異世界召喚に巻き込まれたモノの伝説
突然思い付いて書き上げた短編です。書き上げて直ぐに投稿してしまったので、誤字があるかもしれません。発見次第、修正します。勢い任せですみません。
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ある冬の日、夕暮れ時、幾分の雪を残すアスファルトが淡く輝く。その輝きは魔方陣と呼ばれる幾何学紋様を象っていた。魔方陣の中心には三人の若者がおり、驚きに顔を歪ませていた。
気が付くと淡い輝きがおさまり、薄暗い空間に包まれていた。目が慣れると正方形の部屋であることが分かる。その部屋の壁は硬質な、まるで剥き出しのコンクリートの様な質を感じさせた。部屋の四隅には不思議な明かりが灯されており、部屋をぼうっと照らしていた。
「... ...お前ら、誰だ!」
若者の一人が、長い沈黙を打ち破り、発言する。
「勇者様、あなた様方をお呼びしたレドリックと申します。このライン皇国の筆頭魔法士を任されております」
薄暗い空間、輝きは消失したが、うっすらと足下には魔方陣が残っている。その魔方陣を薄紫色のローブを着た者が数人、取り囲む様に立っていた。
若者は、その気味の悪い者達に問い掛けたのだ。その問いの応えに困惑する三人。
「もしかして異世界召喚ってやつか...」
何やら思い当たることがあるかのように、一人が呟く。
その後、三人は筆頭魔法士のレドリックに連れられ、ライン皇国の皇帝に会い、ことの経緯、頼み事、魔力測定、属性調査、スキル判定などを経て、皇国の傀儡として三人の勇者が誕生した。
その三人の勇者の物語とは別。
先ほどの召喚に巻き込まれたモノがいた。
三人の若者の直ぐそばを横切ろうとしただけ。たまたまタイミング悪く、召喚の魔方陣に乗ってしまった運の悪いモノ。
そのモノの名は、クロ。全身を闇色の体毛に包まれ、琥珀色の瞳を持った十四歳の雄猫である。
召喚直後、目にも止まらぬ速さで壁際へ走り寄り、誰からも察知されぬままに、部屋から脱け出したクロ。三人の勇者と同じようにクロにも、この世界に召喚されると同時に能力が開花していた。
元々の素質が左右する能力。クロが開花させた能力は、隠密、気配察知、闇属性魔法である。
城を抜け出す為に、城中を駆け巡った。生きるために、城に潜む鼠を狩り己の糧とした。
もうすぐ寿命であり老猫の域に足を踏み入れていたクロであるが、異世界の恩恵を受けていた。
レベルアップである。
若返りはしないものの、確実に肉体が強化され、最大生命力も数倍に伸び、若かりし頃の動きを凌駕する身体能力を手に入れていた。
城を抜け出す頃には、一般的な猫の身体能力を遥かに凌駕し、獣の中でも上位に位置する獅子や虎と変わらぬ領域に踏み込んでいた。
城下町でも、生きるために鼠を狩り続けた。時には雀の様な小鳥を、時にはカラスの様な鳥を狩り、生きるための糧としていた。
ある時、クロは気が付く。自分の体の大きさが猫の域を越え、大きくなっていることに。町の裏通りを、闇に紛れて歩むには限界の大きさであることに。
町人に発見され、化け猫と罵られ、追われることも度々あった。
クロは町を出ていく事を決断した。
町の外では、少々巨大な野鼠を狩り、額に角の生えた大きめの兎を狩り、灰色の毛に覆われた大きめの野犬を狩り、全てを食らい続けた。
クロがこの世界に召喚されてから一年が経ち、雪がちらちらと降り積もる季節が訪れた。その頃になると、闇を自由に操る事が出来るようになっていた。闇に体を沈み込ませ、別の闇から現れる。闇を伸ばし、標的を絡めとる。闇で自身の分身を作る。本能のみで、闇属性魔法を使いこなすようになっていた。
クロは、ある森に辿り着くと、そこを縄張りとすることに決めた。
動物だけでなく、様々な果実や草花が生い茂り、クロにとってはとても過ごしやすい森であった。
その森を、縄張りを荒らす生意気な魔獣は全て狩る。小さな角を生やした汚ならしい小鬼、犬の顔をした獣人、豚の顔をした獣人、銀色の毛に覆われた狼、灰色の毛に覆われた巨大な熊、硬い毛皮に覆われ顔に牙を生やした巨大な猪、深い緑色の鱗に覆われた二足歩行の蜥蜴。ありとあらゆる魔獣、魔物を狩り、食らい続けた。
クロが森に辿り着いてから更に一年が経ち、森を雪が覆う季節となる頃、クロは、森の頂点に君臨し、森の全ての魔獣、魔物を従え、悠々自適に過ごしていた。そんなある日、突然出現した洞窟。その洞窟からは、この森には棲息していなかった新手の魔物が沸き出てきた。一つ目の空飛ぶ球体、剣と盾を持った骸骨、魔法を操るローブ、石でできた巨人、牛の頭を持った巨大な獣人、山羊の頭を持った巨大な獣人、二本の角が生えた大鬼、三つの頭を持った巨大な黒犬、八つの頭と尻尾を持った大蛇、九つの尻尾を持ち魔法を操る狐。狩れども狩れども切りがなく、延々と沸き出てくる魔物。全てを狩り尽くすのに飽きてきたクロは決断する。洞窟の魔物を殲滅することを。
幸いにも、洞窟内は闇が溢れている。出会った魔物を全て闇に引き摺り込み、奥へ奥へと進む。道中の魔物を全て闇に引き摺り込み辿り着いた最奥には、巨大な蜥蜴がいた。蝙蝠の様な翼を持ち、炎を吐く巨大な蜥蜴。その大きさはいつかの城を思い出す。
象と蟻ほども違う大きさ。そんなことは関係ないとばかりに、炎の息を回避すると、他の洞窟の魔物同様、闇に引き摺り込む。
史上最強の魔物を狩ったクロ。多大なレベルアップを経て、この世界最強の生物になった瞬間である。
クロは、闇に引き摺り込んだ魔物を少しずつ取り出し、全てを食らい尽くすのに数年掛かったのだが、その頃には種族が、聖獣へと変わっていたが、クロには関係ないことであった。その後、悠々自適の生活を取り戻したクロは、猫化の魔獣を相手に子孫を孕ませ、悠久の時を過ごした。
雪が地面を覆う。白い世界に大きな黒猫が一匹。悠々と道を切り開いていく。その後ろからは小さな黒猫が数匹。よちよちと一生懸命に大きな黒猫の後を追っていた。
クロは、増えた子孫を引き連れ、新たな縄張りを求め世界を練り歩く。クロの子孫が新たな伝説を作るのも別の物語である。
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クロの伝説を短編で纏めてみました。連載小説のプロットのような感じになってしまいましたが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
クロの子孫が猫の獣人という設定ではどうなるのか。もう少し練ってみようかと思います。