第1話 異界の平穏と冥府の来客
極東の落日、異界の進軍
1. 異界の平穏と冥府の来客
安土の炎を離れ、異界「常世の隠れ里」に逃れた一行を待っていたのは、驚くほど穏やかな日々であった。
信長は姉・紅葉の奔放さに振り回されつつも、のっぺやぬりかべといった無邪気な妖怪たちに囲まれ、天下人の重圧から解き放たれた時間を過ごしていた。滝夜叉姫もまた、かつての明朗快活さを完全に取り戻し、里の子供たちのリーダーとして野山を駆け回っている。
しかし、その平穏は突如として破られた。
里の中央にある「冥府の門」が不気味な鳴動を上げ、一人の男が姿を現したのである。
束帯姿に身を包み、鋭い眼光を放つその男——冥府の役人にして伝説の歌人、小野参議篁であった。
「……滝夜叉姫、並びに第六天魔王の血族よ。久しいな」
篁の声は、死者の国の冷気を帯びていた。
「篁ではないか! 冥界の役人がこのような場所まで何の用じゃ!? 妾たちに、また地獄の掃除でも手伝えと言うのじゃろう!」
滝夜叉姫が大太刀を肩に担ぎ、快活に笑う。
「……笑い事ではない。現世が、未曾有の危機に瀕している。地獄の亡者どもが溢れ出すほどの、大戦が始まったのだ」
2. 未曾有の危機:欧米列強の侵攻
篁が翳した鏡に、現世の惨状が映し出された。
そこには信長や滝夜叉姫が知る「弓矢と刀」の戦ではなかった。巨大な鉄の浮き城が海を埋め尽くし、空からは火の鳥のごとき鉄の塊が爆炎を落としている。
「な、何という戦さか、これは……! 山が、街が一瞬で火の海に……!」
滝夜叉姫の顔から血の気が引く。
「現世の軍勢だ。彼らは科学という名の魔術を用い、日ノ本の霊脈を土足で踏み荒らしている。このままでは、日ノ本の神気は枯れ果て、我ら異界の存在もろとも消滅するだろう」
篁の言葉に、里に集まっていた猛者たちが顔を見合わせた。
「……ありんすねぇ。妾たちの遊び場を、海の向こうの野蛮人どもに壊されては堪りんせん」
紅葉が煙管をきつく燻らせる。
「……姉上の言う通りだ。日ノ本を統べるのは、余か、あるいは余に連なる者のみ。異国人に渡す道理はない」
信長が、かつての魔王の眼光を取り戻して立ち上がった。
3. 異界会議:決意の軍勢
「隠神刑部、そなたはどう思う? 兵隊上がりのそなたの目から見て、勝機は見えぬか!?」
滝夜叉姫の問いに、隠神刑部は軍帽を深く被り直し、苦虫を噛み潰したような顔で鏡を見つめた。
「……正直、まともな戦じゃ勝ち目はねえ。あいつらの武器は、天海の三段撃ちを万単位で並べたようなもんだ。それに、俺たちが戦った旅順の戦さよりも高度な兵器が使われているようだ、だが……」
刑部は腰の拳銃を撫でる。
「俺たちの術と、信長公の戦術、そして滝夜叉姫様の突破力を合わせりゃ、鉄の塊なんてただのガラクタに変えてやれる。どうだおさん、いけるか?」
「もちろん、どうということはないねぇ」
「天狐、そなたは?」
滝夜叉姫が天狐に視線を向ける。天狐は静かに微笑み、頷いた。
「この国を護るのは我らの使命...天の加護は、常に我らと共にありますわ」
4. 滝夜叉姫の宣誓:再び現世へ
滝夜叉姫は一同を見渡し、大きく息を吸い込んだ。その瞳には、かつて父・将門が夢見た「民が笑える国」を守るという、純粋で力強い光が宿っていた。
「決まりじゃな! 篁、閻魔大王に伝えよ! 日ノ本の危機、この滝夜叉姫が率いる異界の軍勢が、一刀両断に打ち砕いてくれるわ、とな!」
「清姫、秀久殿も連れてくるのじゃ! 夫婦の愛で、異国の船を焼き尽くすがよい!」
「勿論ですわ、久しぶりに秀久様と暴れてやりますわ!」
「さあ、出発じゃ! 目的地は、帝都東京! 異国の無礼者どもに、本物の『鬼の力』を見せつけようぞ!」
滝夜叉姫が太刀を天に突き上げると、隠れ里の空に異界の門が大きく開いた。
かつての敵も味方も、今は一つの軍勢。
滝夜叉姫を総大将に据えた、最強の妖怪武将軍団が、蒸気と硝煙に包まれた激動の現世へと再び舞い戻る。
新章突入




