第11話 束の間の凱旋と忍び寄る海影 一木支隊と鉄の鮫——
束の間の凱旋と忍び寄る海影 ——一木支隊と鉄の鮫——
1. 異界と現世を繋ぐ戦勝電文
帝都の朝日は、焦げ付いたビルの隙間から弱々しく差し込んでいた。だが、参謀本部の地下室には、南方の熱気を帯びた歓喜の報告が届いていた。
「……ありんすねぇ。あの猪武者(秀久)め、パレンバンの油田を傷一つなく手に入れたとは、上出来でありんしょう」
紅葉が、届けられた電文を眺めて不敵に微笑む。
「パレンバン確保。挺進兵と共に敵をなぎ倒したとの由。……信長様、あちらでも相変わらず魔王の如き戦いぶりですわ!」
清姫は、夫・秀久の無事を知り、元気いっぱいに扇を叩いて喜んでいた。
滝夜叉姫もまた、泥にまみれた顔で笑う。
「妾たちも アイアンゴーレムを東京湾へ叩き落とし、これぞ正義の勝利じゃな!」
2. 帝都の復興と「がしゃどくろ」の力
「さあ、みんな! 壊されたら、また作ればよいのじゃ!」
滝夜叉姫の号令一下、異界の妖怪たちが帝都の復興に駆り出された。
ぬりかべが巨大な石壁となって崩れたビルの下敷きを支え、のっぺやおさん狸が炊き出しで人々の心を癒やす。そしてがしゃどくろは、その圧倒的な膂力で、ひっくり返った路面電車や瓦礫を軽々と片付けていく。
「……あ、阿古町様。あそこのお年寄りが困っていますわ」
天狐が透き通るような声で導けば、阿古町が温かな狐火を灯して夜道を照らす。
「はいはい、今行きますよぉ。……人間さんも妖怪さんも、手を取り合えば復興なんてあっという間ですねぇ」
帝都の民は、最初こそ恐れていた妖怪たちに対し、次第に感謝の眼差しを向けるようになっていた。
3. 南方の死闘:一木支隊と「小野曹長」
その頃、南方の最前線。ガダルカナル島を望む密林の中、信長と秀久、隠神、喜左衛門は一木支隊の先遣隊と合流していた。
「……貴様が、船舶工兵の小野曹長か」
信長が、鋭い眼光を向ける。
「はっ! 第十七軍、一木支隊の援護を命じられました、小野であります!」
日焼けした精悍な顔立ちの軍曹が、最敬礼で応える。
「……フン、面白い男だ。秀久、狸ども、これよりはこの男と共にガダルカナル島に上陸し一木支隊を援護し、異国の者どもを島から叩き出すぞ」
「了解だぜ、魔王さん。……喜左、お前さんの鼻で敵の伏兵を嗅ぎ分けろよ」
喜左衛門が小銃を構え、隠神刑部が不敵に笑う。
「任せときな。ジャングルの闇なら、俺たち狸の独壇場だ」
なお、この時、魔王や妖怪たちと肩を並べて戦った若き小野軍曹は、数十年後、数奇な運命を経てハンドラー1と呼ばれる人物と出会い、当時の世にも奇妙で壮絶な戦いの様子を克明に伝えることとなるのだが、それはまだ遠い未来の話である。
4. 魔女の執念:鉄の鮫と潜水艦作戦
一方、二度の敗北を喫した欧米列強の拠点では、ローレライとヴァルキュリアが暗い情念を燃やしていた。
「……正面切っての激突は、あの日本の妖怪どもの『絆』を強めるだけですわね、姉様」
ヴァルキュリアが、砕かれた戦斧の代わりに鋭い短剣を研ぐ。
「……ええ。ならば、作戦を変えるわ。空や地からではなく、『底』から攻めるのよ」
ローレライが、海図の上に潜水艦の模型を置く。
「米英が誇る潜水艦隊に、私の魔術を上書きする。音もなく近づき、補給路を断ち、一気に日ノ本の霊脈を干上がらせる……。『鉄の鮫』たちに、妖怪の魂を喰らわせるのよ」
魔女たちは、次なる戦場を「深海」へと定めた。
現世の科学たる魚雷と、魔女の呪いが融合した影が、静かに波の下を這い始めていた。




