第15話 北海の凍土、戦乙女の終焉 ——アッツ島の残光——
北海の凍土、戦乙女の終焉 ——アッツ島の残光——
1. 昭和十八年五月、極北の絶望
ガダルカナル島で一木支隊が全滅したという悲報は、内地の妖怪たちにも暗い影を落としていた。だが、戦火は止まらない。昭和十八年五月、北の最果て、アリューシャン列島のアッツ島。そこでは山崎大佐率いる北海守備隊が、米軍の圧倒的な物量と、北海の荒れ狂う吹雪に晒されていた。
「Be careful... The white devils are not just the snow. (気をつけろ……白い悪魔は雪だけじゃない)」
米軍兵士たちが震える先には、冬装備に身を包んだ双子の魔女がいた。
「フフッ、この凍てつく島は、私たちの魔術にぴったりだわ」
ローレライが奏でる氷の魔歌は、日本兵の指先を凍らせ、銃を握ることすら叶わぬ「凍死の呪い」を振りまく。
「姉様、この動けなくなったネズミたちを、私の斧で氷像にして差し上げますわ!」
ヴァルキュリアの戦斧が、飢えと寒さで限界に達した守備隊を追い詰めていた。
2. 異界軍勢、北海を駆ける
その時、猛吹雪の海を割り、一隻の船舶工兵艇が荒波を蹴立てて現れた。
「……待たせたな! 妾たちが来たからには、この雪を熱気で溶かしてやるぞ!」
滝夜叉姫が、がしゃどくろの肩に立ち、吹雪を切り裂いて叫ぶ。
「小野曹長、これ以上は船が持たん! ここで降ろせ!」
織田信長が命じると、小野曹長は氷結する舵を必死に操り、接岸ギリギリまで船を寄せた。
船から飛び出したのは、日ノ本の精鋭妖怪たち。
「がはは! 雪など、俺の槍さばきで吹き飛ばしてくれるわ!」
仙石秀久が先陣を切り、清姫が「殿(秀久)を凍えさせる冷気など、妾が焼き尽くしますわ!」と、吹雪の中で巨大な火柱を上げた。
「マジ寒いんだけど! でも、暴れれば温かくなるよね?」
茨木童子が金棒を叩きつけ、氷の地面を粉砕する。隠神刑部と紅葉もまた、魔王の姉弟として、冷徹な殺気を放ちながら敵陣へと突き進んだ。
3. ヴァルキュリアの咆哮
「……姉様、今度こそ直接叩き潰してきますわ!」
逆上したヴァルキュリアが、滝夜叉姫に向かって飛びかかる。だが、そこへ割って入ったのは茨木童子であった。
「ヴァルちゃん、今日は逃がさないよ。ウチの金棒と、あんたの命、どっちが先に砕けるかな!」
ドォォォォォォォォォン!!
金棒と戦斧が激突し、火花が雪を蒸発させる。茨木の怪力がヴァルキュリアの神斧を押し込み、そこへ滝夜叉姫の大太刀が閃いた。
「……正義の一閃、受けよ!」
大太刀がヴァルキュリアの鎧を貫き、返す刀で秀久の槍が彼女の胸を衝く。日本妖怪の連続攻撃は戦乙女を圧倒した。
「……姉様……私……いや、こんなところで死にたく....な...ぃ....」
ヴァルキュリアは、初めて恐怖に染まった瞳でローレライを見上げ、氷の華が散るように、その場に崩れ落ちた。戦乙女としての誇りと共に、極北の地に散ったのである。
4. Lorelei's Madness and Rebellion
妹の死に、ローレライの精神はついに決壊した。彼女は命令を無視して戦場から離反、本国へ帰還した。
そこには冷酷な軍の高官たちが待ち構えていた。
"Failure again? Lorelei, you are a disgrace to the Empire. We should never have relied on a mere witch."
(「また失敗か? ローレライ、貴様は帝国の恥だ。所詮は魔女など、頼りにすべきではなかったな」)
上官が冷たく言い放つ。だが、ローレライは血走った目で彼を睨みつけ、低く笑った。
"Silence, you pathetic fools. You understand nothing of the true terror that dwells in that island. Tactics? Science? They are useless against those monsters."
(「黙りなさい、この哀れな愚か者ども。あの島に巣食う真の恐怖を、貴様らは何も分かっていない。戦略? 科学? そんなものは、あの化け物共の前では無力なのよ」)
"What are you saying?! Know your place, witch!"
(「何を言っている?! 己の立場をわきまえろ、魔女め!」)
"I no longer need your permission. To erase those Japanese spirits, I will call upon the shadow of the end—Kūbō. I will draw the curtain on this world myself."
(「もう貴様らの許可などいらない。あの日本の妖魔どもを消し去るため、私は『終わりの影』……空亡を呼び覚ますわ。私が、この世界の幕を引いてあげる」)
ローレライは狂気の笑みを浮かべ、軍の司令部を霧の中に消し去り、禁忌の儀式へと向かった。
5. 内地の交流、忍び寄る終焉
その頃、内地では悲しくも温かな時間が流れていた。
疎開先の古い山寺。のっぺが子供たちの泥遊びに混ざり、ぬりかべは縁側で子供たちの背もたれになり、けうけげんは子供たちの頭を撫でて病を遠ざけていた。
「お化けさん、僕たち、お父さんにまた会えるかな?」
子供の問いに、ぬりかべは静かに、石の体で温もりを伝えた。
「……ありんすねぇ。この子たちの未来に、どんな空が待っているでありんしょう」
遠く離れたアッツ島から戻った紅葉が、その光景を影から見つめていた。アッツ島での奮闘は、歴史の「玉砕」を書き換えたが、魔女の狂気が呼び寄せようとしている「空亡」の影が、着実に日ノ本を飲み込もうとしていた。




