第17話 南風の鎮魂歌 ——沖縄、鉄の暴風とひめゆりの乙女——
南風の鎮魂歌 ——沖縄、鉄の暴風とひめゆりの乙女——
1. 昭和二十年四月、沖縄・鉄の暴風
昭和二十年四月、日ノ本最後の砦、沖縄。海を埋め尽くす異国の艦隊から放たれた砲弾は、島そのものの形を変える「鉄の暴風」となって降り注いでいた。
「……こんなの、あんまりですわ。花も木も、みんな燃えてしまいますわね」
天狐が、激しい砲煙に咽びながら呟く。彼女と阿古町は、万世から特攻隊の魂を追いかけ、この地獄の最前線へと辿り着いていた。
2. 南風原陸軍病院、乙女たちの歌
地下の暗い壕の中、泥と血にまみれた負傷兵の間を、ひめゆり学徒隊の少女たちが懸命に駆け回っていた。
「大丈夫ですよ、すぐ良くなりますから」
少女たちに混じり、のっぺが包帯を巻き、おさん狸が幻術で痛みを和らげ、けうけげんが兵士の熱を吸い取っていた。
「ねえ、のっぺさん。戦争が終わったら、何がしたい?」
一人の女学生が、包帯を洗いながらのっぺに問いかけた。
「私はね、もっと勉強して、本当の看護婦さんになりたいの。のっぺさんも、その時は顔を描いて、一緒に学校へ行きましょう?」
のっぺは顔のない頭を小さく揺らし、少女の手を握った。おさん狸も、狸の姿を隠して少女たちと歌を口ずさむ。
「♪春の野辺に 咲く白百合の 清き姿を 胸に抱きて……」
壕の中に響く乙女たちの清らかな歌声。だが、その外では、鋼鉄の怪物が一歩ずつ彼女たちの夢を押し潰そうとしていた。
3. シュガーローフの死闘:隠神刑部 vs 黒魔術の王
首里防衛線の要衝、シュガーローフ(安里五十丘)。一日に数回も持ち主が変わるという激戦の丘で、隠神刑部と喜左衛門は、米軍の精鋭に混じる「真の魔」と対峙していた。
「……出やがったな。ワン公どもの親玉か」
隠神刑部が二挺拳銃を構える。眼前に現れたのは、英国黒魔術の極致――人狼の王、フェンリル・ハウンド。その巨躯は三メートルを超え、纏う魔気だけで周囲の空間を歪ませていた。
「It's futile, spirits of the East. Your tricks end here. (無駄だ、東洋の霊共。貴様らの小細工もここまでだ)」
フェンリルが咆哮と共に、目にも留まらぬ速さで喜左衛門の喉元へ爪を立てる。
「……甘ぇんだよ! 俺たちが何百年、化かし合いを生き抜いてきたと思ってやがる!」
喜左衛門が瞬時に数千の「幻影の狸兵」を出現させ、フェンリルの視覚を狂わせる。その一瞬の隙を突き、隠神刑部が跳躍した。
「冥土の土産に、四国の狸の弾丸を食らいな!」
隠神刑部が全妖力を拳銃に込め、至近距離からフェンリルの眉間に弾丸を叩き込む。法力による爆発が頭部を粉砕し、最強の人狼は絶叫と共に塵へと還った。
だが、勝利の余韻に浸る暇はない。空からは無慈悲な艦砲射撃が、丘を、そして命を、跡形もなく削り取っていく。
4. 悲しき決別
「……皆、異国の兵が来ておる! 壕を出て、南部へ向かうぞ!」
滝夜叉姫が、がしゃどくろを盾にして、少女たちを壕から連れ出した。だが、南部への道は死の行進であった。
「のっぺさん、ありがとう……。私、忘れないよ……」
爆風の中、のっぺの手を離した少女が、炎の中に消えていく。
「阿古町様! 風を、もっと強い神風を吹かせてくださいまし!」
清姫が泣きながら叫ぶが、阿古町は力なく首を振った。
「……ごめんねぇ。今の私には……この子たちの魂を、静かに送ってあげることしかできないんだよぉ……」
沖縄の青い海が、鉄の錆と乙女たちの血で赤く染まっていく。
「ラグナロク」は、いよいよ救いのない終局へと向かっていた。




