第6話 帝都防衛の陣 ——惜別の火と鋼の急襲——
帝都防衛の陣 ——惜別の火と鋼の急襲——
1. 陸軍参謀本部、怪異と将星の合議
昭和十七年、深夜の帝都。陸軍省の一室では、現世の常識を遥かに超越した軍議が執り行われていた。白熱灯の下、広げられた大判の帝都地図を囲むのは、陸軍大臣・阿南惟幾と、異界の精鋭たちである。
「……なるほど、内地守備に妖怪たちを配するか。合理的であるな」
織田信長が、地図上の神社仏閣を指先で叩く。傍らに立つ参議篁が、静かにその意図を補足した。
「日ノ本の霊脈……その結節点たる社や寺には、古より蓄積された祈りの神気が満ちている。異界の者たちは、その恩恵を受けることで現世でも十全の妖力を振るえる。いわば、日本全土を巨大な霊的要塞とするわけだ」
阿南大臣は、信長の鋭い眼光を真っ向から受け止め、深く頷いた。
「承知いたした。我ら陸軍高射砲部隊も、全力でその術を援護いたします」
2. 天狐と阿古町の憂い
軍議の喧騒から少し離れた窓辺で、天狐と白狐・阿古町、そして滝夜叉姫が夜の帝都を見つめていた。
「……五月(滝夜叉姫)様、ご覧なさい。この街に満ちる人々の暮らしの灯を。これを絶やしてはなりませぬわ」
天狐が、透き通るような穏やかな声で語りかける。
「そうじゃな、天狐殿。全くその通りじゃ!以前の妾は怒りに任せて戦ったが、此度は民草の為に戦うぞ!そのためにはなんだってやる!」
滝夜叉姫が鼻息荒く宣言すると、阿古町が温かな狐火を灯し、彼女の頭を優しく撫でた。
「ほっほっほ、相変わらず勇ましいねぇ。でもね、五月様。力だけで守れるものばかりじゃないんですよ。……天狐殿、私たちが起こす『風』、今のこの国にどれほど届くでしょうかねぇ」
阿古町の問いに、天狐は一瞬、悲しげに目を伏せた。
「……今はまだ、分かりません。ですが、日ノ本の神仏がこの国を見捨てぬ限り、私たちは最後まで風を送り続けましょう。たとえ、それが最後のひと吹きになろうとも」
3. 南方出征、天下布武の夢
「だが、守るだけでは勝てぬ。……阿南、余と秀久は外地へ出る。南方、南の海へな」
信長の決断に、室内が再び緊張に包まれる。
「信長様……! いよいよにございますな!」
仙石秀久が甲冑を鳴らす。
「がはは! 異界での雌伏は、この瞬間のためにあったか! 異国の王を平らげ、今度こそ真の『天下布武』を成し遂げて見せましょうぞ!」
信長は不敵に笑い、地図の南方を強く叩いた。かつて安土で潰えた夢が、現世の戦場という巨大な舞台で再び燃え上がろうとしていた。
4. 惜別の焔、清姫の涙
「嫌ですわ……! 嫌ですわぁ、殿(秀久)!」
出陣前夜。庭園の片隅で、清姫が秀久の胸に飛び込み、泣きじゃくっていた。
「清姫、そう泣くな。俺は不死鳥の権兵衛だぞ。必ずや手柄を立てて、お前の元へ帰ってくる」
「分かっております……けれど、暫しの別れも身が裂けるほどに辛いのですわ! ああっ、もう、連れて行ってくださいまし! 妾が火を吹いて、敵の船を全部溶かして差し上げますわ!」
「清姫、お前は内地で滝夜叉姫を助けねばならん。……頼む、俺の留守を、この国を護ってくれ」
秀久が清姫を強く抱きしめる。清姫はその腕の中で涙を拭い、
「……必ず、必ずお戻りあそばせ。一刻でも遅れたら、地獄の果てまで追いかけて焼き尽くしますわよ!」と、彼女らしい愛の言葉で送り出した。
5. 空の異変、急襲の咆哮
阿南との会議から数日後の早朝。信長、秀久は既に南方飛び立つ為に軍用トラックで飛行場に向かっていた。
まもなく、太平洋方面から帝都へ向かってくる不気味な爆音が切り裂いた。
「……来たか!」
滝夜叉姫が陸軍庁舎の屋根の上に立ち、北の空を指差す。
雲を割り現れたのは、ドーリトル中佐率いるB-25爆撃機隊。だが、その機影の背後には、魔女ローレライの放つ紫の霧が渦巻いていた。
「フフッ……見つけたわよ、日本の妖怪ども」
地上には、帝都の建物を紙細工のように踏み潰す鉄の巨神——アイアンゴーレムが、その巨大な影を落としていた。
「……ありんすねぇ。野暮な鉄屑を連れて、朝帰りとは感心せんでありんしょう」
紅葉が爪を研ぎ、滝夜叉姫が叫ぶ。
「総員、配置につけ! 帝都の民は、一人として傷つかせぬ! 日ノ本の底力、見せてやろうぞ!」




