第5話 帝都百鬼夜行 ——禁忌の巨兵と魔王の降臨——
帝都百鬼夜行 ——禁忌の巨兵と魔王の降臨——
1. 欧州の禁忌、ゴーレム召喚
異界から這々の体で退却した双子の魔女は、現世の列強軍が接収した古城の地下で、屈辱に震えていた。
「姉様……あの骨の化け物、絶対に許せませんわ! 私の誇り高き鎧を、あんな野蛮な死骸で汚すなんて!それにあの鉄の棒を振り回す小娘....こんなに腹が立つのは初めてですわ!」
ヴァルキュリアが、刃の欠けた戦斧を叩きつける。
「……落ち着きなさい、ヴァル。数で勝てぬなら、こちらの理で塗り潰すまでよ」
ローレライが、禍々しく拍動する巨大な泥の心臓を祭壇に捧げる。
「かつて神に挑んだ泥の人形よ。すべてを喰らい、あの『がしゃどくろ』を握り潰す鉄槌となれ。禁断秘術・アイアンゴーレム!」
暗黒の魔力が渦巻き、数千の鉄甲船の残骸と呪われた泥が合体していく。滝夜叉姫の巨躯に対抗しうる、科学と魔術を融合させた無機質な巨神が、音を立てて産声を上げた。
2. 深夜の帝都、百鬼夜行
一方、凍てつく冬の深夜。月すらも雲に隠れた午前二時、帝都・東京。
誰もいないはずの大手門前の空間が、にわかに歪んだ。
「……ここが現世の帝都であるか。随分と煤けた匂いがするのお」
滝夜叉姫が、大太刀を背負い、漆黒の闇から音もなく降り立った。
その背後からは、異界の猛者たちが続々と姿を現す。
軍帽を正す隠神刑部、火を噴く蛇を纏った清姫、剛力を誇示する茨木童子。そして、魔王の威厳を放つ紅葉と信長。
その後ろには、のっぺ、ぬりかべ、けうけげん、おさん狸といった数多の妖怪が列をなし、さながら絵巻物から抜け出した百鬼夜行が帝都の夜を支配した。
3. 陸軍の最敬礼
静寂を破ったのは、整然とした軍靴の音であった。
待ち受けていたのは、参議篁が事前に冥府の経路を通じて密かに接触していた、日ノ本の守護者たち。
「……総員、捧げ銃!」
鋭い号令が飛ぶ。
そこに立っていたのは、陸軍大臣・阿南惟幾を筆頭とした、陸軍の中枢幹部たちであった。彼らは目の前に現れた異形の軍勢に対し、恐怖ではなく、救国の希望を見るような眼差しを向けていた。
阿南大臣が先頭に歩み出ると、滝夜叉姫と、その隣に立つ信長の前で足を止め、深々と腰を折って最敬礼を捧げた。
「……お待ちしておりました。日ノ本、そして帝都の危急に際し、古の英傑、並びに異界の神々が御光臨あそばされたこと、心より感謝申し上げます」
後ろに控える将校たちも、一斉に不動の姿勢で敬礼を捧げる。
4. 決意の集結
「がはは! 面白い、現世の武士もまだ骨のある奴が残っておったか!」
仙石秀久が豪快に笑う。
「……ありんすねぇ。この熱気、かつての安土を思い出すでありんしょう」
紅葉が信長の顔を覗き込む。信長は阿南の目を見据え、短く頷いた。
「……阿南とやら。余らは国を救いに来たのではない。余らの庭を汚す無礼者を、成敗しに来たのだ、案内せよ」
滝夜叉姫は阿南を見上げ、明朗な声で宣言した。
「阿南殿、案ずるなで! 妾たちが来たからには、異国の魔女も、海を埋め尽くす鉄甲船も、残らず成敗じゃ!」
深夜の帝都。月光が雲の間から差し込み、妖怪と軍人が肩を並べて歩き出す。それは、現世と異界が手を取り合った、開戦の序曲であった。




