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ヴァイオレット邸の惨劇

気がつけば、僕はいつも変な場所にいる。

どうしてこの場所にきたのか、その方法も理由もわからないまま見知らぬ場所で立ち尽くしていることが多かった。友人に相談しても、夢遊病なんじゃないかといわれ、医者に行っても原因不明。

それだけならまだいいのだが、一番困るのは気がついたとき時間がかなり経過していること。その間、自分が何をしていたのかはさっぱり覚えていない。

だから、目の前の立派な洋館を突然目の当たりにしても、僕はああ、またかと思うだけで特に驚きはしなかった。

辺りは手入れの行き届いた広い庭園があり、後ろには大きな門が開けっ放しになっている。空は厚い雲で覆われており、時折光っているのは稲光だろう。いつ雨が降り出してくるかわからない、といった天気だ。

庭園を囲んだ塀の向こうには、鬱蒼とした木々が連なっている。

それらを眺めていると、ぽつり、ぽつりと雨が降り出した。そしてすぐに土砂降りの大雨になる。

僕は仕方なく洋館の扉を叩くことにした。ここがどこなのかわからない以上、道を聞くしかないからだ。

人気はなさそうだが、こんな森の中の洋館に、誰か住んでいるのだろうか。

僕の不安とは裏腹に、数秒もしないうちに扉は開かれた。中から出てきたのは執事服を着ている長身の若い男だった。

「あ、あの、すみません。道に迷ってしまいまして、町まで行く道を伺いたいのですが……」

男は僕と外を見ると、「どうぞお入りください」と言って中へと招き入れてくれた。

「雨の中大変だったでしょう。すぐにタオルをお持ちしますので少々お待ちください」

「あ、おかまいなく……」

男は一礼すると足早に奥の方へ行ってしまった。

男の姿が見えなくなって僕は気付いた。僕を見つめるいくつかの視線に。

そこは玄関ホールだった。天上にはシャンデリアが四つ飾られており、二階へ続く階段が左右対称に伸びている。左の階段の側には金髪の若い女性。右の階段のそばには黒髪の中年女性。二階通路の手摺に寄りかかってこちらを見下ろしている少年。そして扉の近くで壁に背を預けて腕を組んでいる僕と同年代の眼鏡をかけた男の四人が僕を見つめていた。

「あ……ど、どうも……」

つい、頭を下げてしまう。すると彼らは興味を失ったのかそれぞれ視線をそらした。

「やあ、こんにちは」

だが、その四人のうちの一人、同年代の眼鏡の男が挨拶をしてきた。

「君も、道に迷ったのかい?」

「え、ええっと……」

そう問われて僕は困った。いつの間にかここにいたなんて初対面の人に言う度胸は僕にはなかった。だからそんなところだと話を合わせることにした。

「まあ、そんなところ。君も迷ったの?」

すると男は肩をすくめて視線を他の三人のほうへ移した。

「俺もって言うか、ここにいる全員そうだね。皆、道に迷って立ち往生。こんな辺鄙な場所に雨宿りできる場所があってラッキーって感じかな」

「ふーん。そうなんだ……」

「お待たせいたしました」

そこに、さっきの男がタオルを持って戻ってきた。

「どうぞ」

「あ、ありがとう」

僕はお礼を言ってタオルを受け取ると、濡れた髪と顔を拭う。

「あの、ここはどこなんでしょうか?」

拭いながら、タオルを持ってきた男に向かって尋ねた。

「ここは――」

突然、執事の言葉を遮るように外から狼の鳴き声が聞こえた。一つではない。複数の狼の鳴き声だ。そして、間髪入れず僕の後ろの扉が勢いよく開かれた。

「!?」

反射的に振り返ると、全身ずぶ濡れの女の子が肩を大きく上下させている。赤いツインテールの髪型の可愛らしい女の子だった。

「た、助けて……お、狼が……」

女の子が息を切らせながら外を指差す。

確かに、複数の狼たちが彼女を追ってきたのか、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

それを見た執事服の男が素早く扉を閉めて鍵をかける。

「だ、大丈夫なの……? 中に入られないでしょうね!?」

そう怒鳴ったのは金髪の若い女性だった。あきらかに、迷惑そうに僕達――というより逃げてきた女の子を睨んでいる。

「大丈夫です。この扉は頑丈です。今までも、狼や獣に侵入されたことはありませんから。大丈夫ですか? お嬢様」

執事服の男は余裕の表情で答えながら、女の子にタオルを差し出した。

「でも、困りましたね。これじゃあ外に出られないわ……」

そう言ったのは黒髪の中年女性だった。不安そうな顔で外を見つめている。

「そうですね。それに、もうじき日が暮れます。今から外に出るのは危険です。皆さん、今夜は泊まっていかれてはいかがでしょうか?」

「え、いいんですか?」

僕が尋ねると、執事服の男が微笑みながら頷いた。

「主にはそうしていただくようにと言われておりますので」

「……そのご主人様はどこにいるのよ?」

「申し訳ありません。このヴァイオレット邸の主であるクリス様は数年前から病で臥せっておりますので、皆様のお目にかかることがかないません。主に代わり、お詫び申し上げます」

不機嫌そうな金髪女性の言葉に、男が頭を下げると、金髪女性はふんと鼻を鳴らし、顔をそらした。

「私、このヴァイオレット家の執事で、ドルイドと申します。よろしくお願いいたします。何かございましたら、何なりと申しつけくださいませ。それでは、お部屋まで案内させていただきます」


「ラッド様、ハロルド様はこちらとこちらの部屋、セレス様はこちらの部屋になります」

ドルイドから案内された部屋は一階の東側にある通路に面した部屋だった。僕の隣にはさっきの同年代の男――ハロルドで、僕の真向かいの部屋は赤いツインテールの女の子――セレスの部屋になった。

「夕食の準備が整いましたら伺いますので、ごゆっくりおくつろぎください」

そう言って一礼すると、ドルイドは他の客たちを連れて去っていった。どうやら、彼らは二階の部屋になるようだった。

「ねえ。君たち、何もすることがなかったら、この館の中探検してみない?」

部屋に入る前に声をかけてきたのはセレスだった。

「えっと……」

「私の名前はセレス。セレス=フォルカー。よろしくね。一晩だけだけど」

「……僕は、ラッド。よろしく」

「俺はハロルド。ハロルド=ヴィンセント」

彼女が名乗ったので、僕達もそれぞれ名乗った。するとセレスは可愛らしい顔でにっこりと微笑んだ。

「夕食まで結構時間があるみたいだし、暇つぶしに行ってみない?」

「で、でも、勝手に歩き回ったりして怒られたりしないかな……?」

僕は顔が少し火照るのを感じながら、少し顔をそむけた。

「大丈夫だって。いざとなったらトイレ探して迷ったって言えばいいんだから」

「そうだな。面白そうじゃん。ラッド、行ってみようよ」

「……わかった。ハロルドが行くなら、僕も行くよ」

「決まりね。じゃあ、十分後にここに集合ってことで」

そういった成り行きで、僕達三人は館の中を探検することになった。

「でも、広い館だね。他に、誰かいそうなもんだけど……」

長い廊下には、ぽつんぽつんと間隔をあけて部屋の扉にはあり、その扉の間の壁には高級そうな絵画が飾られている。天井の明かりとは別に、ところどころ置いてあるスタンドには埃ひとつついていない。掃除が大変そうだなと思った。

一階の廊下を三人で歩いているが、まだ誰にもすれ違うどころか、人の気配すらしない。不気味な静けさが、辺りを満たしていた。

「きゃっ!!」

その時、突然廊下の奥のほうから女性の悲鳴と何かが割れる音が響いた。かなり静寂だったため、僕は驚いて少し体を震わせてしまった。

何事かと駆けつけると、割れた花瓶の前であたふたしている女性の姿があった。初めて見る女性で、メイド服を着ている。おそらく使用人の一人なのだろう。

「あうぅ……やっちゃった。またルイ様に怒られる……」

うっすらと涙を浮かべて割れた花瓶を見つめていた。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

僕が声をかけると、メイドはびくっと肩を震わせて振り返る。

「あっ、お客様、大変お見苦しいところを失礼しました!」

そう言って年下の僕達に頭を下げる。

「あ、あの、あなたはこの館の使用人の方ですか?」

ハロルドが尋ねると、メイドは顔を上げて「はい」と頷いた。

「まだ勤めて日が浅いですが、私、フランカって言います。何かご用命がございましたら、遠慮なく申しつけください」

歳は僕達より少し上といったところだろうか。フランカは素朴だが可愛い顔でにっこりと笑った。

「あの……」

「何事ですか?」

僕が口を開こうとすると、後ろから声がかけられた。ドルイドだった。

ドルイドは僕達とフランカと割れた花瓶を見比べると、すぐに僕達に向かって頭を下げた。

「大変お見苦しいところを失礼しました。ここは花瓶の破片が散っており、危険ですのでお戻りください」

「あ、は、はい……」

ドルイドにぴしゃりと言い切られ、僕達は元来た道を戻ることにする。

「またあなたですか……」

「違うんです。猫が……」

後ろからかすかに聞こえる彼等の声を聞きながら、僕達はその場を後にした。


「大丈夫かな……」

「……ラッドは、優しいんだな」

僕が呟くと、何故かハロルドは物憂げな顔をして微笑んだ。

「優しい、かな?」

「…………」

「優しいっていうか、もしかしてラッド君、さっきのメイドさん――フランカさんって言ったっけ? 一目ぼれした?」

セレスの言葉に僕は顔を赤らめ、首を横に振った。

「そ、そんなんじゃないよ」

「顔真っ赤にしちゃって。わかりやすい」

言いながら、セレスはくすくす笑う。

「だから違うって」

そんな話をしながら、玄関ホールの階段から二階に上がると、手摺に背を預けて本を読んでいる少年と目が合った。さっき、書かされた来客手帳を見たとき知ったことなのだが、たしかジャックいう名前だったはずだ。

「ねえ、こんなところで何してるの?」

「おにいさんたちこそ、揃って何してるの? 泥棒の真似事?」

「違うよ。ちょっとした見学だよ」

ジャックの嫌味に答えたのはハロルドだった。

「読書なら、部屋でもできるだろ? 何でこんなところにいるんだ?」

「別に……ただ、ここの方が落ち着くんだ」

ジャックはそう言って玄関の扉を見つめた。それにつられて僕たちも玄関へ視線を移す。相変わらず、外からは雨音と雷に混じって、狼の鳴き声が時折聞こえてくる。それを聞き、僕は身震いした。

「ねえ、良かったら君も一緒に行かない? 館探検」

誘ったのはセレスだった。まさか誘われるとは思っていなかったらしく、ジャックは少し驚いていたが、やがて失笑すると

「遠慮しておくよ。群れるのは好きじゃないから」

そう言って、本を閉じると二階の客室のほうへ戻っていった。

「今時の子はノリが悪いわね」

呟いたセレスの言葉に、僕は吹き出した。

「なんか、今の言葉、おばさんくさい」

「し、失礼ね! 早く次に行きましょ」

それから二階を見て回ったが、いずれもどれが客室かわからない扉の作りをしていた。扉の上に部屋の名前が木のプレートに彫られていたためどれが何の部屋なのかすぐにわかるようにはなっている。しかし、客室を避けて扉を開けてみようとするがどの部屋も鍵がかかっているようで特に見られるような場所はないようだった。

「つまんなーい」

見られるところがないことに、セレスは頬を膨らませて「つまらない」を連呼している。それを見て、ハロルドは苦笑した。

「さっき狼に追われて命からがら逃げてきた女の子とは思えないな」

「ははは……」

そういえば、とさっきのことを思い出しつられて苦笑する。

すると、突然女性の悲鳴が響いた。すぐ近く――どうやら二階の客室の方からだった。

何事かと、客室の一室から中年女性が出てくる。そしてすぐに真向かいの客室の扉を叩き始めた。

「ジルちゃん? どうしたの、ジルちゃん!?」

「どうしたんですか?」

僕達が駆けつけて声をかけると、中年女性は「わからない」と言って首を横に振った。

そして再び悲鳴が聞こえ、それと同時に金髪女性が部屋から血相を変えて飛び出してきた。近くにいた中年女性にしがみつく。

「ジルちゃん、どうしたの? 何があったの?」

中年女性が問いかけるが、ジルと呼ばれた金髪女性は震えながら部屋の中を指差した。

「あ、あぁ、あそこ、あそこに……」

僕はジルが指差すほう――彼女の客室の中を覗いてみるが、特に変わった様子はないようだった。

中年女性のほうに振り返り、首を横に振る。

「何もないいたいですけど……」

しかし、ジルはじぃっと部屋の中を凝視したまま、ひらすら何かを呟いていた。だが、何と言っているのか僕には聞き取ることができなかった。


夕食の時間になり、僕達はドルイドに案内されて食堂に通された。上座にも食器が並べられているが、形だけのものだろう。結局晩餐にも、館の主は現れなかった。

あれだけ大騒ぎしたにもかかわらず、ジャックが姿を現したのは食事の時間になってからだった。何事もなかったかの様にしれっとした態度で座っている。

さっきまで顔を真っ青にしていたジルは落ち着きを取り戻したようだったが、お世辞にも顔色がいいとはえなかった。

彼女は一体、何を見たのだろうか。

そんなことを考えている間にも、使用人たちが夕食の配膳を済ませていく。その中には、フランカの姿もあった。

「では、ごゆっくりどうぞ。何かご用がありましたら、使用人にお申し付けください」

配膳が整うのを確認すると、執事は一礼して食堂から出て行った。

そして各々、食事に手をつけてしばらく食器の音が場を満たしていた。セレスとジャックはお腹がすいていたようで黙々と食事を続けており、ジルは食欲がないのかスープをスプーンでかきまわしており、中年女性は食器にも手をつけていないようだった。

「皆さん、折角ですし、それぞれ自己紹介でもしませんか? といっても、一晩だけの縁になりますが」

そんな中、口を開いたのはハロルドだった。どうやらこの重い空気に耐えられなかったらしい。僕も、同じ気持ちだったので心の中でハロルドに感謝した。

「じゃあ、言いだしっぺの俺から。俺はハロルド。ハロルド=ヴィンセントといいます。交易商の父と一緒に旅をしています。父とは、森ではぐれてここに辿り着きました」

「その歳で、お父様と旅を? 偉いわね。でも、学校は?」

話にのってきたのは中年女性だった。

「学校には行っていません。旅をしながら、父に色々教わっています」

「そう……」

ハロルドは、隣に座る僕のほうを見た。次は僕の番らしい。

「えっと、僕はラッドといいます。その、僕も森で迷ってしまってここに辿り着きました」

僕は嘘をついた。説明できるはずがないからだ。

「ラッドは学生なのかい?」

「えっと、まあ……そんなとこ、かな」

ハロルドの質問に、僕は曖昧に笑った。

「じゃあ、次は私ね。私はセレス。セレス=フォルカー。好きなものは面白いこと。嫌いなものは地下と退屈なこと。以上」

セレスはそれだけ言うと食事を再開する。一方的な自己紹介で、誰も突っ込みを入れることができなかった。

そして、皆の視線が中年女性へと移る。

「私は、エレノア=セイファート。職業は医師なんだけど、旅の途中で森に迷ってここに辿り着いたの」

「お医者様ですか。それは心強いですね」

「ええ。何かあったら遠慮なく言ってちょうだいね」

ハロルドの言葉に、エレノアは微笑んで言った。そして次はジルへと移る。

「……わ、私はジル=ブラッドよ。あんたたちと同じ迷子よ。何してるかとか言いたくないわ」

ジルはそれだけ言うと、ふい、と顔をそむける。

「僕も右に同じ。僕はジャック=フレンダー。名乗りはするけど仲良くする気はないから」

それだけ言うと、ジャックも食事を再開した。

それから、僕たちは他愛ない話を交えつつ食事をした。そしてデザートを食べ終えた頃、セレスが口を開いた。

「ところで、ジルさん。あなたはさっき何を見たの?」

その言葉に、ジルの手がぴたりと止まった。一瞬んして顔が青ざめる。

「………………」

だが、ジルは何も答えなかった。皆の視線がジルに集中する。

「あ、あんたたちには関係ないわよ。あんなの……幻覚、そう。幻覚なんだから」

「でも、それにしては随分と怯えてたみたいだけど」

「あんたには関係ないでしょ!!」

セレスの指摘に、ジルは憤慨して乱暴に立ち上がると、食堂から出て行ってしまった。


食事のあと、ドルイドに遊戯室があることを聞かされた僕達は、ジルを除いたみんなで遊戯室にやってきた。ビリヤード台やバーカウンターが備えられた、小さなバーのような部屋だった。色々と小洒落たゲームグッズが置いてある。

ドルイドに聞いたところ、何でも館の主がこういったゲームが大好きで趣味で取り寄せているらしい。

セレスはさっきからスロットやら、色々なゲームに手を出しており、ジャックも歳相応にゲームがすきなのか、興味深そうに眺めてまわっている。

そんな二人の姿を見ながら、エレノアはどこか遠くを見るような目をしていた。

「エレノアさんは、お子さんとかいるんですか?」

僕が尋ねると、エレノアは少し驚いたような顔をしたがすぐに「いいえ」と言って首を横に振った。

「ずっと独身よ。いつかは過程を持ちたいと思ってたんだけどね……あなたたちは?」

「えっと、僕は……」

言葉を詰まらせる僕を見て、ハロルドが口を開いた。

「俺は家族は父親だけです。母は……三年前に亡くなりました」

「……………………」

「そう……それは、辛かったわね」

「実は俺、父親と母親とは血が繋がっていないんです。小さい頃に、実の母親に捨てられて、施設で育てられて。引き取られたのも数年前なので、そこまで悲しくないんですよね。薄情な話ですけど」

「………………」

そのとき、少しだがエレノアが動揺したように息を呑む音が聞こえた。だが、それは一瞬のことですぐに微笑んだ。

「そう。明日までの短い時間だけど、こんなおばさんでよかったら、いくらでも話聞くから、何でも相談してちょうだいね」

「ありがとうございます」

僕は笑顔を浮かべる二人を見た。

ドクン……。

何故か嫌に高鳴る胸を押さえて、僕は軽く頭を振った。



やがて、夜も更けていく。時計を見ると既に日付が変わろうとしている時間帯だった。

私はなかなか寝付けず、ベッドの横の椅子に座っていた。その手には、古びた手帳が握られている。手帳から一枚の写真を取り出した。ぼろぼろの古びた写真で、それには一人の赤ん坊の写真が写っていた。

何度も何度も捨てようと思っていた。だが、捨てられずに未練がましく持っている。この写真を捨てられないことが、自分の弱さなのだと私は思った。いつまでもいつまでも、自分はこの写真に甘えているのだと。

「……っ」

私は強く写真を握り締め、声なき声で赤ん坊の名前を呟いた。

そのときだった。

廊下のほうから、ひた、ひた、と足音が聞こえてきたのは。

使用人の見回りだろうと思ったが、それにしてはその足音はあまりに幼稚だった。まるでわざと足音を立てているようで、靴音ではなく裸足で歩いているような音だ。

小さかったそのお供、だんだん大きくなっていく。その不気味な足音に私は身震いしながらも、早くその足音が去ってくれることを祈った。

だが、ぴたりと、その音はあろうことか自分の部屋の前で突然止まる。

「………………」

当然であるはずの沈黙がやけに不気味で、私は無言で扉を凝視した。自分の心臓の音と、時計の針の音だけがやかましく、鳴り響いている。

落ち着け、落ち着けと心の中で念じながら私は椅子から立ち上がった。

そのとき、突然階下から何かが大きく割れる音が鳴り響いた。

「ひっ……!」

神経を集中していたため余計に驚いてしまい、小さく悲鳴を上げると持っていた手帳と写真を落としてしまった。

何事かと、隣と向かいの部屋の扉が開く音が聞こえる。

私はハッとして手帳と写真を懐の中にしまうと、急いで部屋を飛び出した。



音がしたのは真向かいのセレスの部屋だった。僕が部屋を飛び出すと、既にハロルドがセレスの名前を呼びながら部屋の扉を叩いている。

鍵がかかっているようで開けることができないようだった。

そして騒ぎを聞きつけ、ドルイドと上の階にいたジル、ジャック、エレノアの三人が駆けつけてきた。

「何事ですか!?」

ドルイドの言葉に、ハロルドは首を横に振った。

「わかりません。さっきから呼びかけているんですが、反応がなくて。ドルイドさん、この部屋の鍵はありますか?」

「ええ。マスターキーならございますが……」

「では、開けてもらえますか?」

「で、ですが……」

ハロルドの言葉に、ドルイドは困ったような顔をした。それを見てハロルドは手を差し出した。

「じゃあ、俺が開けます。鍵を貸してください」

「………………」

ドルイドは黙ってハロルドを見つめたが、すぐにマスターキーをハロルドに差し出した。

ハロルドは素早く鍵を開けると扉を開けた。ひんやりとした強い風が外から吹き込んでいるようだった。

部屋の中には、窓が割れたせいで風雨が吹き込んでおり、床に敷いてあったカーペットはぐっしょりと濡れている。

そして、窓の下には腕を押さえたセレスが苦悶の表情を浮かべて倒れていた。

彼女の押さえている腕には大きな傷跡があり、白いシャツを彼女の血がべっとりと濡らしている。

「大丈夫か!?」

すぐにハロルドが駆け寄り、彼女の状態を見て振り返った。

「エレノアさん、お願いします!」

「え、ええ!」

ハロルドの言葉に、エレノアは慌てて部屋の中に入る。そしてセレスの様子を見た後、エレノアは安堵のため息をついた。

「大丈夫。気を失っているみたいね」

その言葉に、他の人間も安堵したのか少しだけ場の空気が和らいだ。

「……ねぇ、何がどうなってるのよ!? 何でこんなことになってるわけ? 答えなさいよ、ねえ!!」

だが反対に、ドルイドに向かってそう怒鳴り散らすジルの顔は完全に強張っている。

「………………」

だが、誰にも今の状況を説明できるはずもなく、誰も答えることが出来ない。

「もう嫌よ! こんなところ、もうたくさんだわ! 私帰る!!」

「お待ちください。外にはまだ……」

玄関へ向かうジルの後を、ドルイドが慌てて追いかける。

「いいんじゃない。帰りたいやつは勝手に出て行けばいい。外の狼に食い殺されてもいいならさ」

ジャックの言葉に、ジルの足が止まった。外の狼を失念していたようだった。ジルはジャックを睨みつけると舌打ちして、近くにあった花瓶を力任せに振り払う。花瓶の割れる音に、僕はビクッと肩を震わせた。

そんなジルの様子に、ジャックはやれやれとため息をつき、ドルイドに至っては何も言わなかった。

「……ドルイドさん。とりあえず、彼女がゆっくり休める部屋を用意してもらえないかしら」

部屋から出てきたエレノアの言葉に、ドルイドは「かしこまりました」と頷くと、部屋で倒れているセレスを抱きかかえた。


ドルイドが通した部屋は、僕達が通された客室より広い一階にある部屋だった。四つもあるベッドの一つに、ドルイドが手際よくセレスを寝かせると、エレノアが使用人から渡された救急箱を使って腕の傷の手当てをしている。

僕たちは、それぞれソファに座ってその様子を眺めていた。

「ドルイドさん。今までに屋敷の中に狼が窓や扉を破って侵入してきた、なんてことはあるんですか?」

静まり返った客室で、口を開いたのはハロルドだった。

「いえ。今までこんなことは一度もありませんでした」

「………………」

ドルイドの答えに、ハロルドは黙って考え込んでいる。

「それって、つまりセレスを襲って怪我させたのは、狼とか獣じゃないってこと?」

「……狼じゃないってどういうことよ。やっぱり、人間の仕業だっていうの!?」

僕とジルの問いかけに、ハロルドは首を横に振った。

「わからない。狼に襲われたのかも、別の何かに襲われたのかも。彼女が目を覚まさないと、それはわからない。エレノアさん、彼女の傷跡から凶器を特定することはできませんか?」

「……私見で悪いけど、見たところ、尖った鋭い何かで傷つけられたみたいね。ナイフかもしれないし、狼の爪なのかもしれない」

エレノアはそう言って小さく首を横に振った。

「そうですか……」

「ナイフってことは、この館にいる誰か、もしくは外の人間が彼女を襲ったってこと?」

僕の言葉に、室内に嫌な緊張感が走った。

「でも、ちょっと待って。確か彼女の部屋の外って……」

「……中庭ですね」

エレノアの言葉を引き継いだのはハロルドだった。

僕の部屋と隣のハロルドの部屋からは館を囲う塀と森が見えていたことを思い出す。

「ドルイドさん。中庭は外からでも行き来できるんですか?」

「いいえ。必ず館の中を通らなければ、中庭に行くことは出来ません」

「……ということは、少なくとも、彼女を襲ったのは狼や外部の人間ではない、ということになりますね」

ハロルドの言葉にジルとエレノアが顔を青ざめる。それを見たハロルドが問いかけた。

「ジルさん。あなたはさっき、自分の部屋で何を見たのですか?」

「…………」

相変わらず、ジルは答えようとしなかったが、さっきみたいに怒ることもしなかった。ただ、虚空を見つめたまま微かに体を震わせている。

「さっき、やっぱり人間の仕業なのかと言いましたけど、何か心当たりがあるんじゃないですか?」

「……違う、違うの。あれは、私が見たのは人間じゃない……生きてるはずがない……違う、違う……」

ジルは頭を抱えながら「違う」という単語を繰り返している。

「ジルちゃん、落ち着いて……」

近くにいたエレノアが落ち着かせようと手を伸ばすが、ジルはエレノアの顔を見ると、反射的にその手を振り払った。

「私、私は、悪くない。私のせいじゃない……私の、私の…………」

その時、外から凄まじい稲光と共に轟音がとどろいた。僕は、一瞬体を震わせて目を瞑った。

そして、目を開けるとみんなの視線が窓の方を向いている。

外を見ると、黒鉛が上がっているのが見えた。どうやら近くの大木に雷が落ちたようだ。

「あ、あ、あ……あああああっ……」

だが、ジルだけは窓のほうを見て大きく目を見開いていた。まるで、窓の外に何かがいるかのように。ジルはじぃっと窓を見つめている。

「あ、あの……ジルさん……?」

僕が声をかけると、他のみんなもようやく、彼女の様子に気付く。

「いや、いや……いやあああああああっ!!」

ジルは頭を抱えて叫ぶと、そのまま部屋から飛び出していってしまった。

「ジルさん!」

「エレノアさん、セレスのことをお願いします」

ハロルドがエレノアに声をかけるが

「……………………」

エレノアは、上の空のように、無言で虚空を見詰めていた。

「……エレノアさん?」

再度、ハロルドが声をかけるとエレノアはハッとしてハロルドを見た。

「え、ええ。大丈夫よ。セレスちゃんはここで私が見てるから」

「お願いします」

「僕も行くよ」

僕とハロルドはジルを追って部屋を出た。



あいつを見るようになったのは、葬儀の一年後の命日の日からだった。

最初は、見間違いとか、他人の空似だろうと思って、全く気にしていなかった。だが、日が経つにつれて、あいつの影は増えていった。度あるごとに、どこかから視線を感じていて、あいつの幻影を見てしまう。

だが、私の前にはっきり立つようなことはなかった。今日までは。

この洋館に来てから、あいつは私の前にはっきりと、姿を見せるようになった。

執事から案内された部屋で、あいつは、刳り貫かれたままの、存在しない目で、じぃっと外から私を見つめていたのだ。

そして、あいつはさっきの部屋にも現れた。窓の外からじぃっと私を見つめて、あろうことかまどをすり抜けて、部屋の中に入ってきたのだ。

あいつは私を恨んでいる。あいつはきっと、私を殺しにとうとうやってきたのだ。

「なにがあったんですか!? ジルさん!」

客室の扉を叩くハロルドの声が聞こえた。どうやら追ってきたらしい。

「一体なにがあったんですか?」

やっぱり、彼らにはあいつの姿は見えていないようだった。きっと、いや、あいつは絶対に私を殺すつもりに違いない。殺すつもりに違いない。

「……そんなつもりはなかった……あれは私のせいじゃない……」

「落ち着いてください。あなたはなにをそんなに怯えているんですか?」

「う、ううっ……うううううううっ、うわあああああああ!」

私は部屋の外から聞こえてくるハロルドの言葉をかき消すように、泣き喚いた。



それは、一瞬のことだった。雷が落ちて、世界が一瞬だけ白黒に彩られた瞬間、私は見た。窓の外に立つ、若い女の子の姿を。

ハロルドとラッドが出て行った後も、私は窓の外をぼんやりと見つめていた。だが、今は窓の外には誰もいない。

あれは一瞬のことだった。雷が落ちた一瞬、私と彼女は確かに目が合った。

暗く淀んだ、見ているだけで背筋が凍るような目で、彼女は私を見つめていた。

彼女も――ジルも私と同じものを見たのだろうか。

私はそう思いながら、気のせいだったのだと自分に言い聞かせるように頭を横に振った。

客室の中には、私とセレス、ジャックとドルイドと数人の使用人がいた。だが、誰一人言葉を発しようとはしなかった。

依然として、セレスが目を覚ます気配はなく、ジャックは窓から外をぼんやりと眺めており、ドルイドと使用人たちはただ、人形のように微動だにせず、隅のほうに立っているだけだった。

静寂が、客室を満たしていた。

そんな中、とつぜんジャックが扉の方に向かって歩き出した。そして扉を開ける。

「ちょっと君、どこに行くの?」

「……トイレだよ。そんなことも、いちいち言わないといけないの?」

「一人で出歩くのは危ないわ。誰か一緒に……」

「大丈夫だよ、おばさん。自分の身くらい、自分で守れるから。そのおねえさんみたいにドジなんか踏んだりしないから、安心してよ」

そう言うと、ジャックは部屋から出て行った。

だが、そうは言っても子供が一人で出歩くのは少し危険だ。

私はドルイドにジャックの後を追ってもらうようにお願いした。ドルイドは待機させていた使用人に命じると、ジャックの後を追って、二人の使用人たちが部屋から出て行った。

部屋に残ったのはドルイドと若い女性の使用人だけだ。

「ねえ、ドルイドさん。クリスさん、といったかしら。あなたのご主人様は大丈夫なのかしら?」

こんな状況で主人の心配をしないドルイドを少しおかしく思い、尋ねてみた。

「はい。主人にはいつも、すぐ側に使用人が待機しておりますので、心配には及びません」

「そう……」

私は、眠り続けているセレスを見た。辛そうな顔で汗を流している。もしかしたら、熱を出したのかもしれない。持っていたハンカチでそっと彼女の汗を拭った。

「ねえ、執事さんはどう思う? 彼女を襲ったのは、狼なのかしら。それとも――」

私がドルイドへ顔を向けると、ドルイドは静かに首を横に振った。

「先ほども申し上げましたとおり、今まで狼が屋敷の中に侵入してきたことはありません。セレス様を襲ったのが外部の人間なのか、この屋敷の中の誰かなのかも、私どもにもわかりかねます」

「この屋敷には、今日初めて会った人しかいないけれど、私には、こんな惨いことを彼等の中の誰かがするとは思えないわ。でも、さっきのハロルド君たちの話と、彼女の傷跡と、彼女の部屋の様子から、これが狼や外部の人間がやったこととは到底思えない」

「……………………」

「あなたたち、彼女が襲われたときは、どこにいたのかしら?」

「……私を含めて、使用人たちは皆、使用人室におりました」

ドルイドは、私の言葉の意味を汲み取ってくれたようで、邪推もせずにすぐに答えてくれた。

「そう。ごめんなさいね。なんだか、私もここに、一人でいるのがちょっと怖いのよ。許してちょうだい」

「いえ……」

再び窓を見ると、外は未だに雨が降り続いており、時折雷が鳴っている。また、あの女の子が見えるかもしれないといった恐怖があったが、何故か私の目は窓に吸い寄せられていた。

長い夜になりそうだと、そう思わずにはいられなかった。

突然、扉からノックの音がした。

「失礼します」

ドルイドがことわって扉を開けると、使用人の一人が立っていた。何かをドルイドに耳打ちする。

「エレノア様、申し訳ございません。所用ができましたので、私は一度失礼させていただきます。彼女、フランカを残していきますので、何かございましたらこの者に申しつけください」

「わかったわ」

ドルイドは失礼すると、呼びに来た使用人と共に部屋から出て行ってしまった。

残された使用人の若い女性は、不安そうな顔でドルイドが出て行った扉を見つめている。

「ねえ、あなた」

そんな彼女に声をかける。

「は、はい。何でしょうか?」

使用人――フランカは慌てて私のほうへ向き直った。

「お話し相手になってもらえないかしら。静かなのは、少し苦手なの」

「は、はい。私でよければ……」

「じゃあ、ここに座ってちょうだい。何か飲み物があればよかったんだけど、贅沢は言ってられないわね」

「何かお持ちしましょうか?」

部屋から出ようとする彼女を、私は呼び止める。

「いいわ。一人にもなりたくないし」

「で、では失礼します」

そう言って、フランカは私と向かい合う形でソファに座った。

「あなた、ずっとこの館に勤めているの?」

「い、いえ。最近雇ってもらったばかりなんです。だから、失敗ばっかりで……」

「そう。ここには、住み込みで? 家族は?」

「幼い兄弟たちが町に住んでいます。両親は私が幼い頃に亡くなってしまったので、それからは私が親代わりになって……」

「そう。あなたは、偉いのね」

「そんなことないですよ。仕方なかったんです……それしか、私たちが生きていくためには、こうするしかないんですから」

「……………」

「あっ、すみません。お客様にこんな話をして……」

「いいのよ。本当に、あなたは偉いわ。私なんかより、ずっと、ずっと……」

「そんなことないです。エレノア様はお医者さまと伺いました。人の命を救う立派な仕事です。私なんかよりずっとずっと立派な方だと思います」

そう言う彼女の目はまっすぐ私を見つめていた。嘘偽りないまっすぐな目で。その目があまりにもまぶしくて、つい私は目をそらす。

「私は――」



ガッ、ガッ、ガッ、ガッ……。

規則正しく響くその音は、時折ぐちゃっという生々しい音を伴っていた。暗闇の中、ひたすらにナイフを振り下ろす影は口元に笑みを浮かべたまま楽しそうに何度も何度もそれに向かってナイフを振り下ろす。

「はは、ははははははは……」

その場に倒れているそれはピクリとも動かず、目を見開いたまま事切れている。だが、床に転がっているそれは一体ではなかった。そのいずれもが、さっきジャックを追って部屋を出て行った使用人たちだった。だが、ジャックの姿はその倒れたものの中には含まれていなかった。

影はそれが痙攣すらしなくなったことにようやく気付くと、つまらなさそうにナイフを懐になおす。そして影は何事もなかったかのように鼻歌混じりに手を洗うと、その場を後にした。



ジルは自室に篭ってしまい、いくらハロルドが呼びかけようとも、扉を開けて出てくることはなかった。話しかけるが、錯乱しているのか泣き喚いているだけで話にならない。

途方に暮れていると、突然階下から悲鳴が響いた。

僕とハロルドは顔を見合わせると、急いで階段を降りて一階へと戻った。そして悲鳴の聞こえた方へ行くと、腰を抜かして座り込んでいるフランカの姿を見つけた。

「どうしたんですか!?」

フランカは僕たちの姿に気付くが、何も言わずに、ただ、目の前の部屋の中を指差している。

僕はゆっくりと部屋の中を覗いた。中は薄暗かったが、なんとなく、厨房だということが伺えた。そして……。

「う、うわあああああ!!」

それを見て、反射的に悲鳴を上げて後退する。ハロルドもそれに気付いたのか、顔をしかめて口元を手で覆った。

そして、厨房の異変にも気付く。壁や床には赤いものがべったりと、飛び散っていた。そして、ぴちゃん、ぴちゃんという水音が不気味なくらいよく響いていた。

厨房には使用人の服を着た人間が二人、滅多刺しにされた状態で床に転がっている。目は見開いたままの状態で、苦悶の表情が、いかに彼らの最後が壮絶だったかを物語っていた。

僕とハロルドとフランカはしばらく、絶句してそれを見つめていたが、やがて我に返ったハロルドが口を開いた。

「一体、なにがあったんですか?」

ハロルドは腰を抜かしているフランカに尋ねるが、あまりのショックのせいか、フランカは口をぱくぱくさせているだけで、話せる状態ではないようだった。

そんな彼等をよそに、一際大きく鳴る心音に、自分の胸に手を当てた。今までにないほどの胸騒ぎが、僕の胸を締め付ける。

「………………」

「大丈夫ですか?」

ハロルドが再度声をかけると、顔は青ざめていたが、フランカは軽く頭を振って答えた。

「は、はい。じ、実は……少し客間を離れていた間に、セレス様がいなくなってしまわれたんです。一緒に、エレノア様もいなくなってしまわれていたので、探しに来たんですが……」

「そうですか。そういえば、ジャックとドルイドさんの姿が見えないようですが、彼らはどこに?」

「ジャック様は、少し前にトイレに行くと仰られて客室から出て行かれました。ルイ様は、他の用事があるとその後に、客室から出て行きました」

「……………………」

ハロルドは何か考えながら、厨房に転がっている死体を指差した。

「そこの使用人なんですが。俺たちが出て行く前は、皆と一緒にいたはずですが、何故こんなところに?」

「エレノア様が、一人で出歩くのは危ないと仰られまして、ルイ様が彼らにジャック様についていくように命じたんです」

僕は再び厨房を見た。よく見てみるが、厨房に転がっている死体は使用人のもので、ジャックの姿はそこにはなかった。一緒にいなかったのだろうか。

「ラッド。とにかく、早くセレスとエレノアさんを探そう。後、ジルさんとも合流したほうがいい」

「わ、わかった」

ハロルドの言葉に、僕は頷いた。



コンコン、と扉を小さく叩く音が聞こえた。

「ジルちゃん、大丈夫?」

また、さっきの奴らがきたのかと思ったが、声はエレノアのものだった。

一通り泣き叫んだせいか、さっきよりは大分落ち着いていた。私は大きく深呼吸して扉を開ける。

「エレノアさん……」

「少しは落ち着いた?」

「…………」

「ねえ、もしかして、あなたも見えていたの? あの窓の向こうにいた女の子のこと」

彼女の言葉に私はハッとして顔を上げた。

「エレノアさんも見たの?」

「ええ。一瞬だけだったけど……」

驚いた。そして少し安堵した。あれが見えていたのが私だけではないということに、少しほっとした。

「私でよければ、何でも話してちょうだい。誰かに話せば、少しは楽になるかもしれないわ」

「………………」

私は躊躇したが、彼女に話すことにした。誰かに話して、楽になりたかったからだ。

「……私には、妹がいたの。数年前に、親が孤児院から引き取った血のつながらない妹よ。妹ができてからは、両親は妹ばかり可愛がって私には目もくれないようになった。私と違って妹は何でもできた。両親は何でも出きる妹の方を大切にしてた。だから、私は妹に嫉妬した。嫉妬して、ある嫌がらせをしたの。ある日、妹の化粧水にある薬品を混ぜた。少し火傷すればいいくらいに思ってた。でも、薬品は思ってたより強いもので、それは彼女の目を焼いてしまった。そしてパニックになった妹は開いていた窓から落ちて死んだの」

「……それが、さっきの女の子?」

「わからない……でも、あいつは私を恨んでる。一周忌が終わった頃からいつも誰かに見られているような感じがして、日が経つにつれてそれは強くなった。そしてこの館に来てからそいつは姿を現すようになった。さっきもこの部屋の窓から私をじぃっと見つめていて、さっきも下の客室で、あいつは中に入ってこようとしていた。きっと私を殺しにきたのよ。あいつは、あいつは……アリアは私を殺そうとしてるのよ!」

「……………」

その時だった。彼女のすぐ後ろに、それは立っていた。ぺたり、ぺたりと音を立てながら私の方に向かって歩いてくる。

「ひ、ひいいいいいいいいいっ!!!!」

「ジルちゃん?」

「あ、あいつが、アリアがそこに……!」

「え……?」

私が指差すほうをエレノアは見るが、きょろきょろと見渡すだけでそれに気付いていないようだった。私は慌てて部屋の奥へと駆け込みそれと距離を取る。

「落ち着いて。何もいないわ」

どうして、どうして見えていないんだ。こんなにもすぐ近くに、ほら、お前の近くにいるというのに。どうして、どうして!!

私は見えないと言うエレノアを睨みつける。そして、彼女をすり抜けてこっちへとゆっくりやってくるそいつも。

「い、いや、いやだ……来るな、来るなああああああああっ!!」

私はパニックになりながらも叫び続けていたが、そいつはゆっくりと距離を詰めていき、私の首元に手を伸ばす。かちかちと恐怖のあまりに歯が噛み合わず、涙が零れる。その手に触られたくなくて身を引いた。

「え……?」

真後ろにあった窓は、少し開いていたのかあっさりと私の体重に耐え切れず開いた。そして嫌な浮遊感が私を襲った。



再び悲鳴が聞こえたのは、僕達が二階への階段をのぼっている時だった。

反射的に僕達は走って階段を駆け上がる。そして悲鳴が聞こえた客室の方へ向かって走った。

さっきまで閉じられたジルの部屋の扉が開いていた。だが、中にはエレのアの姿しかない。そして開けっ放しにされた窓からは雨が吹き込んでいる。

「どうしたんですか!?」

ハロルドが呆然と窓を見つめているエレノアに声をかけると、エレノアは首を横に振って窓を指差した。

「わ、わからないわ。突然彼女が……」

部屋の中に入って窓から外を見る。下の方を見ると、そこには頭部から血を流し続けているジルの無残な姿があった。大きく見開かれた目はまったく動かずただただ虚空を見つめている。誰がどう見ても、彼女は死んでいた。

「ジルさん……」

「一体、何がどうなってるんだ? 何でこんなことに……」

「…………」

僕の呟きに、誰も答えをくれるものはいなかった。

「と、とにかく一度下に戻りましょう。セレスのことも心配です」

ハロルドの提案に皆は頷き、それぞれ部屋から出ようとするが、エレノアはその場に立ち尽くしていて動こうとはしなかった。

彼女はじぃっと、開けっ放しの窓を見つめている。

「エレノアさん?」

「……ごめんなさい。少しだけ、一人にしてもらえないかしら?」

「で、でも……」

「落ち着いたらすぐに行くから。お願い……」

僕とハロルドは目を見合わせて頷くと、「気をつけてくださいね」と言って部屋から出て扉を閉めた。

「……とにかく、一階の客間に戻ろう。誰か戻ってきているかもしれない」

僕達三人は一階へ行くために階段までやってきたところでフランカが口を開いた。

「あ、あの……私、エレノア様と一緒にいようと思うのですが……駄目でしょうか?」

彼女なりにエレノアのことを心配しているらしい。

「わかりました。フランカさん、エレノアさんのことをお願いします。くれぐれも、一人にならないようにしてください」

「は、はい。失礼します」

頭を下げると、フランカはエレノアがいる部屋へ小走りに去っていった。



さっき懐にしまった写真を取り出す。その写真を胸に当てて、心の中で我が子の名前を呼んだ。

「…………」

どれくらいそうしていただろうか。そして私は空気が変わったことに気付いた。

私がゆっくりと振り返ると、扉の前には先ほど一階客間で見た少女が立っていた。

「…………!」

彼女の名前を呼ぼうとしたが、私は声に出すことができなかった。彼女の目を見て、私には何も言う資格などないことを思い知らされたからだ。

怒り、恨み、悲しみといった感情が渦巻いた殺意を込めた目で、彼女は私を睨みつけていた。そして彼女は何かをぶつぶつと呟いている。だが、彼女の口からは人の声というよりもザー、ザーといった雑音に近い音が聞こえてきた。

そしてぺたり、ぺたりと足音を立ててゆっくりと私のほうへ向かって歩いてくる。両手を前に突き出して。ゆっくり、ゆっくりと。

私は後ろに下がることはしなかった。いや、できなかった。

彼女は突き出した両手で私の首に手をかけた。そしてぎり、ぎりと締め付ける。

「あ……が……っ」

ぎり、ぎり、と彼女の手の力が強くなるにつれて、彼女の口から発せられている雑音も次第に大きくなっていく。

私は必死に言葉を発しようとしたが、彼女の雑音にかき消されてそれは彼女に届かない。

「が……ご……さ、い……ご…………い……っ」

結局、彼女に何も言えないまま、彼女の顔を目に焼き付けながら、私の意識は暗転した。



結局、僕とハロルドは一階客間に戻ったが、誰もいなかった。出て行ったというドルイドも、ジャックもどうやら戻ってきてはいないようだ。

「これからどうしよう……」

不安げに呟く僕に、ハロルドは大丈夫だと僕の肩に手を当てた。

「安心しろ、ラッド。君は俺が守るから。だから頑張ってみんなと合流しよう。こんなときだからこそ、明るく、な」

「わ、わかった……。ありがとう、ハロルド」

「よし。それじゃあ、とにかくセレスとジャックを探しながら、エレノアさんたちと合流しよう。でも、油断はするなよ。どこに誰が潜んでいるかわからないからな」

「わ、わかった……」

それから僕とハロルドは、なるべく距離を取らないように注意しながら館の中を歩き回った。最初は、いつどこから凶器を持った誰かが飛び出してくるかとひやひやしていたが、一階を全て見回った頃には大分その緊張もほぐれてきていた。雨音も、狼の鳴き声もさっきに比べたら心なしかおさまっているように思える。

「……おかしいな」

玄関ホールの階段の前にさしかかったところで、ハロルドが呟いた。

「おかしいって何が?」

「ラッドはおかしいと思わないか? 一階では数分前にフランカさんの悲鳴。二階ではエレノアさんの悲鳴が上がったって言うのに他の使用人や執事と鉢合わせしないなんて……」

「言われて見れば……」

「使用人室は一階にあった。だが、誰もいなかった。となると、二階にも使用人室があってそこに人がいるのか、もしくはこの館の主人の部屋にいるのか……」

「でも、それらしい部屋はどこにも……」

「そう。俺たちが最初に見て回ったときにはどこにも主人の部屋らしき部屋はなかった。一階にも、二階にも。そして階段は玄関ホールにある二つだけ。ここに入る時に見た外観からもこの館はどう見ても二階建て。もしかしたら、ちょっとした屋根裏はあるのかもしれない。だが、こんな大きな館の主が屋根裏なんかに自室を構えているとは到底考えづらい。まぁ、例外な物好きもいるんだろうけど……」

「ということは……もしかして……」

「そう。考えられるのは地下だ。どこかに地下に通じる隠し階段なんかがあるのかもしれない」

「地下……」

僕は足元を見る。

「…………?」

そこで、僕は気付いた。赤黒い液体のようなものが流れて床に水溜りを作っていることに。玄関ホールは明かりがともっていないため、凝視するまで全く気がつかなかったのだ。

そしてそれが、どこから流れてきているのか目で追う。それは階段をつたって上の階から流れてきているようだった。

「ラッド、どうかしたのか?」

「いや、あれ……」

僕が指をさすと、ハロルドもそれに気付いた。そしてそれのもとをが何なのかをつきとめるためにゆっくりと階段を上がる。

階段を一歩、もう一歩と上がるうちにやがて徐々に視界にそれが入ってくる。そしてそれが何なのか理解した瞬間

「うわあああああああああっ!!!!!」

僕は反射的に悲鳴を上げてのけぞる。だが、ここは階段の途中ということを忘れていた僕はもろに階段から足を踏み外した。そして大きく後ろに倒れ込むが

「ラッド!!」

ハロルドが咄嗟に僕の腕を掴んでくれたので、階段を転げ落ちることはなかった。

「ご、ごめん。ありがとう……」

僕は体勢を立て直し、改めてそれを見た。

さっき一階の厨房で見た遺体とそれは同じだった。彼女は刃物でメッタ刺しにされていて、目は大きく開かれており涙の痕が見える。

「フランカさん……」

つい先ほど、二階で別れたフランカの遺体だった。

「何で、何で……」

呆然と、フランカの遺体を見つめる僕の横で、ハロルドは何かを見つけたのか腰を落とした。

「これは……」

ハロルドが拾ったのは小さな本だった。その本には見覚えがあった。さっき、ここでジャックが読んでいた本だった。

「どうしてこれがこんなところに……」

「それより、エレノアさんは……」

「行こう!」

僕たちはさっきまでエレノアがいたジルの部屋へと向かった。部屋の扉は開けっ放しになっている。そしてよく見ると、フランカの遺体からジルの部屋の扉の前まで血のあとが続いている。見るからに、フランカはジルの部屋の前で襲われて、階段のところまでひきずって運ばれたことが伺えた。

「エレノアさん!」

中に入ると、部屋の中央にエレノアは倒れていた。

「……………っ!」

エレノアは目を開いたまま、事切れている。よく見てみると、首に手の痕が残っていた。首を絞められて殺されたのだろう。

……ドクン……ドクン……。

僕は胸を押さえつける。周りの人々が次々と殺されていく恐怖とは別に、何か別の恐怖が僕の中にはあった。それが何なのかは、僕でもわからない。けど、とても怖かった。

ドクン、ドクン……ドクン、ドクン……。

恐怖を感じるたびに、それはどんどん大きくなっている。この胸の高鳴りが、大きくなってはいけないと僕は直感していた。更に力を強めて胸をおさえつける。

「セレスは、無事だろうか……なぁ、ラッド――」

ハロルドが僕のほうを見るやいなや、大きく目を見開いた。

「ラッド! 危ない!!」

「え……?」

突然、ハロルドが僕の後ろに立った。

「ぐあっ……!!」

そして、そのハロルドが崩れ落ちる。彼の肩には深々とナイフが刺さっていた。

「ハ、ハロルド……?」

ハロルドは肩を押さえてうずくまっている。そして僕は、ハロルドを刺した人物を見た。

……ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……ドクン、ドクン……。

その人物をかなりの返り血を浴びたのか、全身真っ赤になっていた。だが、僕はそれが誰なのかはっきりわかった。

「……どうして。何で君が……」

そいつは転がってうずくまっているハロルドの肩から乱暴にナイフを引き抜いた。

「うぐっ!!」

その痛みに耐え切れず、ハロルドは声を上げて床に転がる。そいつはとても楽しそうに楽しそうにハロルドを見ると、体をくの字に曲げている彼の腹を思い切り蹴った。その衝撃で、彼の体は仰向けになる。そして――。

「やめろ!!」

僕が声を上げると同時に、そいつは持っていたナイフをハロルドの胸に思いっきり突き立てた。

「ぐうっ……!!」

そしてハロルドは、目を大きく見開くとそのまま動かなくなった。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

「な、何でだよ……なんで、何でハロルドを殺した!? ジャック!!」

そいつの名を呼ぶと、ようやくそいつ――ジャックは僕の方を見た。狂気を湛えた瞳で、にやりと笑う。

「だって、我慢できなかったんだもん……次は、おにいさんが遊んでよ」

ドクン、ドクン、ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク。

ジャックはハロルドの胸からナイフを抜き取ると、懐からもう一本のナイフを取り出し、僕に向けた。ゆっくりと僕との間合いを詰めてくる。

ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク――ぶつん。

ジャックが目の前でナイフを振り上げると同時に、突然、僕の中で何かが切れた音がした。そして視界は一瞬にして真っ白になった。


「…………?」

口の中が気持ち悪かった。まるで鉄を舐めたときのような、得体の知れない不味さが口の中に広がっていた。

そして、自分の手にいつのまにかあったナイフと付着した赤黒いものに気付き、ギョッとする。

「うわっ!」

慌ててナイフから手を離すと、ナイフは音を立てて転がっていきあるものにぶつかって動きを止めた。

「……なんだ?」

薄暗くてよく見えない。

僕はそれに近づいてまじまじとそれを見る。

「え……?」

理解するのに数秒の時間を要した。

「うわあああああああっ!! ひいいいいいいいいいっ!! がっ……うげっ、げえええええええっ!!」

堪らず、その場で嘔吐する。

「はぁ、あ……はぁ、はぁ、はぁ」

出すものがなくなると、今度は呼吸が荒くなる。そしてまた吐く。胃の中のものを全部吐き出そうとする人体の正常な反応だ。

……そうだ。僕は正常だ。決して異端なんかじゃない。

だけど、だけど……。

僕は自分の両手を見る。腕まで真っ赤に染まった自分の手を。

そして、もう一度それを見る。

目と耳と鼻をもがれたジャックの頭部を。後頭部に至っては滅多刺しにされ、髪の合間からはところどころ中身が見え隠れしている。

そして、僕は部屋の中にあった鏡を見た。

鏡に映る自分の顔は、まるでさっきのジャックのように真っ赤に真っ赤に染まっていた。

「は、はは……うそ、僕が……僕がやったの? はは、はははは……っ!」

ガシャン、と無機質な音を立てて鏡が割れた。

「嘘だ……うそだあああああああっ!!」

鏡にめり込んだ自分の拳から更に赤い血が流れて、新たな赤でゆっくりと手を塗りつぶしていく。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ……!!」

何度も、何度も鏡に拳を叩きつける。こんなおぞましいことをしたのは自分などではないと否定したかった。

「うそだあああああっ!! うわああああああっ!!」

「本当だよ」

その声は、突然真後ろから聞こえた。

「それが君の本性さ……」

振り返ると同時に、パンという乾いた音がすぐ目の前でした。

僕は、何が起こったのかわからない、まま……永遠、に、目覚めない……闇に、呑まれゆく中、で……僕を、拳銃で撃った、人間……を、見た。

そ……な、な……き……がっ………………う、そ…………だ………………………………………………………………………………………………………………。

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今回の作品は私にとって新しい挑戦でもあったので、わかりづらい部分が多々あるかと思います。頭が悪いので自分自身、どこが悪いのかがわかっていないです。何かお気づきの点があれば、指摘いただければ幸いです。ジャンルとしてはミステリーの皮をかぶったホラー的なノリで書きました。きっかけは、ある動画を見てこういうの面白そうだなと思って好き放題書いてます。一応二部構成でして、今回が前編、次回が後編といったところでしょうか。ラストははっきりと決まっていますが書き終えるまでどれだけ時間がかかるか……こちらの作品もお付き合いいただければ幸いです。感想、批評等もよろしければお願いします。前編なのにかなり長文になってしまいましたが、ここまで見てくださった方に本当に感謝です。

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