新天地
僕の腕に何かがしがみつき、後ろに引っ張られた。
僕はそのまま後ろにドシーンと倒れ込んだ。
何が起こったのか分からず混乱していると、目の前に人が現れた。
「あっ!」と思って見上げるとそこには“あの家”で最初に出会った小袖の少女がいた。
そして後ろには俊夫さん、小林さん、雪田さんが立っていたのだ。
一体何が起こったのか理解できない。幻を見てるんだろうか?
三人は僕に向かって「何をやってる!」「はやまるな!」「わざわざ自分から死ぬなんて馬鹿げている!」という声が聞こえた。
いや、聞こえたというより自分の意識の中にそう感じられたと言った方が正確か、しかしそんなことはどうでもいい。
「ああ、みんな…」
僕は涙を流しながら答えた。
「吉川君、どうやらパラレルワールドの入り口が閉じてしまったようだね、残念だよ」
「だが君がそっちに行って、とりあえず無事でいてくれたようで安心したよ」
「僕は…僕は…」
僕はもう何も言葉に出来なかった。
「だけどどうかそっちはそっちでうまくやっていてほしい」「我々もこちらでやっていくから」
「なに心配するな。いずれまたどこかで会えるさ、俺達とも元の世界の人達とも…」
「だからそれまで、何とか生き延びていてくれ。俺達もまた会える日まで何とか生きていく」
「皆さん…僕は…」
「大丈夫だ、奇跡は必ず起こる」
「この世界では常識じゃ考えられないような不思議な事が起こる。それは俺達が一番よく分かっている事だろう?」
「ハイ…」僕は涙を拭いながらそう答えるのが精一杯だった。
「…そろそろ時間のようだね」
「それじゃありがとう、楽しかったよ」
「また会おう!」
…その言葉を最後に僕は意識を失った。
・・・
気が付くと僕は部屋のベッドにいた。
勿論全部夢でした、なんてオチになるはずもなく、誰もいない街で誰もいない家の中だ。
僕は水を一杯飲んで庭の果実をもいで齧った。
さて…出かけるか…。
無論行くあてはないけど、僕はただ一人、
この世界で生きていく事を決意したのだ。
「なに、まだまだこれからだ」
そう呟き、僕は歩き出した。