表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

住人

翌日三時になったので僕は大広間へと行ってみた。


そこには三人の人がいた。


一人は昨日会った俊夫さんだ。


「おう、こっちこっち」と俊夫さんが手招きをした。


「まあ適当に座ってくれ」と促されたので適当な所に腰掛ける。


「ああ紹介するよ…ていうか見えてる?」


「はい、僕には俊夫さんを入れて三人が見えます」


「OK、それでいい」


「やあ初めまして、僕は小林といいます。よろしく」


と俊夫さんの紹介を待たずにメガネをかけた40代くらいの男性が話しかけてきた。


「あ、はいどうも。僕は吉川と言います。よろしく」


「私は雪田というものだ、よろしく」


ともう一人の50代後半ぐらいの太った男性がキセルを口から外して話した。


「はい、どうもよろしく」


「まあ実はここには他にもたくさん人がいるんだけどね、吉川君が見えるのは俺を入れて三人のようだね」


「え?そうなんですか?」


「まあね、ここでは暇な住人が集まって飲んだり食ったりしながら駄弁る場所さ」


「ねえ、吉川君だっけ?君はどうやってここに来たの?」


と小林さんが話しかけてきた。


「えーと、僕は箱根山に登山に来てましてそれで…」


・・・


長いので会話の内容は省略するが、この三人がどういう世界から来たのかが大体分かってきた。


まず、作家をやっているという雪田さんの世界では、第二次世界大戦でドイツ、イタリア、日本が勝った後の世界らしい。アメリカやソ連は細かく分割され、いまやドイツを中心としたヨーロッパ連合と日本を中心とした大東亜共栄圏の二大列強が世界を牛耳っているらしい。分割されたアメリカは新興国的立ち位置で、今中南米諸国を巻き込んで急速に発展しているという。


農家をやっている小林さんの世界では未だに日本は鎖国が続いているらしい。


現在でも徳川幕府が存立していて、第二十六代徳川正行が今の将軍だそう。


意外にも長崎など一部の地域では海外との貿易が盛んで、特に近年インドとの交流が盛んのようでインド文化が日本の主流であるようだ。


江戸幕府成立からこれといった戦争がなく、どういうわけかその後の世界大戦にも巻き込まれることなく長期にわたって平和のようで、小林さんの人柄からもそれが覗えた。


最初に出会った俊夫さんはSEをやっていた人で僕と一番近い世界にいるらしい。


枝分かれしたきっかけは東日本大震災のようで、俊夫さんの世界では震源が地下数百キロの所だったので大した被害はなかったらしい。


あとは現在でも民主党が政権を握っているくらいで大した違いはなさそうだ。


「ところで聞きたいことがあるんですが、皆さんはここに来てからどれくらいになるんですか?」


「俺は一年半ぐらいかな、小林さんは確かもう三年ぐらいでしたっけ?」


「ああ、そのくらいだったかな?もういちいち覚えてないよ(笑)」


「私はもう五年はここにいるよ。もうだいぶここに慣れてきたものだよね」


「あの、皆さんも僕と同じように前に住んでた人と入れ替わったんですか?」


「うん、そうだよ」


「じゃあ僕の見えてる外の世界と皆さんが見えてるものはそれぞれ違うんですか?」


「ああ、まあね。吉川君の世界はケン爺さんの住んでた世界で、ゴーストタウンみたいな所なんだっけ?」


「はいそうです」


「こっちは酷いぜ、なんにもない荒野だよ。たぶんこれも戦争の後なんだろうけどひたすら破壊されてしまった後の世界だ」


「私も似たようなものさ、外は放射能が凄いから家の外にも出られやしない。その点小林さんは良いですよね、特に問題ない普通の世界なんでしょ?」


「まあ普通といえば普通かもしれませんが、文明が発達しすぎちゃってるみたいで僕みたいな田舎者にはついていけませんよ」


「皆さんは元の世界に戻りたいって思いますか?」


…三人は顔を見合わせてから、俊夫さんが口を開いた。


「はっきり言って戻りたくないね。俺はここの暮らしが気に入っているし、元に戻ったって仕事をクビになったから行くとこもないしね」


「私は戻れるならもどりたいかなあ…」「戻ったらここで体験した事を題材に小説を一本書き上げたいね、でもここの暮らしも悪くないと思う。小林さんや俊夫君みたいな全く違う次元の人達と関わるのも面白いし、こうやって吉川君みたいな新しいパラレルワールダーとの出会いもとても面白いと思う」


「僕はどっちでもいいかなあ」「僕もここの暮らしは気に入っているし、でも元の世界にも特に不満はなかったから戻ってもいいと思う。まあどっちでもいいって感じだね(笑)」


…僕はみんなの意見を聞いて、もう未練はないんだなと思った。


そういう僕はというと結構戻りたいなって思う。でも正直言って元の世界にはかなり不満があった。


僕は人嫌いで誰とも関わりたくないとよく思っている。


まともな職にも就いていなく、将来には常に不安を抱えていた。


それに友達もいなければ恋人もいない、家族とも不仲だ。


だから今回も人のいない登山に一人で出かけたんだ。


まだここに慣れていないせいだろうか?今は結構戻りたいと切に感じているのだ…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ