第2話 冥府からの警告、新たなる敵
1. 冥府からの警告、新たなる敵
安土の火を逃れ、新坂東の平穏は、冥府の役人・小野参議篁の来訪によって破られた。篁が翳した「浄玻璃の鏡」には、黒煙を上げる日ノ本の街並みと、海を埋め尽くす異国の鉄甲船が映し出されている。
「……滝夜叉姫、並びに信長。現世の欧米列強は、日ノ本の神仏妖怪の加護を恐れ、軍を進める前に『異界』そのものを根絶やしにする策に出た」
篁の声は地獄の冷気を孕んでいた。
「彼らは自国の伝説に謳われる強力な妖魔を解き放ったと聞いておる。これは日ノ本と西欧、双方の神話が激突する『最終戦争』の始まりである」
「……フン、面白い。異国の王が余の首を狙いに来るというわけか」
織田信長が、不敵な笑みを浮かべて愛刀圧切りを撫でる。
「篁よ、その妖魔とやら、余の天下布武の障害になるか?」
「……単なる障害では済まぬ。現世の霊脈を断ち切る、呪いの楔だ」
2. 双子の妖魔、降臨
その時、里の結界が激しい衝撃と共に震えた。空に亀裂が走り、そこから二人の女が舞い降りる。一人は薄紫のドレスを纏い、妖艶な歌声を口ずさむ魔女。もう一人は白銀の鎧に身を包み、身の丈ほどもある戦斧を担いだ戦乙女であった。
「姉様、姉様。ここが日本の異界なんですの? なんだか湿気臭くて、私の肌が荒れてしまいそうですわ」
戦乙女、ヴァルキュリアが戦斧を地面に突き立て、傲慢に周囲を見渡す。
「フフッ、ヴァル。文句を言わないの。この地の霊力を吸い尽くせば、私たちはもっと美しくなれるわよ」
姉の魔女、ローレライが指先で空間をなぞると、周囲の森がみるみるうちに枯れ果てていく。
「わあ! 私たちの里が……お花さんが死んじゃう!」
のっぺが悲鳴を上げ、ぬりかべが必死に子供たちを庇う。
3. 異界軍勢の咆哮
「そこまでじゃ、無礼者ども! 妾の国で好き勝手はさせぬぞ!」
滝夜叉姫が大太刀を担ぎ、先頭に立って吠えた。その瞳には、かつての闇堕ちを乗り越えた「正義の姫」としての光が宿っている。
「マジうける。姉妹たった2人で乗り込んでくるとか、ウチら舐めてんの?」
その隣で、茨木童子が肩を回し、禍々しい棘の付いた「鬼の金棒」を軽々と振り回した。
「あんたの斧とウチの金棒、どっちが硬いか試してあげようか? ヴァルだかサルだか知らないけど、そのピカピカの鎧、ボッコボコのにしてあげるよ!」
「……ありんすねぇ。海の向こうの小娘共が。妾の煙管の火で、その綺麗な髪を縮れさせて差し上げんしょう」
紅葉が花魁道中を歩くが如き優雅さで歩み出る。背後には、清姫と仙石秀久が夫婦並んで武器を構えていた。
4. 嵐の前の静寂
「滝夜叉、そして紅葉。……浮き足立つな。これは戦だ」
信長の低く響く声が、一同の動揺を鎮めた。信長は腰の刀を抜きはせず、冷徹な軍略家の目で敵の動きを観察している。
「隠神刑部、喜左衛門。奴らの足元を狙え。おさん狸、幻術で奴らの距離感を狂わせろ。……余が合図するまで、決して深追いするな」
「了解だ。……野郎ども、弾を詰めろ! 相手は神話の化け物だ、一発たりとも無駄にするんじゃねえぞ!」
隠神刑部の怒号と共に、タヌキ兵たちが一斉に銃を構える。
「……ふふふ、来なさいな。八百万の神々の末裔たち。あなたたちの絶望、どんな歌になるかしら」
ローレライが不気味に微笑み、ヴァルキュリアが戦斧を上段に構え直す。
異国の神話と日ノ本の怪異。
相容れぬ二つの理が激突する直前、異界の空気は火薬のような緊張感に包まれた。
「さあ、覚悟せよ! 日ノ本の意地、その身に刻んでくれるわ!」
滝夜叉姫の宣戦布告が、最終戦争ラグナロクの開幕を告げる。




