相互的な関係性
黒い髪がキュートな彼女の名前は新田翔子。
年齢は俺と同じ16歳。
1月23日生まれの水瓶座。血液型はA型。身長150センチで体重はプライバシーの尊重にため秘密。隣のクラスで委員長を務める。陸上部所属で次期主将候補。男女共に信頼は厚く、部内でもクラスでも話題の中心にいる。趣味はお菓子作りに読書にスポーツ観戦。勉強も学年トップクラス。ここまでが俺がリサーチした結果だ。
端的に言うと、俺はこの子に恋をした。
きっかけはほんの些細なことだった。彼女が落としたハンカチを俺が拾ったという実にありきたりなシチュエーションだ。
だが、シチュエーションはありきたりでも、俺はその日、俺の日常においてありきたりではない感覚に襲われたのである。
「どうもありがとう!」
ズキューン。
という、テレビ番組の効果音で用いられるようななんともわかりやすい銃声が鳴り響いたのだ。俺の中で。その時の彼女の笑顔と言ったらもう。今まで生きて見てきた中で最も純粋で、無垢で、愛らしかった。俺のハートは射抜かれるどころか、その一撃ですでに完膚なきまで粉砕されていた。
今まで俺が女子に対して持っていた偏見__ どこかあざとく、どこか刺々しく、どこか白々しい、とにかく恐ろしい存在であるという固定観念もすべてまとめて粉砕されてしまった。それは俺にとって革命であり、罪でもあった。罪状はもちろん銃刀法違反だ。
まったく、とんだスナイパーもいたもんだぜ。いや、正面から撃たれたというニュアンス的にはガンマンの方が近いか?どちらにせよ銃であることに変わりはない。銃は危ないからな。安物のエアガンだって人に向けて発砲しちゃいけないと注意書きされている世の中だ。
俺のハートを粉砕した彼女の弾丸を絶対に許すわけにはいかない!絶対に!そして俺は、粉砕された後に再構築したハートにこう誓ったのだ。
キミの銃刀法違反は俺が取り締まる!
俺と築く家庭で末長く終身刑に処してやる!
それが俺の行動理念であり、使命である。だからこうして、一人で下校する彼女を後ろから見守っているというわけだ。
必ずこの手で取り締まるためにも!
他の誰にも邪魔させない!
彼女には友達がたくさんいるが一人の時間も大切にする子だ。周りに合わせてストレスを溜めることをよくないこととし、ちゃんと自分の時間を設ける。ソーシャルネットワークが普及して、周りとの関係もより密に、しかし一方で息苦しくなってしまった現代においてそのように一人の時間を優先出来るのは贔屓目なしにすごい。俺はその、周りとの絶妙な距離感を作る才能にも惚れていた。そこも含めて彼女の魅力だ。
先ほども述べた通り、彼女は様々な趣味を持っている。彼女は自分でチケットを取って自分の足でスポーツ観戦に向かうし、自分が求めるお菓子の良質な材料を自分の足で探し歩く。誰の力も借りることなく自分の足で、自分の意思で満足を得るために行動し、満足を得るために熱中している。これはなかなか出来ることじゃない。
今日だって学校帰りに立ち寄った本屋では二時間で十五冊の本を読破していた。部活用のカバンだろうか?それを背負いながらでも疲れた様子をまったく見せず、流行りの小説から実用書、自己啓発本まで多彩な分野を自分の中に吸収していった。店を後にした彼女なんとも満足気だった。見ているこっちまで嬉しくなって、嬉しい気持ちのまま彼女を追う。それだけで俺は十分過ぎるほど幸せだった。
だが彼女には一つ、不可解なことがあった。
それが起こったのはその日だけではなく、彼女を追い始めた日から今日に至るまでずっと続いていることだった。
それがなんなのかと言うと、彼女は消えるのだ。唐突に、跡形もなく。
曲がり角を曲がったらいないとか、コンビニに入ったっきり出て来ないとか、とにかく彼女は消えるのだ。
などと逡巡している間に、またしても。
彼女は曲がり角の先で消えていて__
○
そこの角を曲がり彼の死角に入ったと同時に私は一目散に駆ける。目星を付けていた通りそこには公園があり、すかさず公衆トイレの個室に駆け込む。
「……もう大丈夫かな?」
窓から外を警戒しつつカバンを開け、中からあるものを取り出し装着する。
着替え、マスク、伊達メガネ、茶色のウィッグ。
そしてそれらが入っていたリバーシブル仕様のカバンを裏返し、今まで着ていた制服をそこにしまい、平然とした顔で私は外に出る。
「……いた!」
距離を取って回り込み、彼の後ろのポジションをキープする。いつものことながら、彼はまったく気付いていないようだ。
「私のハートを撃ち抜いた罪は重いわ」
だから彼は私がこの手で取り締まらなきゃ!他の誰にも邪魔させない!
彼の名前は杉本圭一。
端的に言うと、私はあの人に恋を__