第9話 南方の空、小豆と魔王 ——パレンバン降下作戦——
南方の空、小豆と魔王 ——パレンバン降下作戦——
1. 輸送機内の珍事、小豆の正体
昭和十七年二月。南方の要衝、ブーゲンビル島上空を飛ぶ一機の軍用輸送機。その機内は、エンジンの轟音と、これから戦地に飛び込む陸軍兵士たちの緊張感に包まれていた。
「……フン、この鉄の鳥は、安土の天主閣より騒がしいな」
座席に深く腰掛け、腕を組むのは織田信長。その隣では、家宝の甲冑をこれ見よがしに磨く仙石秀久が鼻息を荒くしていた。
「信長様、間もなくパレンバンでござる! 異国の油を奪い、天下布武の礎にいたしましょうぞ!」
その時、二人の足元に置かれた兵糧袋が、モゾモゾと不気味に動き出した。
「ぬっ? ネズミか?」
秀久が袋を蹴飛ばそうとした瞬間、袋の中から「あいたたっ!」という声と共に、影が2つ、ポンッと飛び出した。
「ふぅ……ようやく出られたぜ。小豆の姿は腰にくるな」
「親分、おならしちゃダメですよぉ。袋の中がガス室かと思いましたよ」
現れたのは、軍帽を被った隠神刑部、とぼけた顔の喜左衛門。
「なっ、貴様ら!? 帝都を守っておるはずではなかったか!」
驚愕で立ち上がる秀久に対し、信長は呆れたように片目を開けた。
「……狸ども。余の目を盗んで潜り込むとは、いい度胸だ。喜左衛門、貴様、余の弁当を食うておったのはそなただな?」
「へへ、魔王様、お許しを! 外地の戦には、狸の化け術が不可欠でございんす!」
隠神刑部がニヤリと笑い、拳銃の弾丸を確認する。信長は「フン……好きにせよ」と、その随行を黙認した。
2. パレンバン、空の神兵と魔王
輸送機の扉が開いた。眼下には広大な密林と、戦略的要衝・パレンバンの製油所が広がる。
「さぁゆくぞ! 日ノ本の『空の神兵』たちに、本物の戦を教えてやるは!」
まず飛び出したのは、陸軍挺進連隊の精鋭たち。白球のようなパラシュートが次々と空に咲く。
「がはは! 俺も続くぞ! 清姫、見ておれよ!」
秀久はパラシュートも着けず、愛槍を抱えて雲海へとダイブした。
「……狂うておるな。だが、それが良い」
信長は不敵に笑い、マントを翻して虚空へ身を投げた。隠神刑部、喜左衛門狸も、それぞれの化け術で煙に巻きながら、急降下を開始した。
3. 苛烈なる油田強襲
地上では、英蘭連合軍の機銃掃射が、降下してくる日本兵を迎え撃っていた。
「撃たせるな! 弾丸をすべて『木の葉』に変えてやれ!」
空中で喜左衛門が印を結ぶと、敵が放った無数の弾丸がヒラヒラと枯れ葉に変わり、風に舞った。
「そこだ、野郎ども! 狙い撃て!」
地上に降り立つや否や、隠神刑部が拳銃を乱射する。狸の法力がこもった弾丸は、敵の装甲車を紙細工のように貫通した。
「信長様! 敵の防衛線、この秀久が突き破りまする!」
秀久の槍が一閃するたびに、真空の刃が敵兵をなぎ倒す。その後ろから、信長がゆったりと歩を進める。彼が通る道は、魔王の覇気によって敵兵が恐怖に縛られ、指一本動かせぬ「死の空間」と化した。
4. 天下布武の再演
「パレンバン……この油、日ノ本の血肉となる。……天海に代わり、余がこの世界の理を書き換えてくれるわ」
信長が製油所の塔を見上げ、不敵に宣言した。
上空では、挺進兵たちのパラシュートが勝利を祝うかのように舞い、地上では狸たちの化け術が敵を翻弄し続けている。
異界の力と現世の兵術。その融合が、南方の戦場を一方的な蹂躙へと変えていた。
その頃、帝都では滝夜叉姫ががしゃどくろと共にローレライが繰り出したゴーレムと戦っているとも知らずに。




