の中のものが元に戻る事は確実であるようだ。
…ところで僕はある決意をこの一か月で固めていた。
それは今日の午後三時になったら大広間に行ってみんなに話してみようと思う。